未来へ(日台文化交流青少年スカラシップ2012年大賞受賞作品) 沼野井 万希子

2月15日発行の本誌で、サンケイビジネスアイと産経新聞が主催する日台文化交流「青少
年スカラシップ」は今回で9回目を迎え、大賞は『台湾万葉集』を通して感じた台湾と日本
の共通する文化への思いなどをつづった作文「未来」の沼野井万希子さん(大田原市立野
崎中3年)が受賞したことをお伝えした。

 3月26日、台北駐日経済文化代表処において受賞者の表彰式が行われ、受賞者はその足で
5泊6日の台湾研修旅行に出発した。27日には台湾歌壇代表の蔡焜燦氏が例年のように食事
会に招待したという。大賞受賞者の沼野井さんの席は蔡代表の隣に設けられ、台湾歌壇の
ことなどをいろいろお聞きしたそうだ。下記に沼野井さんの作品をご紹介したい。

 それ以外の作品も胸を打つものが少なくない。入賞作品は日台文化交流青少年スカラシ
ップのホームページにPDF版で掲載されている。
 
◆日台文化交流青少年スカラシップ 入賞作品
  http://www.business-i.jp/scholarship/works.html


未来へ

                     大田原市立野崎中学校3年 沼野井万希子

 一九九六年、私が生まれた年だ。この年、「台湾万葉集」が菊池寛賞を受賞した。

「プロ野球のテレビに見入り五分間を待たせし患者半額にする 荘啓東」

 新聞でこの短歌を目にし、とても驚いた。日本の新聞に台湾の短歌が載っているのだ。
そして、ほのぼのとしていいな、と思いながら、以前他の新聞に、宝塚歌劇団が台湾で初
公演することが決まったという記事があったのを、ぼんやりと思い出した。「(宝塚発足)
100 周年の記念すべき年を前に公演を通じて相互の文化交流がさらに深くなることを願っ
ている」と歌劇団はコメントしたそうだ。「台湾側の招請を受けて公演実施を決めた」と
いう本文が印象的だ。このように、日本と台湾は文化面で深く関わりあっていることを知
り、私は不思議な感じがした。

「日本人になり切らむとしてなり切れぬ苦しみ重ね戦ひ終えぬ 蕭翔文」

「日本語のすでに滅びし国に住み短歌詠み継げる人や幾人 孤蓬万里」

「勝利者の便宜によりて台湾人日本人になり中国人に 傳彩澄」

 これらの短歌を初めて耳にしたとき、私の胸につきささるものがあった。素直な思いが
あふれて言葉になったのか、強い気持ちを感じた。日本統治時代があったことは知ってい
たが、その思いを短歌という形で目にしたのは初めてで、なんて短歌は彼らの身近にある
ものだろうと驚嘆し、同時に彼らの苦難の大きさを垣間見た気がして、一体どんな思いで
歌を詠み続けたのか、全くわからなかった。平成に生まれた私は、その苦悩を知ることは
できない。ただ、訴えかけてくる言葉に耳を傾け、短歌に込められた強い思いを感じなが
ら、自分がどうあるべきか考えるだけだ。推測することしかできない、しかしそれでも不
十分な、そんな思いの前に、私は悔しい。

 「われわれ台湾万葉の衆は、短歌を詠んで余生への句読点としてゆくのみ」と心情を語
るのは、日本の教育を受けた台湾の歌人の一人だ。台湾の謝惠貞さんによると、彼らの多
くが高齢となり、第一線から退いて戦後生まれの若い世代にバトンタッチされつつあるそ
うだ。日本の文化である短歌が、異国の地で継承されていくのはすばらしいことだと思う
が、そこに至るまでの経緯を振り返れば、複雑な気持ちになる。また「北米万葉集」など
が創刊されたように、謝さんの言葉「今後、文化のグローバル化はますます進み、植民地
時代の言葉の越境の名残、台湾の短歌や俳句も文化資産として生き続けていくことでしょ
う」に重みを感じる。日台の文化交流といわれるが、今はもう、世界の文化交流の時代が
始まっているのかもしれない。国の粋を越え、様々な文化が流れこむ状況の中で、また新
たな文化が、固有の風土に合わせ、時代に合わせ、思いに合わせ、築かれていく。そして
再び、国の文化として現れたものが、日本と台湾の違いを代表し、文化交流によって互い
に刺激し合う。古き良き伝統文化は、いろいろな場面で受け入れられて、新たな発展を遂
げるのだろうか。文化の共有、それこそが文化交流で最も大切なことだと思った。私は、
台湾へ行き、台湾の人と直接、短歌を詠み合いたいと強く思う。

 「台湾短歌のもつ、何にもまして得がたい美質は、明るく乾いたユーモアに富んでいる
ことである。…湿った感傷におもむきがちな日本の現代短歌ときわだった対象をなし、こ
うした歌い方があることを知らせてくれたことだけでも、『台湾万葉集』が復刻された値
打ちがあるといわなくてはならない。」私の国語の教科書に作品が載る、大岡信氏が寄せ
た言葉だ。私は、自分が詠んだ短歌と台湾の友達が詠んだ短歌を比較して、実際に文化の
違いを感じたいと思う。それから学ぶこともあるだろうし、自分なりに解釈することがで
きたら、次は台湾風の短歌を詠むことに挑戦したい。今、ここにいる台湾の人と、同じ思
いを感じることができたらと思うと、跳び上がりたいくらいうれしくなる。

 ふと、新聞の中で、ある言葉が目についた。

「命を燃やす夢」

 冒険家の三浦雄一郎氏のインタビューの記事の中に見つけた。すてきな響きの言葉だと
思う。私にとってそれは何だろうと考えたとき、思いつくのは「書く」ことだ。書きたい
ことが突き上げてくる喜び、自分の情熱が感動したときに沸き上がる、あの感覚。そして
それを書きたいと強く思うのに、力不足でまだ書ききることができない。

 難しい歴史を抱えながら、それでも根付いて広がろうとする文化に私は夢を見る。過去
の時間は動かなくても、目の前に広がる時間は私たちでつくりだせる。その中で私は生
き、新しい文化をつくる一人になりたい。


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