台北市内湖区に新たに建設されたこの台北事務所は、総工費約2億5000万ドル(約278億円)を投じ、約6.5ヘクタールにおよぶ広大な面積を有し、新庁舎への移転は5月6日予定と報じられている。
移転を1か月後に控えた4月3日、米国在台湾協会の報道官は「事務所には海兵隊を含む陸海空の軍人が2005年から駐在している」と初めて明らかにした。
2005年はジョージ・ブッシュ(ブッシュ・ジュニア)政権のときで、2017年2月に刊行された防衛研究所編の『中国安全保障レポート2017』によれば、この年の「8月から現役の陸軍大佐が台北に派遣」されていて、「現役将校の派遣は、安全保障における米台間の密接な連絡を強化する役割を果たしている」と記しているように、いわば公然の秘密で、中国側も当然把握していることでさほど驚くに値しない。AIT台北事務所の軍人駐在について「中国が反発する可能性がある」という報道は為にするものか、この事実を知らなかったのかのいずれかだろう。
米国在台湾協会の報道官が明らかにしたことで注目すべきは「海兵隊を含む陸海空の軍人」という発言だ。米国は陸軍、海軍、空軍、海兵隊、沿岸警備隊の5つの軍隊を有しているが、国防総省の管轄下に属しない沿岸警備隊を除く4軍が台北事務所に駐在していることだ。
米国の在外公館の警備は海兵隊が担っている。議会の承認を受けずに大統領命令だけで戦闘行為に入れるからだ。議会へは戦闘開始から2日以内に報告すればいいとされている。台北事務所も、護衛のため米海兵隊所属の大使館警備部隊15人が常駐予定だと伝えられている。
このことも、すでにスティーブン・ヤング元AIT台北事務所長が2017年2月に開かれたシンポジウムで台北事務所には海兵隊が配備されることを明らかにしており「これは米国による台湾重視の具体的な象徴だ」と述べていた。
つまり、米国は国交を有する国の在外公館と同じく、台北事務所の警備を海兵隊に任せていたということで、米国は在外公館並みに台北事務所を格上げしたことになる。中国が反発しているのはこの点だ。
では、陸軍は現役の大佐、海兵隊は大使館警備部隊だと明らかになっているが、海軍と空軍はどういうかたちで駐在しているのか。おそらく軍人外交官とも称される駐在武官だろう。駐在武官の主な任務は、駐在国の軍との調整、軍事情報の合法的な収集などで、武器取引の仲介や大使館の軍事アドバイザーを務めるという。
駐在武官は通常、制服を着て軍人の身分を明らかにしているが、国交のない台湾では私服を着用しているようだ。
本誌では、米国が「台湾旅行法」や「「アジア再保証イニシアチブ法」を次々と定めて台湾との関係を強化していることを伝えてきたが、「海兵隊を含む陸海空の軍人が2005年から駐在」という事実を公表することで、改めて米国の台湾重視姿勢を明らかにし、中国を牽制したのだと思われる。下記に中央通信社の記事をご紹介したい。
—————————————————————————————–米軍人の台北事務所駐在、米国の対台湾窓口機関が初めて認める【中央通信社:2019年4月3日】http://japan.cna.com.tw/news/apol/201904030008.aspx
(台北 3日 中央社)米国の対台湾窓口機関、米国在台協会(AIT)の台北事務所(大使館に相当)に、米海兵隊員など現役の米軍人が2005年から駐在していることが3日、分かった。AITのアマンダ・メンサー報道官が明らかにした。米軍人の台北事務所駐在をAITが認めるのは初めて。専門家は、台湾との関係を深める狙いがあるとみている。
同事務所は台北市南部の大安区にある現庁舎から同北東部の内湖区に建設した新庁舎への移転を5月6日に予定している。メンサー氏によると、移転後も軍人が駐在し、同様の警備体制が敷かれるという。
AITが軍人の駐在を正式に認めたことについて、国際問題に詳しい政治大の丁樹範名誉教授は、台湾との関係を深める意図があるのではとの考えを示した。
丁氏は一方、状況を楽観視し過ぎてはいけないとし、今後駐在の規模が拡大されるか、着用の服装が現在の私服から制服に変わるかなど動向を注視すべきだと述べた。
(顧ゼン/編集:羅友辰)