用意周到に準備されたペロシ下院議長の訪台

 やはり、米国のナンシー・ペロシ下院議長は台湾を訪れた。昨日の本誌で、再開のアジア歴訪であることと、中国による人権弾圧を批判する人権派であることを理由に訪台の可能性の公算は大と記したが、それ以上に、用意周到に準備された訪台だったことに驚かされた。

 ペロシ議長は8月2日夜11時44分(日本時間)ごろ、軍の人員輸送機で訪問先のマレーシアから爆発物を仕掛けたといわれた桃園空港ではなく、台北市内の松山空港に到着した。ペロシ議長は、この直後に発行された米紙ワシントン・ポストに台湾訪問の意義について寄稿していた。

 毎日新聞によれば「訪問は民主主義のパートナーである台湾が自由を守る際に米国が共にあると明確にする声明とみなされるべきだ」と訴え、台湾関係法について「アジア太平洋地域における米国の外交政策の最も重要な柱の一つ」と強調し、同法によって「米国は台湾の防衛支援を厳粛に誓った。それを忘れずに米国は台湾を支えなければならない」と主張しているという。

 加えて、米国海軍は原子力空母「ロナルド・レーガン」が率いる空母打撃群と強襲揚陸艦「トリポリ」「アメリカ」などを台湾海峡周辺に出動させて警戒に当たらせた。

 つまり、ペロシ議長一行の台湾訪問は、バイデン大統領が了承し、国防総省とも綿密な打ち合わせの下に進めてきた極めて計画的な訪問だったと言える。

 もちろん、ペロシ議長の決断によるものだが、中国がこの秋に共産党大会を控えているという状況を踏まえた訪問であり、世界的なインパクトを持つ訪問ともなった。

 台湾滞在中は「立法院(=国会)を訪れ、游錫●・立法院長(=国会議長)をはじめとする与野党各派の議員と対面、その後、蔡英文・総統を表敬訪問し、蔡・総統主催の昼食会に出席する前に、記者会見を開きます。午後には、北部・新北市新店区にある、白色テロ景美記念パーク内の国家人権博物館を参観、3日夜、台湾を離れ、韓国に向かう」(台湾国際放送)予定だと報じられている。(●=方方の下に土)

 景美人権博物を訪れる海外要人は多くない。人権派の面目躍如という選択であり、訪問そのものが慰霊であり顕彰となる。この博物館で紹介されている白色テロで亡くなった人々も了とされるのではないだろうか。

 ちなみに、景美人権博物には、「台湾人民自救運動宣言」を執筆して自宅軟禁されていた彭明敏氏を秘密裡に国外脱出させた故宗像隆幸(むなかた・たかゆき)氏と、台湾の民主化を要求するビラを気球に積んで台北の空からばらまいた小林正成(こばやし・まさなり)氏のお二人の日本人も紹介されている。

 ペロシ議長は韓国から8月4日に来日し、5日、首相公邸で岸田首相と朝食をとりながら意見交換する予定だという。安倍元総理の国葬に台湾から誰を招くのかも議題にのぼるかもしれない。注視したい。

──────────────────────────────────────※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。