李登輝先生への恩返し[本会理事 金子一夫]

機関誌『日台共栄』6月号 巻頭エッセイ「台湾と私」

李登輝先生への恩返し
                                  金子 一夫

 四十年の私の人生で、今年ほど「台湾」を学び、「台湾」から日本や日本人、日本精
神を学んだ年はなかった。そのきっかけは、三月に参加した第六回台湾李登輝学校研修
団である。

 数年前から沢山の武士道に関する本を読んでいるが、李登輝先生の書かれた『「武士
道」解題−ノーブレス・オブリージュ』が非常にわかりやすかったため李登輝先生に大
変興味が湧き、生き方や考え方をもっと知り、同時に多くの人に伝えたいと思っていた。

 研修期間中に、日本李登輝友の会の柚原正敬事務局長に無理を言って李登輝先生への
ご挨拶の時間をいただいた。

 講演を前に待機されていた控え室におそるおそる入り、初めてお目にかかる李登輝先
生は手を前に組み、大きな体をソファーに深く沈められていた。今でもその光景と感動
は忘れない。

 挨拶の後、私が所属する社団法人日本青年会議所(JC)の世界平和を目的とする運
動や取り組みをご説明し、全国四万人のメンバーへのビデオメッセージ出演をお願いし
たところ、気持ちよく了解していただいた。

 しかし、この研修期間、とても不思議な気持ちになっていた。実のところ、今回の参
加はビデオメッセージ出演依頼が主たる目的であったのに、沢山の有能な講師より、台
湾の歴史や民主化への道、主体性やアイデンティティ、先住民や安全保障について学び、
また最終日にも校長である李登輝先生より直接ご講演をいただき、なぜだか懐かしさを
感じていた。心地よい充実感と感動に包まれていた。日本では学べない何かがあった。

 それは「台湾」を知ることにより、日本国や日本人、日本精神を感じ、アジアや世界
において日本国として、日本人としてどうあるべきかを考える機会を得られ、まさに私
が探求しつづけている「自分とは一体何者であるのか」「これから一体どこに向かうべ
きか」の答えに近づいたと感じたからであった。

 李登輝先生からは「世界の有力者や有識者の間では、日本ほど道徳や規範、利他の精
神などを持ち合わせている国はない」「まさに日本が日本精神を強く自覚し、アジアや
世界のリーダーたる振る舞いをすることが世界の貢献になる」「このことを意外と知ら
ないのは日本人だ。これからあなた達のような若者に大変期待をしてるよ」と、情熱的
で思いやり溢れる講演をいただいたことに対し、本当に感謝・感動以外に言葉が見つか
らなかった。

 それから日本に帰ってビデオメッセージ撮影日を調整し、再度四月二十四日から二十
六日に仲間十一名と台湾へ向かった。今回はより多くの仲間に台湾と李登輝先生を感じ
てもらいたく声をかけた。

 収録は李登輝先生の事務所で行い、約束の三〇分が過ぎてビデオテープも終了し、そ
れでもなお先生の熱弁は続く。時計を見ると九〇分があっという間に過ぎていた。その
後、全員で写真を撮り収録は終了した。

 帰りのバスでは仲間十一名とあらためて李登輝先生の教養・思想・哲学、また生き方
・姿勢・振る舞いの話となり、我々はこの経験を自分たちだけの感動で終わりにするこ
となく、今日学んだことを日本で身近なところから広め、実践に移し、日本人としてア
ジアや世界に貢献すべく行動することが何よりも李登輝先生への感謝と恩返しであると
確認しあった。

 なんとなく懐かしい不思議な気持ちにしてくれる「台湾」を通じて日本を知る、日本
人を知ることがスタートしたばかりだ。今年はあと二回ほど訪台することになっている。
さらに台湾の歴史やアイデンティティを深く学び、台湾の出来事には当事者意識でさら
に強く関心を持っていきたい。

     (本会理事、2007年度(社)日本青年会議所・近現代史教育実践委員会委員長)


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