李登輝前総統の「諸君!」発言が総統選の流れを変え謝長廷候補が急追

3月4日、台湾メディアは、李登輝前総統が台湾総統選挙について、「諸君!」4月号
において初めて見解を表明したことを大きく取り上げた。

 李前総統は深田祐介氏との「諸君!」4月号の対談において「謝さんがあっさり大差
で敗北してしまえば、台湾の民主化は20年遅れてしまうでしょう。しかし、馬さんを僅
差で追い上げられれば、両党の旧勢力が一掃され、大幅に世代交代が進む可能性があり
ます」と述べるとともに、「場合によっては、第三勢力の結集、国民党の分裂など、政
界再編もあるかもしれない」と、非常に興味深い発言をしている(3月5日発行本誌第71
3号参照)。

 この発言は、台湾の一部では李前総統が謝長廷氏支持を表明したものと受け取られ、
総統選挙の流れが一挙に変わり、民進党候補者の謝長廷候補の急追に拍車をかけてい
る。

 謝長廷氏自身も4日、「李登輝前総統の意見を尊重する」と述べるとともに、「ホー
ムページでも多く見るが、民進党支持でも謝長廷支持でもない人たちが、この問題を憂
慮している。李登輝前総統は自分の考えを述べたのかもしれず、皆の意見を代弁したの
かもしれない」と、中国国民党を支持する台湾人であっても民主化の後退を憂慮してい
るとの見方を示した(3月4日付「Radio Taiwan International」)。

 「世界日報」がかなり詳しく総統選の様子を伝えているので、ご紹介したい。
                                  (編集部)


逃げる馬氏、追う謝氏−台湾総統選
李前総統発言が謝氏後押し「大差敗北なら民主化20年遅れる」
対中開放推進では一致

【3月6日 世界日報】

 22日の総統選挙へ終盤戦を迎える台湾では、支持率で終始リードする最大野党・国民
党の馬英九総統候補と与党・民進党の謝長廷総統候補の間で激戦が展開されている。勝
敗のカギを握るのは無党派層。双方とも中国への警戒感を示しながらも対中経済の改善
と景気浮揚策をアピールしている。
 李登輝前総統が日本の月刊誌「諸君!」で行った発言が波紋を呼んでおり、最終盤の
流れが微妙に変わる可能性もある。              (香港・深川耕治)

 3日、最新の各世論調査でも両者の支持率差が徐々に縮まり、中山大学政治学研究所
の廖達!)教授による調査結果では10ポイント差まで迫ったことを明らかにした。

 すでに1日、国民党の呉伯雄主席は台湾内の退役軍人の集会で「党内の独自調査では
馬英九候補と謝長廷候補の支持率は現段階でわずか10ポイント差まで縮まっており、5
ポイント差まで急追されかねない状況だ」と語り、党内に楽勝ムードが漂うことに強い
警戒感を示している。

 終盤戦の山場の一つは、国民党政権が1947年2月28日に本省人を弾圧した二・二八事
件の記念日。香港生まれの外省人(中国大陸出身者とその子孫)である馬氏は28日、「
当時の国民党政府の腐敗や無能にある」として自党の過去を糾弾、同事件の遺族との直
接交流を深めて本省人(戦前から台湾に住む人々)の不信感を和らげた。

 「国民党は嫌いだが馬氏は支持する」との中間層支持者が以前より増えた。先月24日
に行われた総統候補同士の初テレビ討論会では「私は台湾人であり、中華民国の国民だ。
死んで灰になっても台湾人」と強調する。

 また、対中政策については「統一や独立、武力行使はしない」と中国との統一協議に
応じないことを表明。半面、景気浮揚のためにも、中国との直行便については「段階的
に拡大して定期便化する」とし、中国大陸への農産品輸出拡大の機会を増やし、3通(中
台間の交通、通商、通信の直接開放)についても積極推進を強調した。

 一方の与党・民進党の謝氏は本省人で独立志向。しかし台湾経済のために対中経済開
放を推進することを約束している。航空チャーター便に関して春節(旧正月)などの祝
日のみではなく3カ月以内に毎週末に拡大するとし、3通に関しても「台湾の安全確保」
を前提に推進すると言明。NGOや民間基金による外交拡大を目指し、台湾農産物の生
き残りを懸けた一村一品運動を重視し、中国の農産物輸入は行わない意向を示した。

 与党連合のパートナーである台湾団結連盟(台連)を中心とする本土派の足並みがそ
ろわない中、流れを変えたのは台連の精神的指導者、李前総統の新発言だ。

 李前総統は日本の月刊誌「諸君!」4月号で「謝氏が大差で敗北すれば台湾の民主化
が20年遅れてしまうが、馬氏を僅差(きんさ)で追い上げれば両党の旧勢力が一掃され、
大幅に世代交代が進む可能性がある」と述べたことが4日、台湾メディアで一斉に報じ
られ、与野党の攻防を激化させている。

 李前総統は同誌上の作家・深田佑介氏との対談で「世論調査の結果を見ると徐々に謝
氏が追い上げ、後者のシナリオが進む可能性が高まってきた」「場合によっては、第三
勢力の結集、国民党の分裂など政界再編もあり得るかもしれない」と述べ、急追する与
党・民進党の謝長廷候補が逆転勝利する可能性を期待感をにじませながら示唆。

 最大野党・国民党の馬英九候補については「馬氏は親中反日、謝氏は反中親日といっ
たような短絡的な見方は間違い」「馬氏は世間で言われているほど北京政府との関係は
深くない。米国との関係は予想以上に深いものがあり、北京政府はそれを察知したので
はないか」と述べており、これらの部分が台湾メディアで大きく取り上げられている。

 李前総統はこれまで総統選で両候補いずれにも支持を表明せず、長い沈黙を守ってき
ただけに、謝候補が大敗すれば民主化が後退するとの発言は台湾でも注目されている。
台連は1月の立法委員(国会議員)選挙で1議席も獲得できなかったが、比例代表で3・5
%の政党票を獲得。台連内部でも馬氏支持に動く造反派も現れる中、李氏の発言は急追
する謝氏にとって有利に働きそうだ。

 劣勢を挽回しようとする与党・民進党は16日、台湾名義での国連加盟を呼び掛ける1
00万人規模の集会を準備しており、逆転勝利へ弾みを付けるラストチャンスに勝負を挑
む。一方、野党・国民党も同日、大規模な集会を準備して対抗しており、馬候補当選に
よる8年ぶりの国民党政権復帰へ逃げ切りを図る公算だ。

 国民党総統・副総統候補の馬英九・蕭万長ペアは、これまで有権者と親しく握手する
パフォーマンスで幅広い支持者を増やそうとしていたが、2日夜の支持者集会から突如、
防弾チョッキを着用した。移動用の車も防弾設備を加えたトヨタ車に変えた。暗殺予告
の脅しは昨年末から始まり、国家安全局の警備メンバーらは厳戒態勢を強化しながら警
護している。野党側が脳裏によぎるのは4年前の総統選での陳総統へのテロ事件だ。暗
殺を含め、ぎりぎりでどんでん返しの可能性がゼロとは言い切れないからだ。

 リードを続ける馬氏、急追する謝氏という構図だが、現時点では「逆転までには至
らない」との見方が強い。



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