自己情報コントロール権を侵害したNHK

NHK「JAPANデビュー」裁判において、小田村四郎・日本李登輝友の会会長ら原
告がどのような主張をしてきたのか、それがよく分かるのは、控訴審の第3回口頭弁論に原
告(控訴人)が提出した「第二準備書面」だ。いささか長い書面となるが、NHKのこの
番組が憲法上のどの条文に抵触したかがよく分かるので、全文をご紹介したい。

 なお、掲載に当たって、見出しを「自己情報コントロール権を侵害したNHK」と付
し、漢数字を算用数字に改め、読みやすさを考慮して改行していることをお断りする。


NHK「JAPANデビュー」裁判 控訴審「第二準備書面」

 控訴人高許月妹がいかなる人権侵害を受けたかについて述べる。

1 裁判所におかれては、せめて本件番組の二場面だけは直接視聴していただきたい。

 一場面は、番組冒頭に出てくる。「50年間の日本統治を象徴する2枚の写真です。人間動
物園。そして台北第一中学校の生徒たち」というナレーションとともにパイワン族の集合
写真に「人間動物園」、学生の集合写真に「台北第一中学校」というと字幕が付き、次い
でナレーションは人間動物園の写真の解説として「台湾の先住民族です。およそ百年前、
日本は彼らをロンドンに連れて行き、博覧会の見せ物として展示しました。」と続くが、
台北第一中学校については何の解説も無い。

 ところで、当該パイワン族の集合写真はパイワン族の民族衣装をまとった12人の青年と
引率者の日本人一人が写っているだけで、極く普通の写真であるから、視聴者に強烈な印
象を呼び起こすものはこの「人間動物園」という言葉と字幕だけである。 

 もう一場面は、番組中程で、「当時イギリスやフランスは、博覧会などで、植民地の
人々を盛んに見せ物にしていました。人を展示する人間動物園と呼ばれました。日本はそ
れを真似たのです」というナレーションとともに、裸のインド人が曲芸をしている写真に
「人間動物園」という字幕を付し、次いでフランス人学者が人間動物園の解説をした後、
高士村の場面となり、「およそ百年前日英博覧会に連れて行かれたのはこの村の出身者た
ちでした」、「展示された青年の息子許進貴さん」というナレーションに続いて許進貴の
顔がクローズアップになり、まだ許進貴が写っている状態のときに、控訴人高許月妹の笑
い声とともに「かなしい」という音声があり、その後カメラは高許月妹に向けられる。ナ
レーションは「そして、娘の高許月さんです。父親の名は、チャバイバイ・プリャルヤ
ン。チャバイバイさんは生前、博覧会について子どもたちに語ることはありませんでし
た」と続く。

2 以上の2場面を視聴した視聴者は、ただ一人の例外も無く、控訴人高許月妹は、父親が
人間動物園として展示されたことについて「かなしい」と発言したと理解する。

 しかしながら、これまでに繰り返し述べたように、控訴人高許月妹は、父親が百年前に
イギリスで屈辱的な経験をさせられたという認識は取材前には全然有しておらず(それは
被控訴人も認めている)、取材時にその旨の説明も受けておらず(被控訴人は、「見せ
物」という言葉を使ったことだけを主張しているが、仮に使ったとしても控訴人高許月妹
はこの意味を理解できなかった)、従って「かなしい」の発言は博覧会とは何の関係も無
く、もちろん人間動物園や見せ物という言葉に触発されてなされた言葉でもないのである。

 それにもかかわらず本件番組では「かなしい」が人間動物園に関連付けられているので
あるから、以下に述べるとおり、控訴人高許月妹の人格権が著しく傷つけられたことは明
らかである。

3 憲法13条は新しい権利としてプライバシーの権利を認めている。プライバシーの権利
は、当初は一人にしてもらう権利として理論構成されてきたが、近年では自己の情報をコ
ントロールする権利として位置づけることが通説となっている(甲第60号証の1)。

 この自己情報コントロール権の権利内容の中に、自己の情報を全く異なる場面や趣旨の
ものとして公表されない権利が存在する。例えば自己の写真を何の関わりもない犯罪者の
写真として公表されるような場合である。

 これを本件に即して考えれば、「かなしい」との発言は、単に父親を懐かしんで哀惜す
る気持の表現に過ぎず「人間動物園」とは無関係であるにもかかわらず、これについての
発言として放送されたのが本件である。控訴人高許月妹は、取材を受けたときの映像や発
言などの自己情報をコントロールする権利が根底から否定されたのであり、人格的利益を
侵害されたことは明らかである(甲第60号証の1)。

 しかも、パイワン族の人々の世界観は、近代的な個人主義と異なり、パイワン族の一人
が侮辱されたら、それはパイワン族全体の侮辱と考える世界観を今も維持しており、高士
村では、日英博覧会のことは「美しい記憶として後世に語り継がれてきた」とされており
(控訴人高許月妹らのNHKへの公開質問状、甲第19号証の2)、その中で、控訴人高許
月妹はその一員であるにもかかわらず、父親が人間動物園として展示され動物扱いされた
ことを認めて悲しんだという放送をされたのであるから、二重三重に情報コントロール権
が侵害されたのである。

4 「人間動物園」と「見せ物」は全く次元の異なる概念である。

 「見せ物」は辞書によれば「珍しい物・曲芸・手品などを人に見せる興業」、「多くの
人におもしろがってみられること。また、そのもの」ということであり(甲第61号証)、
演劇もスポーツ放送も一種の見せ物である。

 ところが人間動物園は、人間を動物として展示するということであり、国語辞典にも載
っていない異常な言葉である(少なくとも『大辞林』・『広辞苑』にはない)。

 被控訴人は、「見せ物」と「人間動物園」は同じ範疇の概念であるかのように強弁する
が、それならパイワン族集合写真の字幕を「見せ物」とすればよかったのである。「見せ
物」では平凡過ぎて番組の衝撃度が少ないから敢えて「人間動物園」としたところに被控
訴人の主張の破綻がある。誰よりも被控訴人自身が両方の言葉が全く異なる印象を与える
ことを自覚しているはずである。

 しかも、写真そのものは、民族衣装を着たパイワン族たちの普通の姿形を写したもので
あるから印象が弱い。そこで、原始人と見紛う裸のインド人の写真を用いたり、高士村取
材の後に入手したフランス人学者の解説を用いて人間動物園の陰惨なイメージを視聴者に
植え付けた上で、実際の取材順序を無視して控訴人高許月妹の取材場面を切り貼り編集し
たのであって、悪質極まる意図が歴然としている。

 ましてや被控訴人は当該番組で「日本はそれを真似たのです」というナレーションを放
送し、日本は日英博覧会でパイワン族を「人間動物園」として展示し見せ物とすることで
虐げたという印象操作を行った。

 しかし、日本は決してイギリスやフランスを「真似た」のではない。日本がパイワン族
を日英博覧会に派遣するようになったのは、日英博覧会の主催者である「日英博覧会余興
部シンジケート」からの要請があったからに他ならない。

 日英博覧会は開催された明治43年時、日本は台湾総督府の民政長官大嶋久満次(甲)
は、日英博覧会余興部シンジケート(乙)との間で契約を結び、その契約の三には「甲ハ
生蕃人ヲシテ日英博覧会会場ニ在テ乙ノ指定スル建物又ハ場所ニ生蕃人ノ生活状態ヲ作ラ
シメ公衆ニ示スコトヲ約ス」とあり(甲第10号証の末尾から2頁目)、日本は主催者側か
らの要請に基づいてパイワン族24名を「博覧会ニ出場」させていたことが明瞭に示されて
いる。

 被控訴人が当該番組で放送したような「人間動物園」として展示することを意図して出
場させたのではない。

 契約書には「日本貨幣一円ノ日当ヲ支給スルコト」や「台湾ニ帰社ヲ希望スルトキハ何
時ニテモ乙ノ費用ヲ以テ台湾蕃社ニ帰社セシムルコト」ともあり、パイワン族を厚遇しよ
うとする日本側の意図も明らかに読み取れる。

 しかし、日英博覧会を訪れた「台湾日日新聞」の記者も書いているように「キラルヒー
なる博覧会代表者の欲深い猶太人が此等のものを呼物として博覧会の繁盛させる手段に供
されたので、我々は此の仕打ちに甚だ不感服であるが、今更後悔しても取り返へしの付く
話ではないから泣寝入の外はない」という状況で(甲第4号証の2)、主催者側の態度に
も批判的である。

 従って、契約書や台湾日日新聞の記事があるにもかかわらず、被控訴人は「日本はそれ
を真似た」として、パイワン族を「人間動物園」として見せ物にしたとして当該番組を放
送したのであるから、そこに悪質極まる意図があったこともまた歴然としているのである。

 「人間動物園」は、被控訴人が提出した乙第26号証の1においても、明らかに人種差
別、植民地支配の現象あるとして分析されている。たとえば、乙第26号証の1の目次の第
1部の7は「フランスと西洋における科学的人種差別主義から大衆的植民地的人種差別主
義へ」(From Scientific Racism to Popular and Colonial Racism in France and the
West)と題されていることからも、「人間動物園」が価値中立的な用語でないことは明ら
かである。これに反し「見せ物」には、一般的には価値中立的な用語である。被控訴人
は、この二つの言葉を使い分けてパイワン族の一員である控訴人高許月妹の父親を侮辱し
たのである。

5 島田ディレクターは、取材時に使用した言葉の中で不愉快な感情を呼び起こす言葉は
「見せ物」だけだったと証言している。この「見せ物」という言葉が使用されなかったこ
とは控訴人高許月妹及び控訴人陳清福が断言しているが、仮に使用されたとしても、控訴
人高許月妹は全く理解できなかった。

 それは高許月妹の日本語能力から明らかであり、さらに言えば、この番組の趣旨は単な
る「見せ物」ではなく、父親が「見せ物にされた」ということにある。両者は異なる意味
を持っている。「見せ物にする」という言葉は一つの明確な意味を持つ連語であってこの
ニュアンスが控訴人高許月妹に理解されるはずがないのである。

6 要するに、本件番組において、被控訴人は、控訴人高許月妹が父親の写真を見て笑い
ながら「かなしい」と述べたことを被控訴人は、一般視聴者が、控訴人高許月妹が父親が
動物扱いされたことが「悲しい」と述べたと理解するように狡猾な編集をしたのである。

 これは、控訴人高許月妹が父親の写真を見て笑いながら、「なつかしい」と述べた趣旨
を歪曲し、または、百歩譲って「悲しい」と述べたとしても、父親の遺骨が自宅に戻って
こなかったこと、あるいは一般的にもう父親に会えないのだという趣旨を述べたのにもか
かわらず、その趣旨を歪曲して一般視聴者に伝えられたことを意味し、控訴人高許月妹に
精神的打撃を与えるものである。

 すなわち、控訴人高許月妹の自己情報コントロール権を侵害するものである。


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