発生源問わぬ日本の異様さ  古森 義久(産経新聞ワシントン駐在客員特派員)

 日本政府はこのところ中国との関係についてよく「日中新時代」という言葉を使う。果たしてそういう時代が来ているのだろうかと、どうにも腑に落ちない感があった。

 武漢肺炎の感染対策を遅らせても習近平・国家主席の来日を実現しようとしているのではないかとの懸念が広がったことに、それは端的に現れていたように思う。

 つい最近も、尖閣諸島周辺の日本の領海内で日本漁船を中国公舟が追いかけ、日本政府が抗議した後にもまた追い回したというのだから、異常というしかない。

 これで「日中新時代」の到来というのだろうか。

 産経新聞の古森義久記者は武漢肺炎の発生源を問わない日本政府の対応に大きな違和感を感じ、「日本国民を苦しめ、傷つける惨劇を絶対に再発させないためにも、なぜこんな事態が起きたのかの探究は欠かせない」と主張している。

—————————————————————————————–発生源問わぬ日本の異様さ  古森 義久(産経新聞ワシントン駐在客員特派員)【産経新聞「あめりかノート」:2020年5月24日】

 この3カ月ほどワシントンと東京の両方で中国発の新型コロナウイルスの大襲来を目前にみてきた。ともに悲惨な傷を負った日米両国が官民でまず感染者を救い、拡大を防ぐことに最大努力を注ぐ動きではまったく共通していたが、その他の反応での黒と白ほどの対照的な違いにショックを受けた。

 その相違とはウイルス発生源の中国の責任に対する姿勢である。

 米国では中国非難は感染の当初から明確だった。武漢での新たなウイルス感染症の猛威を隠し、警告を発した現場の医師らを懲罰し、虚偽の情報まで流した習近平政権の対応こそ、この邪悪なウイルスを全世界に広げた主因だとする非難である。その基礎には共産党政権の独裁のゆがみがそんな異様な対処を生んだとする認識がある。

 トランプ政権の国家安全保障会議でアジア政策を統括するマット・ポッティンジャー大統領副補佐官の5月4日の異例の演説はその認識を集約していた。同副補佐官はホワイトハウスの中枢から流暢(りゅうちょう)な中国語で20分間、演説をした。インターネットでの全世界で視聴できる形の発信だった。

 「武漢で危険なウイルス感染拡大を世間に知らせて弾圧された李文亮医師は自由な情報開示のできる民主的社会を望んだはずだ。中国国民が抑圧的な政権のかわりに国民中心の政権を実現させるか否か全世界が注視している」

 中国の共産党政権と一般国民とを区分しながらその政権のウイルス対策を糾弾するという挑戦的な姿勢だった。

 この姿勢は、トランプ大統領が「中国との全面的な断交」という過激な言葉を口にして、「この感染症は中国政府の不当な工作がなければ、パンデミックにはならなかった」と断言する政権全体の対中政策と一致する。

 米国政府はいま司法省、国務省、国防総省、教育省、エネルギー省などが各分野で中国を抑え、締め出し、取り締まるという強硬措置を取り始めた。

 連邦議会はもっと過激な中国糾弾に満ちている。共和、民主両党の議員たちが中国当局のウイルス国際感染への責任を追及し、発生源の探索から国際法での罪状の訴追や中国への損害賠償の請求までを活発に進め始めたのだ。法案や決議案の提出、そして議会としての調査の推進である。

 これらの動きの背後には米国民一般の中国非難が存在する。ハリス社の4月中旬の世論調査では新型コロナウイルスの米国での大感染について「中国政府に責任がある」と答えた人が全体の8割近くという結果が出た。

 さて日本はどうなのか。

 日本の政府も国会もウイルス感染に関連して「中国」という言葉を出すことは皆無だといえよう。タブーというか呪縛というか、中国の名を出してはいけないようなのだ。国際的にも中国に一切、言及しない新型コロナ論議は異端の極みである。このへんの日本の国政の異様さには身震いさせられる。

 日本国民を苦しめ、傷つける惨劇を絶対に再発させないためにも、なぜこんな事態が起きたのかの探究は欠かせない。その作業では中国から日本になぜこれほど危険なウイルスが侵入してきたかの調査や研究は不可欠であろう。(ワシントン駐在客員特派員)

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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