す。これまでの連載は、すべて本会のホームページに掲載しておりますのでご参照くださ
い。
また、産経新聞連載中に群策会訪台団と一緒に来日された李登輝前総統の令嬢で、台湾
総合研究院副院長の李安[女尼](り あんに)さんに、連載の第7回分まででしたがお渡
しできたのは幸いでした。
なお、本文に「台湾大学史学科の呉密察教授」とありますが、呉密察氏は副教授で、本
会主催の台湾李登輝学校研修団の第3回から先般9月に行われた第5回まで講師をつとめてい
ただいています。第4回における呉密察副教授による講義要録は本会機関誌『日台共栄』第
13号(6月号)に掲載しています。(編集部)
【9月21日付 産経新聞】
最後に、最近台湾で、「台湾民主化の道」と言うDVDが出回っています。20年来の台
湾の民主化の過程に於いて、私は与党国民党の指導者として、台湾の国民の声に耳を傾け
、主流の民意を尊重し、それを改革の推進力として来ました。このDVDの中で台湾の民
主化を進めた私に対して、「李登輝は一体何者や?」と問うていました。
それに対して台湾大学史学科の呉密察教授は、『李登輝氏は日本の大正世代に生まれ、
徹底的に日本教育の薫陶を受け、忍耐、自制、秩序を重んじ、公の為に奮闘、努力する精
神を身につけた人である』と返答しています。
この答に同意はしますが、日本的教育で、最も強調されている“実践躬行”(じっせん
きゅうこう)が述べられていません。日本的教育の長所は、武士道精神に表現される実践
にあると言えるでしょう。私も、知ること、考えること以外に、実践する能力に全ての意
義を与えています。
私にとって、人生は1回限りであり、来世はありませんから、一部の宗教が所謂「輪廻」
を唱えるのも、私はそれを自己満足に過ぎない話だと思っています。「意義ある生」をよ
り肯定すべきだと思います。
「人間とはなんぞや」、または「自分とは誰だ」という哲学的問題から出発し、自己啓
発へ発進すれば、人格及び思想の形づくりが完成できます。「自我」の死への理解を踏ま
えたうえで、初めて肯定的な意義を持つ「生」が生まれるのです。
実際に、人間は単に魂(心)と肉体から構成されています。けれども精神的な弱さは更
に高い次元の存在を必要とするのです。総じて言えば、私達には全ての権限を有する神が
必要です。と言っても、すぐに信仰を持つのも簡単ではありません。信仰への第一歩は、
見えないから信じない、見えるから信じることでなく、ただ信じること、実践することで
す。純粋理性から実践理性へと、もっと高い次元に生きる価値を見つけ出すことが、人生
の究極の目標です。
従って、この日本的教育によって得られた結論は、「私は誰だ」という問いについて、
「私は私でない私」なのです。この答えによって、私は正しい人生の価値観を理解し、い
ろいろな問題へ直面する時にも、「自我」を排除して、客観的立場で正しい解決の方法を
考えることができるようになりました。これが日本の教育を通して私に与えられた人生の
結論でしょう。
これをもって私の講演を終わらせてもらいます。ありがとうございました。(題字は李
登輝氏)