新型コロナウイルスが蔓延していた2021年4月下旬、石川欽一郎(いしかわ・きんいちろう)とともに台湾美術振興に大きく貢献した宮崎県出身の画家、塩月桃甫(しおつき・とうほ 1886〜1954)の足跡を追ったドキュメンタリー映画「塩月桃甫」が地元の西都市民会館で公開された。
監督は宮崎県延岡市出身のアーティスト小松孝英(こまつ・たかひで)氏。
塩月桃甫渡台100周年記念として制作した初めての作品だった。
小松氏はその後、小説家で、井伏鱒二門下の中村地平(なかむら・ちへい 1908年〜1963年)を2024年に映画化している。
中村は同じ井伏門下だった太宰治ほどには知られていないが、台湾を題材にした『蕃界の女』『霧の蕃社』『長耳国漂流記』などの小説を多数発表し、南方文学の旗手として脚光を浴びた宮崎県出身の文化人だった。
台湾の中央通信社は「映画の公開後、塩月や中村への理解や関連の研究、再評価が進んでいるという」と伝え、現在は「台北高校(現台湾師範大学)で教壇に立ち、戦後に宮崎県日向市の初代市長を務めた三尾良次郎(1894〜1978年)と台北高校講堂や台湾総督府高等法院庁舎(現司法院庁舎)などを設計した建築家の井手薫(1879〜1944)を題材にした2作品を同時制作している」とも報じている。
三尾良次郎(みお・りょうざぶろう 1894年〜1978年)は日向市市長をつとめるも、『黒田の家臣物語』『日知屋物語 三尾良次郎作品集』などがある歴史学者だという。
井手薫(いで・かおる 1879年〜1944年)は、日本銀行本店や東京駅、国技館などを手掛けた「近代日本建築の父」と称された辰野金吾の教えを受けた建築家で、台湾の日本基督教団台北幸町教会(現・済南基督長老教会)、台北高等学校講堂(現・国立台湾師範大学禮堂)、台北公会堂(現・台北中山堂)、台北市役所(現・行政院)などを手掛けた。
「独楽吟」で知られる幕末の歌人・橘曙覧(たちばなの・あけみ)の孫でもある。
ちなみに、立法院のすぐ近くに建つ済南(せいなん)基督長老教会は、李登輝元総統が1961年4月に洗礼を受けた教会で、本会が新型コロナウイルス終息後に再開した李登輝学校研修団の会場としている教会だ。
「地方創生」という言葉がはやっている。
「地域内の人々がその土地で安心して暮らし、働き、育てることができる社会を創り上げること」だというが、そのためには郷土に誇りを持つことが何よりも大事なことではないのか。
このような郷土の偉人を深く知ることが誇りの源になる。
その点からも、小松監督の映画により「宮崎県で映画の公開後、塩月や中村への理解や関連の研究、再評価が進んでいる」ことは、地方創生の基盤を強化していることを証している。
公開は三尾良次郎が2026年、井手薫が2027年の予定だという。
今から公開が楽しみだ。
美術家の小松孝英さん 戦前の台湾で活躍した日本人追う映画制作
【中央通信社:2025年1月27日】
https://japan.focustaiwan.tw/column/202501275001
*塩月桃甫、中村地平、三尾良次郎、井手薫のプロモーション・ビデオも掲載。
宮崎県を拠点に活動する美術家の小松孝英さんが、日本統治時代の台湾を含む外地などで活躍した日本人に焦点を当てたドキュメンタリー映画シリーズの制作に取り組んでいる。
これまで公開された2作品ではいずれも、台湾では一定の知名度がありながらも、日本ではあまり知られていない文化人を取り上げており、台日それぞれの地での貢献や功績などを伝えることで、地域おこしや国際文化交流につなげたいとしている。
シリーズの1作目となったのは、自身と同じ宮崎県出身の画家で台湾美術界の発展に貢献した塩月桃甫(1886〜1954年)を題材にした「塩月桃甫」(2021年公開)。
・ドキュメンタリー映画「塩月桃甫」:
https://shiotsukitoho.com/
2017年ごろに台湾で開かれた日本統治時代の作品を展示する展覧会で、塩月とその作品に出会い、描くことの意義やなぜ作品を残すのかなどを含む塩月の創作に対する考え方、当時の一般的な思想に流されずに自身の信念を貫いた姿勢などに強くひかれた小松さんは「このままでは忘れ去られてしまう人たちを記録に残そう」と思ったと制作の理由を振り返る。
スポンサー集めにも奔走し、熱意が通じた約30の企業や団体などから協力を得た。
当初はこの1作品だけを制作するつもりでいたが、制作過程で知った同じ宮崎県出身で、塩月の教え子だった小説家の中村地平(1908〜63年)の考え方にも感銘を受け、2作目となる「中村地平」を制作、24年に公開した。
いずれの作品も、親族や研究者、教え子など関係者へのインタビューの他、ゆかりの地での撮影を通じて、時代の変化に埋もれた人物と歴史を今に伝えている。
・ドキュメンタリー映画「中村地平」:
https://chihei-nakamura.com/
塩月や中村の植民地政策に対する個人的な見解など、デリケートな事柄も取り上げているが、小松さん自身は、「研究者や記者ではなく、あくまでもアーティストである」と強調。
内容に政治や宗教などの偏りが出ないよう、中立の姿勢を保ち、完成前には専門家らを招いた審査会で表現や演出に問題がないかを確認するなど、制作には慎重を期し、作品の中で小松さんのメッセージはあえて明確にしていない。
「答えは見る人にある」。
映画の公開後、塩月や中村への理解や関連の研究、再評価が進んでいるという。
絶版などで手に入りにくい中村地平の作品に関しては、読みたいという反響があり、昨年6月に短編小説集を出版。
宮崎県内の中学校と高校、各市町村の図書館に1冊ずつ寄贈した。
また続編を望む声やサポートの申し出が多く寄せられたため、本業であるアート制作と並行して映画制作を継続。
シリーズは最終的に全8作品とする計画だ。
朝鮮半島や旧満州で活躍した人物を扱うことも考えている。
現在は、台北高校(現台湾師範大学)で教壇に立ち、戦後に宮崎県日向市の初代市長を務めた三尾良次郎(1894〜1978年)と台北高校講堂や台湾総督府高等法院庁舎(現司法院庁舎)などを設計した建築家の井手薫(1879〜1944)を題材にした2作品を同時制作している。
公開は三尾良次郎が26年、井手薫が27年の予定。
映画を見て題材となった人物に「興味を持ってもらえたら」と小松さん。
日本人には台湾で、台湾人には日本で「足跡を追ってほしい」と期待を寄せた。
・ドキュメンタリー映画「井手薫」:
https://www.bing.com/videos/riverview/relatedvideo?q=%e3%83%89%e3%82%ad%e3%83%a5%e3%83%a1%e3%83%b3%e3%82%bf%e3%83%aa%e3%83%bc%e6%98%a0%e7%94%bb%e3%80%8c%e4%ba%95%e6%89%8b%e8%96%ab%e3%80%8d&mid=C0FDA66B7E82EA618475C0FDA66B7E82EA618475&FORM=VIRE
(齊藤啓介)。
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