この「アジア再保証イニシアチブ法案」は上院が12月4日、下院は12月12日にそれぞれ全会一致で可決していたため、トランプ大統領が拒否権を行使しなければ自動的に成立し、トランプ大統領が署名しても成立することになっていたが、下記に紹介する日本経済新聞によれば「トランプ氏が拒否権を発動しても、議会が再可決し法律が成立する状況になっていた」という。しかし、予想どおりトランプ大統領はサインして成立させた。
この法案は「自由で開かれたインド太平洋」の実現を目指し、この地域における米国の国益(安全保障、経済、価値)促進を定めており、日本やオーストラリアなど同盟国との防衛協力強化とインドとの戦略的パートナーシップの強化、台湾への武器売却や高官訪問などのコミットメント、2国間や多国間の新たな貿易協定の交渉権限を大統領に付与し、人権や民主的価値の尊重など米国がこれまで支持してきた価値観を促進してゆくことを定めている。
米国はこれまで、対台湾政策について「米中間の3つの共同コミュニケ」と「台湾関係法」に基づく「一つの中国政策」(”one China” policy)を維持すると表明してきており、この法案では「台湾への武器供与の終了期日を定めない」などを謳う「台湾に対する『6つの保証』」を加え、トランプ政権と連邦議会が一体となって中国にあらたな圧力をかけた形だ。
台湾政府は即座に感謝の意を表したが、中国は当然ながら「台湾問題は中国の内政問題であり、中国の核心的利益と中国人民の民族感情に関わっており、如何なる外部による干渉も容認できない。『一つの中国』原則と中米間の3つの共同コミュニケをしっかりと守り、台湾に関わる諸問題を適切に処理するよう米国側に求めたい」(1月2日「中国国際放送局」)と反発している。
ちなみに、この法案は今年4月24日に共和党上院議員のコリー・ガードナーとマルコ・ルビオ、民主党上院議員のベン・カーディンとエド・マーキーが超党派で上院に提出していた。
————————————————————————————-米、中国けん制へ新法成立 台湾と軍事協力推進【日本経済新聞:2019年1月1日】
【ワシントン=中村亮】トランプ米大統領は31日、アジア諸国との安全保障や経済面での包括的な協力強化を盛り込んだ「アジア再保証推進法」に署名し、法律が成立した。台湾への防衛装備品の売却推進や南シナ海での航行の自由作戦の定期的な実行を明記し、中国をけん制する。2019年3月1日に期限を迎える米中貿易協議も見据え、政権と議会が一体となって、中国に圧力をかける狙いがある。
新法は議会の対中強硬派が主導し、18年4月に上院に提出された。12月上旬の上院での法案採決では野党・民主党を含む全ての議員が賛成した。中国の安保・経済面での台頭に対する米議会の危機感を象徴する法律といえる。
新法は中国の軍事面での影響力拡大をけん制した。中国が軍事拠点化を進める南シナ海のほか、東シナ海で航行や飛行の自由を維持する作戦を定期的に実施する。東南アジア諸国の海洋警備や軍事訓練などに今後5年間で最大15億ドル(約1650億円)を投じる。
東南アジア諸国連合(ASEAN)が中国と共同で策定する南シナ海での紛争回避に向けた「行動規範」を通じ、ASEANによる海洋権益の維持を支援すると明記。ASEAN支援を明確にして、中国主導の規範づくりにクギを刺した。
ルールに基づく経済秩序を目指す「インド太平洋戦略」の推進も盛り込んだ。人権尊重や国際的な法規範の重視を改めて打ち出し、広域経済圏構想「一帯一路」を進める中国に対抗する姿勢を示した。
知的財産保護についても、中国の産業スパイやサイバー攻撃を念頭に「罰則を含む法律執行の強化が最優先事項だ」と指摘した。米政府は180日以内にインド太平洋地域での中国による知的財産権の窃取の現状や摘発状況を議会に報告する。サイバー分野でもアジア諸国と連携を深める。
国・地域別では台湾との協力を強める。脅威がさらに高まりかねない中国に対抗するため、防衛装備品の定期的な売却を進める。米政府高官の台湾訪問の推進も盛り込んだ。米国では18年3月に高官交流の推進を明記した台湾旅行法が成立している。インドについても「防衛装備品の売却や技術協力を最も親しい同盟国と同じ水準に引き上げる」と強調した。
新法は議会にとって、トランプ大統領が中国に対して安易な妥協をしないようクギを刺す意図もある。トランプ氏は現時点で中国に強硬姿勢を示しているが、シリアからの米軍撤退を突然表明するなど一貫性に乏しい政策決定が目立つ。法律を成立させれば政権の政策決定を縛ることができる。これまでも議会は対ロシア制裁強化法を成立させ、対ロ接近を探るトランプ氏をけん制したことがあった。
新法は超党派の賛成を得ており、仮にトランプ氏が拒否権を発動しても、議会が再可決し法律が成立する状況になっていた。