特別予算総額約8800億台湾ドル(約3.2兆円)に及ぶ大規模インフラ整備事業計画「前瞻基礎建設
計畫」を発表した。
林全・行政院長が自ら説明したこの「未来のインフラ整備計画」は5つの分野と38ものプロジェ
クトからなるといい、各分野の投資額を規模の大きい順に並べると以下のようになる。
・軌道整備(軌道建設) 4241億3300万元(日本円約1兆5328億円)
・水生環境整備(水環境建設) 2507億7300万元(日本円約9062億9863万円)
・都市と地方の建設(城郷建設) 1372億元(日本円約4958億円)
・デジタル建設(数位建設) 460億6900万元(日本円約1664億9428万円)
・グリーンエネルギー建設(緑能建設) 243億1500万元(日本円約878億7489万円)
日本経済新聞はこの整備事業計画について「大規模なインフラ投資で内需を刺激し、景気の回復
傾向に弾みをつける狙い」があり「鉄道新線や水資源、都市整備が中心で、現地での実績が豊富な
日本企業の参画にも期待」していると報じている。
また「今回の投資は景気の刺激に加え、中国に過度に依存した経済構造の転換も目的となる」と
も指摘していて、蔡英文総統が昨年5月の総統就任式でまず第一に「経済構造の転換」を挙げたこ
とを思い出させる。
蔡総統はこの演説で「我々が台湾経済のイノベーションをしようとするには、今から決意し勇敢
に別の道を歩んでいかなければなりません。この道は、台湾経済発展の新しいモデルを構築するこ
とです」と述べ、そのために「従来の単一市場に依存し過ぎた現象と決別する」と宣言し、中国へ
過度に依存している経済構造から脱するとした。
続いて、蔡総統は次のように述べていた。
「経済発展と同時に、我々が忘れてはならないのが、環境への責任です。経済発展の新しいモデル
は国土計画、地域の発展、環境の永続性と相互に結びついていくものとなります。産業の展開と国
土の利用については、ばらばらな計画や目先の利益といった考えを止めるべきです。我々は地域の
バランスある発展を追求していかなければならず、これは、中央の政府が計画、統合していく必要
があり、地方自治体も地域が連合して治めるという精神を大いに発揮していく必要があります。」
つまり、今回発表した大規模インフラ整備事業計画は、まさに蔡総統が就任演説で述べた「経済
構造の転換」を図る計画に他ならない。蔡英文政権は総統就任演説で台湾の人々に約束したことを
着々と実行していると言えよう。
下記に行政院のホームページで発表された「前瞻基礎建設計畫」報告と日経新聞の記事をご紹介
したい。
◆行政院院會報告「前瞻基礎建設計畫」,打造下一世代所需基礎建設
http://www.ey.gov.tw/News_Content.aspx?n=4E506D8D07B5A38D&s=5BB499BE2247F7AD
台湾がインフラ投資3.2兆円計画 8年間で、鉄道新線など
【日本経済新聞:2017年3月23日】
【台北=伊原健作】台湾の蔡英文政権が大型のインフラ投資に乗り出す。行政院(内閣)は23
日、2017年からの8年間で約8800億台湾ドル(約3.2兆円)を投じる計画を発表。大規模なインフラ
投資で内需を刺激し、景気の回復傾向に弾みをつける狙いだ。鉄道新線や水資源、都市整備が中心
で、現地での実績が豊富な日本企業の参画にも期待する。
「台湾の競争力向上と現代化を推進する」。林全・行政院長(首相)は同日の記者会見で強調し
た。計画を盛り込んだ特別予算の条例案を同日、閣議決定。立法院(国会)での審議を経て5月中
にも成立させたい意向だ。林氏は「(日本企業は)風力発電やデジタル産業、鉄道に非常に強く、
協力のチャンスがある」と期待を示した。
予算の半分弱に当たる4241億台湾ドルは鉄道関連につぎ込む。北部の基隆と台北を結ぶ次世代路
面電車(LRT)の新設や南部・高雄の地下鉄の延伸などが目玉となる。資料で列挙したプロジェ
クトの総数が38に上る大がかりな計画だ。
台湾の鉄道整備は日本企業が深く関わる。南北をつなぐ台湾高速鉄道(新幹線)は、日本が新幹
線技術を初輸出した案件だ。今月2日には北部で丸紅や川崎重工業、日立製作所がシステムなどを
手掛けた都市鉄道(MRT)の新線が正式に開通。新たな受注を探る動きが活発化しそうだ。
水害の防止に向けた河川やダムの整備や、水不足の解消に絡むプロジェクトには2507億台湾ドル
を投じる。都市や道路の整備には1372億台湾ドルを投資する。地震など災害への備えを厚くし、居
住や企業の投資環境を改善する。
台湾の16年10〜12月期の実質域内総生産(GDP)は前年同期比2.88%増。同1〜3月期まで3四
半期連続のマイナス成長だったが、回復が鮮明だ。ただ中国向けのIT(情報技術)輸出がけん引
する構図は不変だ。今回の投資は景気の刺激に加え、中国に過度に依存した経済構造の転換も目的
となる。
データセンター建設など、デジタル産業の振興に460億台湾ドルを投じる。「日韓やシンガポー
ルなどにデジタル関連のインフラで後れをとるわけにはいかない」(林氏)といい、クラウドや人
工知能(AI)の事業環境を改善する。太陽光や風力発電にも243億台湾ドルを投資し、新エネル
ギー産業を育成する。
蔡政権の経済政策は東南アジアとの連携強化など中長期的な内容が中心だった。今回の計画は
「人々の生活に関わり、恩恵を直接実感しやすい」(台湾師範大学の范世平教授)のが特徴だ。蔡
氏が5月20日に就任1年の節目を迎えるのを前に、政権の求心力を回復させる狙いとの見方もあ
る。