この地震被害に、台湾からは東日本大震災に続くあたたかい支援の手が差し伸べられたことはいまだ記憶に新しいところです。
実はこの益城町は、台湾で「大甲の聖人」としていまでも慕われている志賀哲太郎(しが・てつたろう)の生まれ育った故郷です。
2年前の平成27年(2015年)は志賀哲太郎の生誕150年に当たり、熊本の有志は「志賀哲太郎先生生誕150年記念顕彰会実行委員会」をつくり、翌年5月に記念講演会を開催しようと準備を進めていました。ところが、その4月に襲ったのが熊本大地震でした。
しかし、甚大な被害をもたらした地震にめげず「志賀哲太郎顕彰会」の方々は、なんとしても志賀哲太郎を顕彰したいと再び立ち上がり、来る12月2日に「志賀哲太郎研修会」を開くことになりました。
案内状には「志賀哲太郎は、歴史に埋もれさせるには余りにも惜しい偉人であり、志賀を歴史の表舞台に立たせることは、熊本県民にとっては、新たな郷土の誇りを見出すこととなり、それが、復興の力ともなりえます」と、再起した思いを記しています。
お近くの方はぜひご参加のほどお願いします。
—————————————————————————————–志賀哲太郎研修会のご案内
台湾で「大甲の聖人」として崇められている志賀哲太郎は、益城町田原の出身です。慶応元年(1865)に、鍛冶屋・志賀甚三郎の長男として生まれました。
その2年前に近くの杉堂村で徳富猪一郎(蘇峰)が生まれています。蘇峰がジャーナリストとして活躍したことはよく知られていますが、志賀もまた、青年時代は、政治結社紫溟学会会員、国権党党員、そして九州日日新聞(熊本日日新聞の前身)の記者として、佐々友房、古荘嘉門、安達謙三(いずれも後に衆議院議員となり大臣や県知事などを務めた)らと全国を飛び回って政治活動を展開し、政界の三闘士の一人とまで言われていました。
しかし、やがて政界の醜悪さに嫌気がさして教職の道を志し、明治29年(1896)、日清戦争後に日本が領有したばかりの台湾に渡ります。2年ほどして台中県大甲村の公学校(台湾人の小学校)の雇教員(代用教員)になります。志賀は、儒教や仏教に精通し、英語も学び、明治法律学校(明治大学の前身)では法律学を専攻した学識者でしたが、それらの履歴を一切表に出すことなく、台湾の人々に一人の人間として対等の立場で接し、台湾の子どもたちの教育に黙々と従事しました。
当時の台湾社会は識字率が低く、教育の概念すらない状況でしたが、志賀は粘り強く教育の充実に努め、やがて大甲の街から台湾各界の要職を占める人材を数多く送り出すことになります。
また、志賀は、植民地となって新たな社会制度に戸惑う台湾人街民のよき相談相手ともなり、総督府の官憲と台湾人の仲介者として様々な難題を解決し、一介の雇教員でありながら、街民にとっては庇護者のような存在となっていきました。志賀は一切の履歴に封印をしていましたが、隠れた宝石の光がどこからか漏れ出るように志賀の存在は自ずから異彩を放ち、人々はいつしか志賀のことを「大甲の聖人」と呼ぶようになっていました。
しかし、四半世紀の時が経ち、台湾人の教育レベルが内地並みに向上するにつれ、民族意識の高揚に伴う独立運動が大甲の街でも激しくなっていき、志賀は、総督府と台湾人の間で板挟みとなって悩みを深めます。
しかも、あるトラブルから、最大の生きがいであった教職の道を閉ざされることともなり、終に、入水して自決するに至ります。そこには、多分に、総督府の政策に対する無言の抗議の意味合いがあったに違いありません。
教え子や大甲街民は驚き悲しみ、街を挙げて聖人の死を惜しみ、神をまつる祭礼を以て志賀を弔いました。
大甲の街では、百年を経た今日においても、世代を超えて聖人志賀の遺徳を敬い、語り継いでいます。
志賀哲太郎は、歴史に埋もれさせるには余りにも惜しい偉人であり、志賀を歴史の表舞台に立たせることは、熊本県民にとっては、新たな郷土の誇りを見出すこととなり、それが、復興の力ともなりえます。
とりわけ、子どもたちにとっては、身近に郷土の先人を仰ぐことがどれほど大きな心の支えになり、励みになるかわかりません。
益城町の皆様にも、郷土の偉人・志賀哲太郎を知って頂きたく、下記のとおり、研修会を開催いたします。
志賀哲太郎は、遠からずして、熊本の偉人として知られていく人です。ぜひ、この機会をお見逃しなく、ご参加くださいますよう、ご案内申し上げます。
平成29年(2017年)10月吉日
志賀哲太郎顕彰会
記
・日 時:平成29年12月2日(土) 10時から12時まで
・場 所:益城町保健福祉センター「はぴねす」多目的室
・講 演:「大甲の聖人志賀哲太郎の生き方の魅力」 松野陽子氏(益城町文化財保護委員)
「台湾教育の礎を築いた熊本人〜平井数馬と志賀哲太郎」 白濱 裕氏(熊本大学非常勤講師)
・参加費:無料
・申込先:志賀哲太郎顕彰会事務局(090-1087-6213・090-8399-4854)又はお知り合いの会員 ※ ご氏名と所属団体等をお知らせください。 先着100名で締め切らせていただきます。
・その他:熊日で紹介された「志賀哲太郎小傳」と本会会誌2号(資料等の冊子)を差し上げます。