台湾への定期的な武器売却や高官の台湾訪問などを提唱する内容が盛り込まれているというこの法案について、中央通信社は「インド太平洋地域における米国の長期的戦略と政策原則の制定を求めるもので、日本や韓国、オーストラリア、東南アジア諸国との安全保障や経済における連携を強化するもの」と伝える。
法案のさらに詳しい内容については、岡崎研究所が7月に発表しているので、別途、紹介したい。また、黄文雄氏が「中南米で行われている米中の代理戦争」として執筆しているので、これも別途ご紹介したい。
米国はこれまで、対台湾政策について「米中間の3つの共同コミュニケ」と「台湾関係法」に基づく「一つの中国政策」(”one China” policy)を維持すると表明してきたが、この法案では「台湾への武器供与の終了期日を定めない」などを謳う「台湾に対する『6つの保証』」を加え、台湾との関係をさらに強化する狙いのようだ。
ちなみに、米中間の3つの共同コミュニケとは、1972年2月28日の上海コミュニケ、1979年1月1日の国交樹立に関するコミュニケ、1982年8月17日の第2上海コミュニケを指し、いずれも中国が「台湾は中国の一部分であると主張していることを認識(acknowledges)している」とする立場を表明し、外交用語の「承認する(approve)」や「同意する(concur)」は使用していない。
また、米国連邦議会の上院は2016年7月6日、「『台湾関係法』と台湾に対する『6つの保証』を米台関係の基礎とすることを再確認する第38号両院一致決議案」を可決しており、国務長官となるティラーソンは2017年1月11日、米連邦議会の国務長官指名承認公聴会において「三つの米中コミュニケ」と「台湾関係法」に加えて「台湾に対する『6つの保証』を挙げて対中・対台湾政策の基礎だと述べていた。
中国が南シナ海ばかりでなく、パナマ共和国、ドミニカ共和国、エルサドバトル共和国など米国の裏庭と言われる中米やカリブの国々と台湾を断交させ、さらには西太平洋の台湾と国交を結ぶパラオ共和国にも圧力をかけるなど、その覇権的行動はますます顕著になっている。
米国はパナマ、ドミニカ、エルサルバドルの大使を召還して当該国に米国の意思を伝えたが、中国の軍事力を背景としたこの強引な拡張政策は、今後も中米、南シナ海、西太平洋地域における平和と安定に対する最大の脅威であり、日米が協調する「自由で開かれた印度・太平洋地域戦略」にも対抗している。
そこで9月4日、「アジア再保証イニシアチブ法案」提出者とほぼ重なる、共和党のコリー・ガードナー議員、マルコ・ルビオ議員、民主党のエド・マーキー議員、ボブ・メネンデス議員は「台湾に不利となる行動をとった国に対し、外交関係のレベルの引き下げや、軍事的融資などの支援の一時停止または変更などの措置をとる権限を米国務省に与える」内容の法案(「台北法」(TAIPEI Act:Taiwan Allies International Protection and Enhancement Initiative Act)を議会に提出している。
この法案にも注目してゆきたい。
————————————————————————————-米上院、台湾への定期的な武器売却を提唱する法案可決【中央通信社:2018年12月6日】
(ワシントン 6日 中央社)米上院は4日、台湾への定期的な武器売却や高官の台湾訪問などを提唱する内容が盛り込まれた「アジア再保証イニシアチブ法案」(ARIA)を全会一致で可決した。
同法案はインド太平洋地域における米国の長期的戦略と政策原則の制定を求めるもので、日本や韓国、オーストラリア、東南アジア諸国との安全保障や経済における連携を強化するもので、台湾を支持する米国の立場も明確に示された。
事前に発表された草案によると、台湾に関する部分では、定期的に武器を売却することや、今年3月に成立した「台湾旅行法」に基づき、高官の台湾訪問を奨励することなどを大統領に促している。
「台湾関係法」と「台湾に対する6つの保証」、「米中間の3つのコミュニケ」に基づき、台湾との約束を着実に履行する米国の姿勢も示された。両岸(台湾と中国)関係については、米国は現状を変えることには反対で、両岸双方が受け入れられる方式で平和的な争議解決を望むとした。
法案は上院外交委員会のコリー・ガードナー議員(共和党)、マルコ・ルビオ議員(同)、エド・マーキー議員(民主党)らによって今年4月に提出された。上下両院を通過した後、大統領に送付される。大統領がこれに署名するか、または10日以内に拒否権を行使しなければ自動的に発効する。
(鄭祟生/編集:塚越西穂)