葉菊蘭女史、大いに台湾政治を語る [宮崎 正弘]

わたしは台湾政治の理想の伝道師、総統選挙は台湾人が勝つ

 昨夜、鄭南榕烈士夫人で、民進党の総統選挙候補者、謝長廷氏の副総統に目されてい
る葉菊蘭・前高雄市長の講演会が日本台湾医師連合の主催によりホテルオークラ東京で
開かれた。本会も後援に名を連ねている。

 司会は謝雅梅さん(本会理事)、通訳は林建良氏(本会常務理事)。許世楷大使、盧
千恵大使夫人、金美齢さんなど300名ほどの聴衆に向かい、「現代台湾人の歴史的使命」
と題して歯切れよく講演した。

 冒頭、自分が大切にしていることとして「客家人であること、女性であること、台湾
人であること、そして台湾政治理念の伝道師であること」を披露し、「謝長廷氏の『台
湾維新』に呼応したい」として、台湾人意識の萌芽から説き起こし、「命を賭しても台
湾を守らなければならない」と訴えた。

 懇親会では金美齢さん、宗像隆幸氏(本会理事)、柚原正敬氏(本会事務局長)、片
木裕一氏(台湾研究フォーラム副会長・本会理事)、萩生田光一氏(衆院議員)、宮崎
正弘氏(本会理事)などがスピーチした。

 宮崎正弘氏が今朝発信の「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」で講演の内容を要領よ
く詳しく伝えているので、転載してご紹介したい。           (編集部)


わたしは台湾政治の理想の伝道師、総統選挙は台湾人が勝つ
葉菊蘭女史、大いに台湾政治を語る

【7月9日 宮崎正弘の国際ニュース・早読み 第1856号】

 葉菊蘭女史が来日した。

 彼女は鄭南容烈士の未亡人。現在、台湾の国会議員(民進党)。元高雄市長。閣僚経
験者。世情では、次期総統選挙で、「副総統」候補に推されるだろう、と言われている。
すでに一部の台湾マスコミは「葉菊蘭副総統候補で決定」と報道を流している。

 鄭南容烈士は「台湾の三島由紀夫」と言われ、外省人ながら台湾独立に挺身し、当時
制約のあった雑誌に改憲論文を掲載(その改憲試案を書いたのが現駐日大使の許世楷氏
だった)、官憲が踏み込む前に事務所に火をはなって壮烈に自決した。

 最愛の夫をなくした葉菊蘭は台湾政治の理想のために政治家になった。

 さて謝長廷・民進党公認候補(元高雄市長)は8月15日までに副総統の候補を決めると
して党内調整に入った。

 民進党の党内事情から言えば、派閥均衡、党内統一の文脈からも蘇貞昌(前首相)が
有力。しかし国民党が馬英九・粛万長の正副チケットで走り出した以上、世情にもっと
も人気の高い人間を選ぶことになるだろう。

 7月8日、葉菊蘭女史はホテルオークラで講演した。葉菊蘭女史の講演要旨は以下の
通り。

▼台湾国民はなぜ政治に冷淡になりつつあるのか

 台湾国民が政治に冷淡になったのは与野党それぞれの内部抗争に嫌気しているからだ。
あの喜ばしい政権交代(2000年)のあと、なぜ新しい国家に台湾は生まれ変われなかっ
たのか。

 国民の「台湾人意識」はどう変わったのだろうか。

 台湾2300万国民のうち、外省人300万人は竹の中に住む。公務員が多い。客家が400万
人いるが、ホーロー語がわからない(ホーロー語とは福建語の台湾化した現地語。台湾
語ともいう)。

 最近、ベトナム、インドネシアからの花嫁も増え、新しい台湾人の母親にもなってい
る。

 18年前、私が立法委員(国会議員)となったとき、台湾人意識が薄く、自身を台湾人
と認識している人は5%もいなかった。

 いまでは台湾人と自己認識している国民が70%。しかし同時に中国人であると認識し
ている国民も多い。

 かように台湾人のアイデンティティは複雑多様。

 蒋経国も馬英九も「台湾は中国の一地方」という認識は同様で、台湾を独自の文化圏
とは認識していない。

 もともと日本植民地時代の抗日を通して台湾人意識が芽生え、二二八事件でクライマ
ックスとなった。この国を守ろうというアイデンティテイが生れた。

▼台湾も「普通のくに」をめざす

 孫文を支援していたころの日米欧は、かれの中華ナショナリズムをも支援したわけで
はなかった。

 しかし、今後台湾を正常な国家、普通のくににしてゆくためには旧敵とも『和解』し
なければならない。

 民進党が和解を主唱しているのは、与党としての自信であり、外省人にも手をさしの
べて、政治に冷淡だった客家にも呼びかけ、台湾のために「共生しよう」と言っている
のだ。

 わたしは台湾政治の理想の伝道師である。

 共生のあと、問題は中国である。

 武力による威嚇、軍事的脅威である中国といかに台湾政治は対応していくのか。

 民主、法治の台湾は脅威を拒絶する権利があり、わたしたちは犠牲を恐れず、この台
湾の国民、生命、財産を守るべきである。正義を守るべきである。私は理想の伝道師、
私心はなく、国家に尽くしたい。

 多数が少数を尊重し、強者は弱者を救わなければならず、また経済成長が環境を破壊
してはならず、人と人とは多元的価値を尊重し、まごころで当たらなければならない。

 台湾は国際的に孤立している。

 国際間のコミュニケーションのネットワークを確立することも台湾の安全保障に繋が
る。

 国連から追い出された中華民国の幻の体制を脱却し、濃い孤独感を克服し、国際社会
に正義を問うべきである。

  ♪
 講演のあと、質疑応答が一時間以上も続けられ、聴衆は熱心に聴き入った。許世楷大
使夫妻も最後まで席を離れなかった。

 その後、懇親会が開催され、小生も出席。なごやかな雰囲気となって金美齢、林健良、
宗像隆幸の各氏から挨拶があった。小生も指名されたので簡単なスピーチをした。