李登輝前総統の「週刊東洋経済」連載「長老の智慧」(4)

有能な人間を特別部局に 試験だけに強い人材は無用

 本誌も今号で今年最後の発行となりました。お蔭様で、購読者数こそ2,220名と多くな
いものの、6万誌にのぼるという全メルマガの中で常に30位以内というランキング評価を
いただいています。これも皆さまのご支援の賜物です。改めて御礼申し上げます。

 今年を締めくくるに当たり、李登輝前総統が12月3日発売の12月8日号から「週刊東洋
経済」(東洋経済新報社発行)誌に連載されている「長老の智慧」の第4回目をご紹介し
ます。

 皆さまにはご健勝にて良いお年をお迎えください。本誌は祖国日本のため、そして友
邦台湾のため、来年も微力ながら力を尽くします。今後ともお力添えのほどよろしくお
願いいたします。            (メルマガ「日台共栄」編集長 柚原正敬)

■週刊 東洋経済
 http://www.toyokeizai.co.jp/mag/toyo/
・その1 台湾の基礎を築いた後藤新平 独自の精神性にこそ惹かれる
・その2 現実と仮想との混乱を憂う 最も重要なのは信仰心
・その3 アジアでは米中の覇権争い 日本は自信を持って行動を
・その4 有能な人間を特別部局に 試験だけに強い人材は無用
—————————————————————————— 「週刊東洋経済」12月29・2008年1月5日迎春合併特大号(12月25日発売)掲載「長老の
智慧」

李登輝 その4【全5回】

台湾を発展に導いた経験から、リーダーシップの重要性は痛感している。真のリーダー
をつくるには、特別な部局を設けて実務経験を積ませることが大事だと、日本に提言す
る。

■李登輝 り・とうき●1923年台湾生まれ。京大農学部を経て49年台湾大卒。米コーネル
大博士。72年に政界入り。88年蒋経国・総統死去により副総統から総統に就く。96年に
は直接選挙制による初の総統に。2000年退任。台湾の民主化を指導した。

有能な人間を特別部局に
試験だけに強い人材は無用

 日本では安倍前首相から福田首相に政権が代わりました。私は、日本が世界第2位の経
済大国にふさわしい政治的地位と影響力を持ってほしいと考えています。その点で、安
倍前首相が日本版NSC(国家安全保障会議)の設立を目指していたのを評価していま
した。現在は具体的な動きが進んでいないようですが、首相の下に安全保障の権限を一
元化して強化するのは大切なことです。

 日本の政治で欠けているのは強いリーダーシップです。総理と閣僚が別々の意見を平
気で言い、内閣はバラバラです。安倍内閣では失言も目立ちました。これでは駄目です。
総理の方針に従わない大臣はクビにする、これぐらいの覚悟がないといけません。安倍
内閣にはちょっと問題のある人がいましたね。

 昔は、政治指導者が何から何まで決めていたパトロン型で独裁的なこともできました
が、現代は民主主義の時代です。確かに、大きな権力を背景にしていたからこそ、息の
長い巨大プロジェクトや重要な政策決定を行うことができたのは事実です。だが今はそ
れが否定され、しかも権力は分散しています。

 では民主主義の中でどうやって指導力を発揮するか。それは課題ではありますが、指
導者は将来への提言、国の将来をはっきり示すことが必要です。

 私は小泉元首相は日本の政治を変えたと思っています。一つは根回し型の政治をなく
してしまいました。カネや部下(派閥)を持つ人間と調整するのではなく、意見を言わ
せて最後には自分で決めた。それまでのリーダーと違っていました。それに総選挙を前
に中曽根さんなどの長老を引退させた。世代を交代させた、これも功績です。

 リーダーシップを発揮するためには人材の活用も大切です。私の周りでも、新聞人に
しても学者にしても立派な人がたくさんいた。しかし、そうした中で有能な人材を無駄
にした例がある。それは階級だとか人間関係だとかで浮かび上がらなかったからです。

 日本でもそうです。国家発展特別局のような部署をつくって、有能な人間に仕事をさ
せる。実行力をつけるためにきついことをさせる。そうやってリーダーをつくることで
す。アメリカもイギリスもリーダーは経験を積ませて育てています。日本のように、単
に優秀な成績で東大で1番だったとか、法律ばかり覚えて試験のときだけ強いとかではし
ょうがありません。

*前々号でお伝えしたように、福田首相は12月24日の安全保障会議で、日本版「国家安
 全保障会議」(NSC)新設のための安全保障会議設置法改正案を、今国会で廃案に
 することを決めた。



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