散状況の調査報告書に、世新大学の戚嘉林教授による「台湾独立派の人はいずれにせよ、
日本に対する感情はそれほどなく、『台湾としての主体意識』が主だ。李登輝元総統だけ
が、2000年以降の著作を見ても、日本に対する愛情に満ちていることが分かる。彼の父親
は日本人であるはずだ」という口述記録がそのまま掲載され、ニュースになったことがあ
る。
当時、李登輝基金会秘書長で李前総統事務所主任の王燕軍氏は「いわゆる『李総統の出
生の謎』は以前から噂としてあったが、監察院の調査報告がなぜこのようなことを取り上
げるのか不可解だ」と疑問を呈しつつ「くだらなすぎて、声明を出す価値もない」と批判
した。
調査内容とかけ離れた発言がなぜそのまま掲載されたのかは不明だったが、王建[火宣]
(おう・けんけん)監察院長が戚嘉林教授の発言を支持するかのように「(李氏本人が)
はっきり説明した方がよい」と不適切なコメントをしたことから波紋が大きく広がり、監
察院はすぐこの報告書を公式サイトから削除した。しかし、調査報告書から問題記述を削
除せず、そのまま掲載する措置を取った。
そこで、李元総統長女の李安妮さんが監察委員に陳情、8月26日、晴れて問題記述が
削除されることになったという。それを伝える「Record China」の記事を下記に紹介する。
李登輝元総統はすでに歴史的人物と言っていい。総統府直属の國史館が編纂した『李登
輝総統手記』や『李登輝総統写真資料集』があり、出自から総統時代までの詳細な調査記
録が残されていて、出自にまつわる疑問の余地はないと断言していいだろう。
実は、本会にも李元総統ご自身から『李登輝総統写真資料集』(全4巻)を寄贈いただい
ており、1,338点にも及ぶ幼少時から2000年5月20日の陳水扁の総統就任式までの写真が簡
潔な記述とともに掲載されているので大いに活用している。
ちなみに、國史館では『李登輝総統手記』や『李登輝総統写真資料集』の他にも『蒋介
石総統ファイル』『蒋経国総統写真集』『陳誠副総統回顧録』『謝東閔副総統全集』な
ど、台湾の現代史を理解するのに非常に重要な参考資料を刊行している。
李元総統の父親を日本人としたい背景には政治的思惑が絡んでいるようだが、いずれに
しても、いわゆる心根卑しい「下衆」な見方であることに変わりはなく、「中国式」思考
がもたらした李元総統の「日本びいき」に対する感情的反発でしかない。このような感情
的反発の陰に、反日感情や人種差別(レイシズム)を潜めていると思うのは穿ちすぎか。
王燕軍主任は当時、「メディアの人も本当に関心があるなら、研究者(戚教授)を訪ね
て『どんな証拠があるのか。DNA調査をしてみたのか。考古学的な判断か』などと取材
をしてみればよい」とも述べたという。正論である。家族の思いを代弁していると言って
よい。
監察院が問題記述を削除したのは当たり前の措置であり、遅すぎる措置だが、とりあえ
ずはその非を認めて削除したことを諒としたい。
台湾当局の報告書「李登輝元総統の父は日本人」発言、家族からの陳情で削除
【Record China:2013年8月26日】
2013年8月26日、台湾の行政監察機関・監察院が今年初めに出した報告書で「李登輝(リ
ー・デンフイ)元総統の父親は日本人に違いない」とする学者の証言を採用し、大きな波
紋を呼んだ。この件について李元総統の娘・李安[女尼](リー・アンニー)さんからの
陳情を受け、問題部分が削除されることになった。中国新聞社が伝えた。
今年4月、台湾監察院が報告書の中で「李登輝元総統は日本人の私生児に違いない」とい
う学者の発言を引用していたことが明らかとなり、物議を醸した。その後、監察院は「こ
れは調査報告における意見を発表したに過ぎず、学者の発言部分については決して対外公
表しない」と決定したが、発言部分については依然として報告書の中に残されていた。
李安[女尼]さんはこのほど、監察委員の1人に陳情を提出、「報告書の中の学者の発言
はあくまでも推測の域を出ないものだが、報告書の中に発言が依然として残されているこ
とで一家は当惑している」と訴えた。8月6日、この監察委員は陳情意見を別の委員に渡し
た。その後すぐ、他の監察委員とのコンセンサスを得て、「学者の発言は調査案件の参考
情報に過ぎず、監察院の意見を代表するものではない」として、発言部分の報告書からの
削除を決定した。
監察委員の1人は取材に対し、「陳情は確かに受け取った。調査案件自体は本来、李登輝
元総統の出自とは直接的な関係がなかった。しかし、家族や当事者に非常に深刻な影響を
与えていることは明らかであるため、修正することに決定した。今後の公文書には二度と
これらの内容は含まれない」と語った。 (翻訳・編集/碧海)