NHKの「JAPANデビュー」を「犯罪性」と呼んで徹底批判していた檜山幸夫教授

NHKは檜山氏の承諾をえないまま勝手に名前を掲載していたとも指摘

 NHKが「NHKスペシャル シリーズ JAPANデビュー 第一回 アジアの“一
等国”」を放映してから2年半が経つ。放映後は3,000件にも及ぶ批判が寄せられ、翌年2月
には1万355人というわが国裁判史上初の1万人を超える人々が原告となって損害賠償を求
める裁判も起こされている。裁判は来る10月7日に第9回目となる口頭弁論が行われるが、
裁判を通じてNHKの取材がいかにデタラメで、台本に合わせて出演者の言葉をつまみ食
いしていたことも明らかにされつつある。

 この番組では「日台戦争」なる用語が使われ、いかに日本の台湾統治が弾圧と差別に満
ちたものだったかを描こうとした。番組の最後に流れるエンドロールで「資料提供者」、
すなわち番組の協力者として研究機関や個人の名前が出てくるが、「日台戦争」なる用語
を自著の中で使っている中京大学教授の檜山幸夫(ひやま・ゆきお)氏もその一人だっ
た。

 ところが、檜山氏は昨年の春に出版した『明石元二郎関係資料』という本の中で、NH
Kのこの番組を「犯罪性」という言葉まで使い、5つの観点から徹底的に批判していた。ま
た、なんとNHKは檜山氏の承諾をえないまま、勝手に名前を掲載していたとも指摘して
いるのである。

 檜山氏は「最も大きな犯罪性とは……口述記録の信頼性を完璧に失墜させたところにあ
る」「この番組・作品の犯罪性とは、第一が……捏造性という問題」「我々歴史研究者を
愚弄する以外の何ものでもない」と、番組を批判する口吻は激烈といっても過言ではない。

 このような檜山氏の指摘は、私どもが「やらせ」「捏造」と言って批判してきたことと
ほぼ同じだが、檜山氏は、相手と信頼性が確保されていなければ成立しない「口述記録」
という学問分野に取り組んでいるそうで、「NHKの問題は、この信頼性の原則そのもの
を揺るがした」と、その怒りの根は深い。

 檜山幸夫氏は現在、中京大学社会科学研究所長をつとめ、台湾史研究センターの長もつ
とめているという。それらのNHK批判は、中京大学社会科学研究所台湾史研究センター
編になる『明石元二郎関係資料』中、檜山氏自身が書いた序文にあたる「『明石元二郎関
係資料』の発刊にあたって」で述べられている。下記に該当部分をそのまま紹介したい。

 なお、檜山氏はこの発刊の辞で「日台戦争」という用語についても触れているが、それ
はNHKが番組で使ったような皮相で政治主義的な使い方とは違い、あくまでも学問とし
て追究している姿勢は真摯だ。「征台戦役・台湾の役、日台戦争といった中では日台戦争
が最も適切な表記であると考えたに過ぎない」と述べる。しかし「歴史的事件の名称には
様々なものがあり、これでなければならないといった絶対的なものはない」「名称そのも
のを問題とするそのこと自体が異常ではなかろうか」とも述べ、NHKのような使い方を
批判しているのである。

 NHKは「日台戦争」という用語にこだわるあまり、当時の日向英実・NHK放送総局
長が経営委員会において「現代の専門家による新しい学会があり、『日台戦争』と呼ぼう
ということになっています」「日本台湾学会という学会があります。……そこの考え方で
す」(平成21年5月26日)と答えたことを思い出す。しかし、この発言が大嘘だったこと
は、番組の「資料提供」にも名前が出てくる日本台湾学会の春山明哲理事長に確認してす
でに明らかになっている。

 NHK「JAPANデビュー」裁判の弁護団は、この檜山幸夫氏の「発刊にあたって」
も原告側資料として東京地裁に提出する。


『明石元二郎関係資料』の発刊にあたって 檜山幸夫
(中京大学社会科学研究所台湾史研究センター編『明石元二郎関係資料』2010年3月31日刊、
発行:中京大学社会科学研究所、発売:創泉堂出版)

◆P12

実は、一月二日の聞き取り調査の申し入れをした際に、荒井氏から筆者とNHKが二〇〇
九年四月五日に放送した問題の作品「JAPANデビュー」の「アジアの”一等国”」との
かかわりについて問われた。この作品が、我々台湾で日本統治史を研究している者にとっ
て大きな影響をもたらしていることは敢えて言うまでもない。このため、この作品を製作
し放送したNHKの担当者には厳重に抗議しその影響の解消についての善処方を申し入れ
たその結果、昨年の五月一五日(金)と六月二六日(金)に、NHKの担当者が本学研究
所に来所し事実経過の説明とそれに対する弁明・弁解と謝罪がなされた。しかし、その後
担当者が了解したと思っていた事柄に対してNHKは何らしかるべき措置を講じることは
なく、このためさらに少なからざる被害を受けた。

◆P14

口述記録では、その記録の客観性と信頼性が生命である。従って、特定の目的で意図的に
自分の主張にあった内容を話者・証言者に語らせたり証言を誘導したり、さらに話者や証
言者を選択選別したりすることから、そのなかから恣意的に言葉を抜き出し証言として用
いるということは絶対にしてはならない。「JAPANデビュー─アジアの”一等国”」の
最も大きな犯罪性とは、かかる聞き取り調査の仕方とそこで採集した口述記録を意図的に
且つ恣意的に切り貼りして話者・証言者に語らせ、そこで発した言葉がもたらす影響に対
する責任を彼ら話者・証言者に負わせるという、オーラルヒストリーの本質にかかわる口
述記録の信頼性を完璧に失墜させたところにある。

◆P15

言うまでもないが、この番組・作品の犯罪性とは、第一が番組制作者が話者・証言者なり
口述者の口述した音声記録を切り貼りして話者・証言者なり口述者の意図と全く異なる内
容に意図的に作り替えたという捏造性という問題、第二が番組制作者の政治的主張・歴史
観・価値観などを話者なり口述者が語った「ことば」を恣意的に抽出し創作して「語らせ
る」という責任転嫁という問題、第三が作品を公開する際に公開する内容について話者な
り口述者の了承や了解を得ていないという問題、第四がこの作品を放送したあとに多くの
関係者や視聴者からの批判、およびこの作品が放送されたことによって様々な被害にあっ
た人びとの抗議などに対して、責任を転嫁するか回避するだけで何等の責任を取ることす
らないという問題、第五は作品を製作し放送した限りは、その制作者はその作品にかかわ
って起こる総ての問題について責任をとらなければならないが、この作品の制作者もNH
Kも全く責任をとることもせず、却って如何にその責任追及から逃れるかに奔走している
といった点にあろう。この中で敢えて指摘しなければならないのは、この作品の中でNH
Kは日本の過去の犯罪と功罪を追求しているにある。勿論、そのことに間違いや異論があ
るのではない。問題と思われるのは、そのような他者の責任を追及している立場にある者
が何故に自ら起した問題(上記の五点)について、自らがその責任を負わないのかと言う
ことにある。自らの責任を問うことも負うこともない者が、明治・大正・昭和の日本の政
治家や軍人、財界人や知識人、兵士や農民を含む多くの日本人の罪を問うことが出来るの
かといった、素朴な疑問を抱いたからにほかならない。この程度の作品に見られる問題の
責めを負うことも償うことも出来ない者が、一体「日本の近現代史を見つめ直そうとす
る」(平成二一年六月一七日「シリーズ・JAPANデビュー第1回「アジアの”一等国”」
に関しての説明、NHKホームページから引用」ことが何故できるのか。他人の責任を問
う者は、先ず自らの責任を問い負わなければならない。

◆P16

ましてや、日本という国家や日本国民や日本人の歴史を問うならば、なおさらではなかろ
うか。さらに、番組の製作担当者には指摘しておいたが、歴史史料をどの様に使おうと自
由ではあるが、例えば匪徒刑罰令を語るのにその文書が何を記録し、それによって何が判
り、どこに問題があるのかを何ら語ることもなく、敢て台湾総督府文書を壁紙のように並
べ印象性だけを求めようとした描き方はこの文書の文化的価値を唱え守ってきた我々歴史
研究者を愚弄する以外の何ものでもない。

 このような、問題作を製作し放映したNHKとその制作担当者と、私及び本学研究所と
の関係であるが、それはいうまでもなく作品に記された「協力者」に番組制作者が勝手に
私と中京大学社会科学研究所の名前を載せたことにある。勿論、制作担当者は放映の直前
に名前を掲載することについての問い合わせをしてきてはいた。だが、私はこれに承諾を
出していない。それは、この作品の内容について全く知らされていないことにある。日台
の関係は決して単純ではない。私や本研究所のように、三〇年余りにわたって台湾と深く
かかわり台湾のナショナリズムと台湾の政治に悩まされてきた経験からして、この番組の
ような微妙で繊細な問題に触れるテーマは安易に取り扱ってはいけないと感じていたから
であった。それ故、NHKの申し入れを断ったのである。このため、当然にして私と大学
研究所の名前が入っていると知ったときには非常に驚かざるを得なかった。さらにより深
刻な問題になったのは、この番組の製作と監修に、私もかかわっていた科学研究費補助金
基盤研究(A)海外学術調査プロジェクトの名目上の研究代表者の立場にいる研究者がかか
わっていたことであった。この科研は、台湾人の口述歴史の採集分析という「台湾オーラ
ルヒストリー科研」ともいうべき「台湾口述歴史研究」を主題としたもので、まさしく学
問としての聞き取りの調査論から記録論にいたるオーラルヒストリー学の基礎の構築にあ
ったからにほかならない。

◆P17

このため、この放送を見た同僚の研究者から、この研究に対する全面的不信感が伝えられ、
さらに手厳しい批判を受け、口述記録に対する信頼性を完全に失ったのである。私は、こ
の科研による研究にとって最も重要なのは、オーラルヒストリーを一つの学問領域にする
こと、つまり「口述記録」を歴史史料化することと、そのためには歴史史料学的には何を
しなければならないかを歴史史料論的に考えることにあると考えていた(『台湾口述歴史研
究』第1集、参照)。その根底にあるのは、口述記録の信頼性の原則の確保であった。NH
Kの問題は、この信頼性の原則そのものを揺るがしたところにあり、それに我々の重要な
メンバーがかかわっていたことにある。



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