朝元照雄教授が奨める台湾関係図書

日本李登輝友の会の福岡県支部は平成17年3月12日に設立され、支部長には久留米大学
の大矢野栄次教授が就任しているが、顧問には張国興・久留米大学教授、副支部長には同
じく久留米大学の中村靖志教授、理事にも朝元照雄・九州産業大学教授などが入っていて、
学者の方が多いのが特徴だ。

 この朝元照雄教授が月刊「中国図書」(2007年1月、内山書店発行)の「2006年読書アン
ケート」(第1回)に答えて、昨年読んだ特に興味を感じた本として5冊紹介されている。

 雑誌名からしても推察されるように、中国で出版されたものなどが多数を占める中、朝
元教授が取り上げた本は全て台湾関係で異彩を放っている。朝元教授の了承の下、下記に
それをご紹介し、読書の参考に供したい。                (編集部)

朝元照雄(あさもと てるお)
昭和25年(1950年)生まれ。筑波大学大学院社会科学研究科経済学専攻博士課程修了。ハ
ーバード大学フェアバンク東アジア研究センター客員研究員等を経て、現在、九州産業大
学経済学部教授。専門分野は開発経済学、アジア経済論、台湾経済論。主な著書に『現代
台湾経済分析』『開発経済学と台湾の経験』、編著に『台湾経済論』『台湾の産業政策』
『台湾の経済開発政策』、共著に『台湾農業経済論』など。


2006年読書アンケート
【月刊「中国図書」2007年1月、内山書店発行】

朝元照雄(九州産業大学 アジア経済論)

 この夏、台北市内の書店をぶらぶら見て歩き、近年の台北市内の書店事情マップが大き
く変わったこと(小生が前回書いた「1998年読書アンケート」本誌1999年3月号からの変
化)を感じた。

(1) 総統府のそばの衡陽街の書店街は没落傾向を呈していた。正中書局、東方出版社など
  が消え、中国大陸出版の書籍の台湾販売の解禁によって、それを販売する書店が見ら
  れた。

(2) 台湾大学近くの羅斯福路ご用の書店(南天書局、唐山書局、聯経出版など)は大学生
  のニーズがあるため、健闘していた。中国書籍専門店も見られた(しかも人民元の台
  湾元の換算レートから計算すると大変安い)。

(3) 2006年に、「台湾最大のフロアー面積の書店」の誠品書局信義店(地下鉄の「台北市
  政府駅」の近く)が開店され、脚光を浴びていた。高層ビル約3階のフロアー面積分
  のゆったりとした書籍販売空間で、客層を増やしていた。誠品書局は、台湾最大の書
  店チェーンに成長したことを疑う人はないだろう。誠品書局敦化店(地下鉄「忠孝復
  興駅」の太平洋SOGOデパート忠孝店の近く)を超えたフロアー面積であった。誠
  品書局信義店の近くには世界で最も高い高層ビル「台北101」があり、シンガポー
  ル系書店が入居している。国内外の雑誌・書籍が販売されていた。

1、『台湾文化事典』(国立台湾師範大学人文教育研究中心、2004年)

 この書籍は130名以上の専門家が執筆し、1200ページを超え、貴重な「工具書」である。
昨年の「2005年読書アンケート」で小生が「台湾研究の金字塔」として『台湾歴史辞典』
を紹介したが、両書は「補完関係」にあり、台湾研究者の書斎には不可欠の一冊である。

2、ジョン・J・タシクJr編、小谷まさ代・近藤明理訳『本当に「中国は1つ」なのか−
 アメリカの中国・台湾政策の転換』(草思社、2005年)

 2004年台湾総統選挙の直前にアメリカのシンクタンク・ヘリテージ財団によって開催さ
れたシンポジュムで提起された論文集である。アメリカの「一つの中国」の「過ちの反省」
と、新しいビジョンの提起が主な内容である。下院議員(共和党と民主党)、大学教授、
研究所研究員、雑誌編集長などが執筆。

3、李登輝著、中嶋嶺雄監訳『李登輝実録−台湾民主化への蒋経国との対話』(産経新聞
 出版、2006年)

 李登輝が書いた『見証台湾―蒋経国総統と私』の日本語版訳である。蒋経国総統が李登
輝を副総統に指名した瞬間から蒋経国が亡くなり、総統に就任するまでの期間を忠実に記
録したものである。蒋経国との会見のメモなどを使い、李登輝の民主化への信念を発表し
たもので、歴史的な価値が充分にある。

4、内田勝久『大丈夫か、日台関係―「台湾大使」の本音録』(産経新聞出版、2006年)

 日本駐台湾大使(交流協会台北事務所長)が3年3ヵ月の勤務を通じて語った日台関係
である。内田氏は外務省に入省し、44年間の外交活動に従事、その間にイスラエル、シン
ガポール、カナダ、台湾の大使を務めた。この本は台湾勤務期間中の出来事、交流を緻密
にまとめたものである。台湾を愛する台湾大使の激務の一端を見ることができる。

5、George Psalmanaazaar,An Historical and geographical Description Formosa,
 1705(薛絢訳『福爾摩沙変形記』大塊文化、台北、1996年)

 この本は台湾史・地理学に関する「偽書」である。
 18世紀の初め、台湾の先住民と称したGeorge Psalmanaazaar氏(1678〜〜1763年)がイ
ギリスで台湾歴史、民族誌の書籍を出版した。この書籍は最初にラテン語で書かれ、英語
版、フランス語版、オランダ語版などに訳された。
 作者は自称台湾で生まれ、教会の神父に騙されヨーロッパに渡った。その後、イギリス
教会の牧師になり、イギリスに渡ったと言う。1704年にこの本を書いたときは25歳であっ
た。
 勿論、氏は台湾に行ったことがなく、挿絵を見ると、「真っ赤なウソ」であることがわ
かる。しかし、この書籍からは当時、ヨーロッパ人が「想像」したアジア(台湾、日本)
の様子(法律、宗教、祭日、礼儀、婚姻風習、葬儀など)を窺うことができる。そういう
意味では大変面白い。原本は一八世紀に出版されたため、入手は難しいが、中国語版に訳
されことによって、ぜひ読んで欲しい一冊。