一部を覆して、「人間動物園」が博覧会参加者の娘である原告の高許月妹さんの名誉を傷
つけたとして、NHKに100万円の損害賠償金の支払いを命じた。
NHKは「高裁判決は名誉毀損に関する従来の最高裁判断とは異なる」として上告した
が、東京高裁の控訴審判決を法曹界はどう見ているのかいささか気になっていた。折しも
「弁護士ドットコム」で、石井龍一という兵庫県弁護士会に所属する弁護士が「妥当な判
決」と述べていることを紹介していた。下記にその全文を紹介したい。
NHKスペシャルの「差別的表現」は違法 「高裁逆転判決」のポイントは?
【弁護士ドットコム:2013年12月29日】
NHKのドキュメンタリー番組に出演した台湾先住民族の女性らが「名誉を傷つけられ
た」などとしてNHKを訴えた裁判で、東京高裁は11月下旬、100万円を支払うよう命じる
判決を下した。一審の東京地裁では、女性らが全面的に敗訴していたが、高裁でひっくり
返った形だ。
問題とされた番組は、2009年4月に放送されたNHKスペシャル「シリーズJAPANデビュ
ー」の第1回で、戦前の日本の「台湾統治」を検証する内容だった。裁判の焦点は、この女
性の父親らが日英博覧会(1910年)で紹介されたことを、番組が「人間動物園」と表現し
た点だった。東京高裁の判決は、表現の違法性を認定し、番組が女性らの心に「深い傷を
残した」と指摘した。
逆転判決のポイントは、いったいどんな点だったのだろうか。石井龍一弁護士に聞いた。
●「民族の誇りを持って日英博覧会に参加した」という見解も有力
「高裁判決のポイントは、放送で用いられた『人間動物園』という表現が史実に照らして
も誤っている点を詳細に検証したうえで、そのような表現が原告女性の心をどれほど傷つ
けるものだったかについて、詳細に考慮した点にあると思います」
石井弁護士はこのように指摘する。高裁はどんな考察を行ったのだろうか。
「高裁判決では、台湾先住民族の人たちが『自分たちの伝統を世界の人々に紹介したい』
という気持ちで、民族の誇りを持って日英博覧会に参加したと考える見解も有力だと指摘
されました。
つまり、彼ら先住民族の間では、父や祖父の世代が博覧会に参加したことが、よい思い
出と考えられているというのです」
番組内での扱い方はどうだったのだろうか?
「ところが放送では、日英博覧会での出来事を『人間動物園』と表現し、あたかもその民
族が『野蛮で劣った植民地の人間であり、動物園の動物と同じであるかのよう』に扱われ
ていた、という意味に取れる過激な表現が用いられました。
判決は、そういった表現が、先住民族の人たちやその子孫の人たちの人間としての人格
を否定し、侮辱するものだったと判断したのです」
価値観やモノの見方は、見る人によって異なるのでは?
「放送事業者には、もちろん表現の自由が認められます。しかし、先入観に基づいて安易
に人種差別的な表現を使用し、人の心を踏みにじるような番組があってはならないことは
当然です」
石井弁護士はこのように述べたうえで、今回の判決について「妥当な判決だと思いま
す」と話していた。
なお、NHKは12月11日付で最高裁に上告した。裁判の行方に、引き続き注目が集まり
そうだ。
【取材協力弁護士】
石井龍一(いしい・りゅういち)弁護士
兵庫県弁護士会所属 甲南大学法学部非常勤講師
事務所名:石井法律事務所