李登輝前総統インタビュー 「中台統一」加速はない

「中国共産党は馬英九氏を支持してはいない」

 昨日の本誌で述べたように、今回の台湾総統選挙について李登輝前総統へインタビュ
ーした産経新聞の記事をご紹介したい。

 やはり、台湾の元首として中国との関係をリードしてきた李登輝前総統の慧眼には刮
目させられた。曰く「中国共産党は馬英九氏を支持してはいない」。曰く「馬氏は米国
寄り。中台統一に持ち込むことはない」。曰く「一党支配をもって民主化を進めるべき」。

 李前総統がなぜ謝長廷支持をギリギリまで表明しなかったのかという疑問も、このイ
ンタビューで氷解するだろう。ポイントは「台湾の民主化」にあったのだ。

 また、自著『最高指導者の条件』で述べているように、インタビューを受けることを
もって、指導者の条件の一つである「大局観」を明確に示す姿勢を見せてくれた。

 この本の中では「指導者に最も求められるものは何かと問われたとき、私は最終的に
『公儀』という言葉に帰一すると思っている」と述べている。それ故、インタビューで、
馬英九氏を「ただ、中国人(外省系=中国大陸籍)でもあり、公に尽くすかはわからな
い」と指摘していることは、非常に興味深い発言だ。先の「諸君!」4月号の対談と併
せて味読すべきインタビューである。
                   (メルマガ「日台共栄」編集長 柚原 正敬)


李登輝前総統インタビュー 「中台統一」加速はない
【3月26日 産経新聞1面・6面】

 【台北=河崎真澄】台湾の最大野党、中国国民党の馬英九前主席(57)が圧勝した22
日の総統選挙を受けて、李登輝前総統(85)=写真=は台北市内で産経新聞と会見し、
「中国共産党は馬英九氏を支持してはいない」と述べ、中台関係が「両岸統一」や「共
同市場」に向け一気に進む懸念はないとの見方を示した。また国民党政権と馬氏に対し、
「一党支配をもって民主化を進めるべきだ」として、行政や立法で一手に握ることにな
った権力を「民主化」に集中させるよう求めた。(6面に会見要旨)

 対中融和策を推進する国民党の8年ぶりの政権奪還で、台湾が中国の統一工作に取り
込まれるとの指摘について、「(戦後の)台湾の帰属問題は不明瞭(めいりょう)だと中
国はよく研究している。簡単に統一はできない。しばらくは安全だ」と話し、米国の介
入を念頭に、懸念を一蹴(いっしゅう)した。また「馬氏は米国寄り。中台統一に持ち
込むことはない」とした。

 李氏の総統時代、馬氏は法相を1993年から96年まで務めている。馬氏の人物評につい
て、「彼は中国人(大陸出身者)だが、正直者で汚職をしない近代的な人物。ただ、独
り善がりな面もある」と述べた。さらに「(李氏の日本語の近著)『最高指導者の条件
を馬氏に手渡す予定だと語り、近く馬氏と会う可能性を示唆した。

 馬氏は尖閣諸島の帰属問題などで厳しい対日姿勢もとってきたが、李氏は「総統にな
った以上、(対日関係で)謙虚になる必要がある」と指摘。「台湾は(中国より高度な)
技術力が必要で、そのためにも技術提携など日本との関係をよくすべきだ」と対日関係
の前進を強く促した。

 その上で「馬氏に言われれば、駐日代表は年齢的に無理としてもフリーな立場で手伝
うことができる」と述べ、生涯をかけて自身の日本の政財界人脈や経験を、馬次期総統
が率いる台湾のために生かす意向を明らかにした。

 これまで「独立派」と見なされてきた李氏の発言は台湾内外の反発も招きそうだが、
現実を直視し、将来を見つめるようにという、85歳の李氏が政治生命をかけた問いかけ
といえる。

【6面】李登輝氏会見要旨 日台関係「知恵生かしたい」

 産経新聞と単独会見した李登輝・台湾前総統の主な発言は次の通り。

【中台関係】
 多くの人々は中国大陸が怖いの一点張りで、台湾はのみ込まれてしまうと考えている。
馬英九氏が当選したら、台湾がすぐ統一されるのではないかと心配する。が、不勉強に
もほどがある。そんなに簡単に台湾が中国大陸にとられることはない。なぜか? 実は
中共(中国共産党)は馬氏を心の底から支持しているわけではない。米国との関係が複
雑すぎるというのがその理由の一つだ。私が多くを語る立場ではないが、彼は米国の影
響を非常に強く受けている。

【国民党】
 私は国民党主席を約12年務めたが、一党独裁をもってこの民主化を進めた。今の立法
院(国会)と同様、あの時に国民党の議席が4分の3以上なければ、実は台湾の民主化は
難しかった。国民党がすべて反民主的と考えてはいけないが、絶大な権力を得た国民党
が人民の期待を裏切るような独裁に走らぬよう、指導者がしっかりする必要がある。

【馬英九新総統】
 彼のいいところは、正直なところだ。汚職をやったという人もいるが、僕は信じない。
孤立的で独り善がりの面もあるが、近代的でもある。父親は彼を総統にしようと、厳し
く教育してきた。ただ、「中国人」(外省系=中国大陸籍)でもあり、公に尽くすかは
わからない。彼が来たら私の本を読ませよう。「奥の細道」もね。20年後の台湾は新総
統の努力次第で大きく変わる。何をすればこの総統の時代に台湾が飛躍できるのか? 
私も今、考えているところだ。

【対日関係】
 台湾経済を伸ばすには日本の技術が必要だ。どう提携するか。日台関係をよくしてい
く必要がある。私は国民党を除名された立場ではあるが、相手が頼みに来るなら、知恵
と経験は大いに生かしたい。駐日代表をやるには年をとりすぎたが、フリーランサーと
いう形なら何かできると思う。

【チベット】
 チベット騒乱が選挙戦で大きな力にならないのは、とどのつまり、北京政府を刺激し
たくないからだ。台湾の安全が保障されない中、チベットを応援して台湾のプラスにな
るか? ならない。

【民進党】
 民進党は複雑だ。謝長廷氏(同党総統候補)はよかったが、(陳水扁政権に対する有
権者の失望感など)重い荷物を背負わされた。台湾の独立派は口先だけの人が多すぎる。
政権が悪いことをしても批判ひとつせず、政権とぐるになって悪巧みをする。汚職がひ
どすぎた。これが台湾人と思うと情けない。

                              (台北 長谷川周人)


李前総統、馬氏に注文 「台湾は技術力必要」 対日重視強調
中台共同市場「無意味」

【3月26日 フジサンケイ ビジネスアイ】
http://www.business-i.jp/news/china-page/news/200803260020a.nwc

 【台北=河崎真澄】台湾の最大野党、中国国民党の馬英九前主席(57)が圧勝した22
日の総統選を受けて、李登輝前総統(85)=写真=は台北市内で会見に応じ、「中国共
産党は馬英九氏を支持してはいない」と述べ、中台間の関係が「両岸統一」や「共同市
場」に向けて一気に進む懸念はないとの見方を示した。また、「台湾は(中国より高度
な)技術力が必要で、そのためにも技術提携など日本との関係を良くすべきだ」と、馬
氏に対日関係の前進を強く促した。

 馬氏の陣営は選挙戦を通じて、自由貿易協定(FTA)に近い中台間の共同市場構想
や、空と海の直行便の1年以内の定期化、中国人の台湾観光解禁などの中台経済交流の
拡大を公約に掲げてきた。だが、「中台共同市場は意味がなく、むしろ中国が反対する」
と指摘。「中台だけではなく、日韓や東南アジア全体を包含する市場構想でなければ台
湾経済はめちゃくちゃになる」と危機感を示した。

 さらに、「あらゆる機能が一つの半導体に組み込まれるシステム・オン・チップのよ
うな高度な技術が台湾には必要で、その面から日本との技術提携が欠かせない」と話し
た。また「日本企業の経営者は(工場など)現場を知っていることが強みだが、日本も
(全体的に)技術力を取り戻さないといけない」として、資源に乏しい日台は、肥大す
る中国経済に対し技術力がカギとの考えを示した。

 李氏は総統選後の週明け24日の台湾株式市場に注目していたとして、同日午前の寄り
付きで6%以上の買い殺到となった市場展開は、「馬氏当選に経済界や投資家が期待感
を示した結果」と受け止めたという。



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