阮銘著『共産中国にしてやられるアメリカ』−正攻法の論理に感嘆[宮崎 正弘]

【1月6日付 宮崎正弘の国際ニュース・早読み「今週の書棚」より転載】

■阮銘『共産中国にしてやられるアメリカ』(草思社)
http://www.soshisha.com/book_search/detail/1_4794215541.html

 副題にあるのは「民主台湾の孤立を招いた歴史の誤り」とあって、このことからも内容
が推察できるだろう。
 本書は元中国共産党のエリートだった筆者が赤裸々につづる北京の陰謀とそれにうち負
かされそうなアメリカの外交的失敗を暴露し、あやまった歴史解釈の本質に迫る。
 通読して第一印象は、なんと大上段にふりかぶった正攻法な論理であろうかと感嘆した
ことである。
 履歴をみるとなるほど胡耀邦のブレーンだったが、疎まれて中国から米国へわたり、台
湾へ亡命。その後、台湾国籍を得ている人物。筋金入りの反共の闘士である。
 おそらく、こうしたきまじめな、或いは愚直ともいえる中国戦略分析は、いまの台湾に
あってさえ台湾独立運動関係者や台湾団結連盟につどう諸氏にしか通じないだろうと思わ
れる。それほど台湾の政治的緊張感が弛緩しているのである。

 著者はヤルタ会談でルーズベルトがいかに騙されたか、というところから論考を始めて
いる。
 たとえば下記の記述。
「ブッシュ大統領は、ラトビア共和国の首都リガでの演説のなかで初めて、『ヤルタ協定』
がヨーロッパの半分をソ連共産帝国の奴役の下に陥らせたという過ちを認めた」(154p)。
「しかしながら天安門の虐殺と東欧の第二次解放があいついで起こったとき、アメリカの
政治リーダーが考えたのは、自由の火で奴役(ヌイ)制度の最も暗い隅を照らすことでは
なく、奴役制度国家の暴君と協力関係を保ち、その暴虐統治下の『偽りの安定』を維持す
ることだったのである。
 アメリカの政治リーダーは、表、裏二つの手法をとったのだ。一方で、公衆に向かって、
虐殺者を譴責(けんせき)し、暴政を制裁すると言いながら、もう一方ではひそかに虐殺
者に好(よしみ)を通じ、協力関係を探り、その『安定』を助け、自由の大国と奴役制度
の大国との『バランス・オブ・パワー』を維持したのである」(同p)。

(ここで使われる「奴役制度」とは筆者独特のターム。独裁共産主義を指す)

 近年はレーガンをのぞいてカーターは世界戦略を読み違えて台湾との断交へとといたり
、先代ブッシュ、クリントンも中国にまんまと騙された。毛沢東から!)小平の代理人に成
り下がったのがキッシンジャーだった。
 江沢民政権初期には北京の代理人に成り下がって中国の論理を買弁したのがブレジンス
キーと、クリントン大統領自身だった。アーカンソー知事時代のクリントンは台湾贔屓で
あったのに巨額を示されるところりと転ぶのだ。
 反中国派にみえたブッシュ・ジュニアにも、北京はその外交路線を修正させるために巧
妙に近づき、米国内に於ける“中国の代理人”を発掘するために、胡錦濤がつかった人物
は鄭必賢(中国改革開放論壇理事長)であった。

 この箇所は注目である。

 この鄭必堅となぜか馬があって、突如米中関係は「ステーク・ホルダー」などと言いだ
したのがゼーリックだった。
 鄭必賢こそは、一頭一尾、日和見主義の典型的文章家で、じつに華国峰、!)小平、胡耀
国、趙紫陽、江沢民につかえて時代を特色付ける理論とスローガンを考え出した。もちろ
ん胡錦濤の「和平崛起(くっき)」なるスローガンも、この鄭の発案とされる。
 天の配剤か、ゼーリックは国務副長官を辞任し、後任にネゴロポンテが指名されたのは
、この1月4日の出来事だ。
 民主党が多数をしめる議会の承認を得やすいようにとの配慮で、国連大使だったボルト
ンも辞任に追い込まれ、これで米国政権のトップに中国とコトを構えようとする戦略家は
不在となった。
 またもや米国は中国に「してやられている」のだ。
 次期大統領の呼び声高いコンドレーサ・ライス国務長官はイラクの泥沼から抜け出すた
めに北朝鮮問題を中国に丸投げし、旧敵・北京と握手して「戦略的パートナー」と賞賛し
はじめた。もともと彼女はロシア専門家であり、アジア問題の対応はネグロッポンテの所
管に移る。
 かくて台湾の味方は米国に不在状態となり、危機はますます高まっていると著者は警告
している。

◎宮崎正弘のホームページ http://www.nippon-nn.net/miyazaki/
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