日本経済新聞が2月28日から3月3日にかけ、中村裕、龍元秀明という記者による「台湾、知られざる素顔」を4回にわたって掲載した。これが大不興を買っている。
不興どころか、台湾の国防部は3月1日、記事は事実無根の作り話だと反論する「『日本経済新聞の出所不明の報道により国軍忠誠度を疑う』について」という声明を出し、外交部も2日、深い遺憾を表明し事実を明確にするよう求める声明「有關『日本經濟新聞』引用不明消息來源,質疑我國國軍保家衛國忠誠度,外交部嚴正回應如下」を発表している。
加えて、謝長廷・台北駐日経済文化代表処代表も、当の日本経済新聞に「記事は確認と検証がされておらず、国軍の名誉を甚だしく傷つけたとして、深い遺憾の意を表明する文書を同紙に送った」ことを明らかにしている。
それもそのはずで、例えば「我々こそ中国だと、今なお台湾独立に反対する教育が軍内で盛んだ」「軍幹部の9割ほどは退役後、中国に渡る。軍の情報提供を見返りに金稼ぎし、腐敗が常態化している」という発言を「関係者」や「軍事専門家」といった匿名で紹介している。
いったいいつの話だと目を疑うような発言を、今の話として紹介している。
尖閣諸島を巡ることでも「尖閣では『中台で連携を望む声が絶えない」という声を「関係者」の話として伝える。これもまた、いつの話だと疑わざるを得ない発言だ。
4回目では台北市長に当選した蒋萬安氏を登場させ、「対中強硬路線の人気は陰り、昨年の統一地方選では大惨敗を喫した。入れ替わるように蒋が表舞台に現れた。……勢いづく国民党。台湾社会の底流に今『中国寄り』にも傾く系譜が流れ始めた」と結び、連載を締めくくっている。
1回目で軍が腐敗していることや、尖閣を巡って連携を望む声が絶えないという話を紹介し、2回目は4カ月間の義務兵役の招集通知を受け取った23歳の青年を登場させて「正直、台湾を背負って戦う愛国心もない。でもあんな中国と一緒になるのは怖いし、絶対に嫌だ」という声を紹介する。
しかし、第3回目では「中国から経済で自立する力は、もはや今の台湾には残っていない」という台湾大手首脳の声を登場させて、台湾経済の未来は中国の力なしには険しいとイメージさせ、第4回目で蒋萬安という希望の星が登場したとする流れだ。
この日本経済新聞の連載に敢然と「日本人の知的レベルを侮辱」「デタラメ記事」「印象操作」だと批判したのが、Taiwan Voice解説者の林建良氏。
また、台湾の声編集部の多田恵氏も記事が蔡英文総統の発言を捏造したと指摘している。記事では「蔡英文総統が「(中国との)交流は発展の基礎となります」と発言しているかのように引用している。中国と交流することが台湾の経済発展の基礎であると発言したかのように誤解させる表現だ」として、蔡英文総統の発言原文を紹介し、「日経新聞の引用は翻訳の域を遥かに超えた捏造」と批判している。
この批判も、蔡英文発言を記事に都合のいいように捏造したことを暴く的確な批判だ。林建良氏の指摘とともにお読みいただきたい。
◆【糾弾】日経新聞の引用は翻訳の域を遥かに超えた捏造 【台湾の声:2023年3月2日】 https://ritouki-aichi.com/vot/%e3%80%90%e7%b3%be%e5%bc%be%e3%80%91%e6%97%a5%e7%b5%8c%e6%96%b0%e8%81%9e%e3%81%ae%e5%bc%95%e7%94%a8%e3%81%af%e7%bf%bb%e8%a8%b3%e3%81%ae%e5%9f%9f%e3%82%92%e9%81%a5%e3%81%8b%e3%81%ab%e8%b6%85%e3%81%88/20230302
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1)「それでも中国が好きだ」 台湾軍に潜む死角(2月28日) https://www.nikkei.com/article/DGKKZO68820570X20C23A2EA1000/2)中国、台湾世論の隙狙う 票誘導へ「チャットを売って」(3月1日) https://www.nikkei.com/article/DGKKZO68860910Y3A220C2EA1000/3)台湾「政治の理想で飯食えない」 ハイテク天下あと3年(3月2日) https://www.nikkei.com/article/DGKKZO68895040S3A300C2EA1000/4)台湾総統への登竜門 蒋介石のひ孫、台北市長に(3月3日) https://www.nikkei.com/article/DGKKZO68937780S3A300C2EA1000/
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