4年後の再起が難しくなった国民党  アンディ・チャン

総統選挙にも立法委員選挙にも大敗北を喫した中国国民党は、今後、どういう道を歩んでいくの
か。民進党や時代力量の大躍進から目を転ずれば、国民党の行方が気になってくる。

 アンディ・チャン氏は国民党の大物議員がどれほど落選したかを詳しく述べ、「4年後の国民党
の再起は難しくなった」と分析している。同感だ。

 ただし、再起は難しくても、立法委員が少なくなったがゆえに先鋭化する可能性がある。これ
は、このような選挙の敗北や内部分裂によって規模が小さくなった集団の多くに見られる現象で、
集団内の原点に戻ろうとする勢力が強くなるからだ。

 つまり、国民党は元来の主張である中国との終極統一をより鮮明にし、中国との関係を緊密化す
る可能性が高くなる。そうなると、台湾にはいささか厄介な場面も出てくることが予想される。日
本やアメリカにとっても、南シナ海問題や尖閣問題にも関係してくることが予想され、やはり厄介
な問題を引きずり出してくることが予想される。

 ただし、これは台湾の民意からよりいっそうかけ離れることになり、国民党はさらに分裂して崩
壊への道を歩むことにもなる。いささか極端な言い方になるかもしれないが、8年後には消滅して
いることも考えられる。民意を無視した末路でもある。

 なお、アンディ・チャン氏の原題は「台湾選挙の首実検」だったが、いささか分かりにくいかも
しれないと考え「4年後の再起が難しくなった国民党」と改題したことをお断りする。


台湾選挙の首実検  Andy Chang
【Andyの国際ニュース解説No.577:2016年1月17日】

 台湾の選挙は一般に国民党(藍軍)と民進党(緑軍)の「藍緑合戦」と言われる。選挙の結果は
多くの新聞が報道したので改めてここでお浚(さら)いすることはないが、国民党側の自己評価で
は「完全なる惨敗」だそうだ。総統選挙はすでに蔡英文の大勝利と報道されたからここでは立法委
員選挙で国民党の大将首を何個取れたか検討してみる。

 立法委員選挙では台湾の中央部を東西に流れる濁水渓以南の諸県市で国民党は一席も取れず全滅
した。國民黨の勢力範囲と言われた北部でも新北市では12議席のうち2席しか取れず、台北市は8議
席のうち5席、桃園市は6議席のうち2席、台中市は8議席のうち3席しか確保できなかった。まさに
完全な惨敗である。立法委員の選挙議席73席のうち国民党は20席しか取れなかった。

 選挙の結果、朱立倫は国民党主席を辞任し、行政院長・毛治國も辞任した。大きな打撃は国民党
の重鎮や大将クラスの人物が枕を並べて討ち死にしたことである。このため4年後の国民党の再起
は難しくなった。

 最大の損失は基隆市で国民党のカク龍斌、親民党の劉文雄が民進党の蔡適応に敗北したことであ
る。2人とも大幹部だった。

 カク龍斌は台湾の軍部に隠然たる勢力を持つカク伯村の息子で、元台北市長、国民党副主席など
の経歴があり、2020年の総統選挙の有力候補と言われていた。

 カク伯村は元参謀総長で中華民国の軍隊の重鎮、ラファイェット巡洋艦、ミラージュ戦闘機、マ
ジックミサイルなどの武器購買でいろいろ問題があった人物である。

 息子のカク龍斌は台北市長時代に花卉博覧会、ゴンドラ遊園地、夢幻音楽会などで実費の数倍と
言われた膨大な無駄遣いがあったので、退任して汚職の調査を逃れるため立法委員に立候補したと
言われた。

 今の台北市長が就任してすぐに過去4代の市長、馬英九とカク龍斌の土地開発が大問題となり、
犯罪調査が2人に及ぶと言われている。カク龍斌は落選し、馬英九も任期が終わると司直の追及を
逃れることが出来なくなる。

 カク龍斌が出馬した基隆市は親民党の劉文雄の地盤である。カク龍斌がここで選挙にでたため劉
文雄と票の取り合いとなって2人とも落選した。劉文雄は親民党の党首宋楚瑜の右腕と言われる人
物だが、今回の選挙では何故か宋楚瑜が劉文雄を比例代表に選らばなかったため地元で立候補して
落選した。つまり民進党の蔡適応が当選したのでカク龍斌、劉文雄の2人の大物が討ち死にしたの
だ。

 台北市はこれまで国民党の根拠地として知られていたが、今回は第1区で国民党の重鎮、当選7回
の丁守中が民進党に敗れて落選した。第5区では、当選7回の林郁方が時代力量党の新人候補林昶佐
に5千票差で敗れた。桃園市第6区では、当選5回の孫大千が無党派の趙正宇に敗れて落選した。こ
の3人は国民党の重要幹部で当選確実と言われていたが、落選したあと政界復帰は難しいかもしれ
ない。

 もう一人の大物は、新北市第12区で当選7回の李慶華が時代力量党の黄國昌に12000票の大差で落
選したことだ。李慶華は国民党の元老で元行政院長・李煥の息子である。

 また、高雄市第3区では、国民党の大物で、元大陸委員会副主任・張顕耀が民進党の劉世芳に3万
票の大差で落選した。高雄市第3区は国民党の退役軍人の住居が林立している区域で民進党の当選
は難しいと言われていた地区である。彼の落選は外省人、退役軍人の居住地区でも国民党の影響力
が薄れたことを示している。これは重要なことで、馬英九の不評だけでなく、外省人も中国統一を
忌避するようになったことである。

 最後に今回の選挙では幾つかの民間組織が合同で「落選運動」を発起し、国民党の呉育昇、廖正
井と張慶忠の3人の落選に成功した。

 「落選運動」は人民主人基金会、島国前進、国会調査兵団など、幾つもの団体が集まって発起し
た運動である。選挙運動で民間団体が政敵落選を組織したのは恐らく世界で初めてであろう。この
運動では呉育昇、廖正井、張慶忠の3人の落選を目標とし、3人とも落選させたのである。

 呉育昇は元台北市の新聞処主任で馬英九の子分と言われた人物である。本人は選挙運動で「私は
馬英九の子分ではない」と弁解していたが無駄だった。

 張慶忠は2年前に国会で馬英九の「服務貿易協議」を取り上げ、審議もなく30秒で「賛成通過」
と宣言したのでヒマワリ学生運動の導火線となった。「半分忠(39秒忠)」と綽名された人物であ
る。

 桃園市第2選挙区の廖正井は元台北市財政局長、秘書長などを歴任した立法委員で前回の立法委
員選挙で買票行為があったと言われた人物である。

 民間団体が以上の3人を落選させる「落選運動」を推進した結果は100%成功だった。政治家にふ
さわしくない人物を落選させるための団体運動が成功したのである。ダメな政治家を落選させる運
動が成功したのは人民の政治意識が成熟した結果かもしれない。

 戦い済んで日が暮れて、5月に新政権が発足する。国会は数日後に補足するが総統の就任は5月20
日である。5月までの4か月は政治の空白期間ともいえる。この期間に現職の馬英九が勝手な行動を
起こすとは思えないが注意して見守る必要がある。

 国民党の完全惨敗は台湾アイデンティティの発露であり、馬英九の中台統一路線は大幅に後退
し、国民党と中国が強引に推し進めた嘘の「92年コンセンサス」は問題でなくなる。中国の台湾併
呑計画は失敗したのである。

 但し、民進党政権が誕生してもすぐに独立運動が起きるとは思えない。蔡英文の主張する現状維
持は台湾海峡の安定発展となる。台湾人は動乱を望まない。独立は気長に穏便に推進すべきであ
る。

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