日本語世代の憂い [産経新聞台北支局長 長谷川 周人]

【1月12日 産経新聞「外信コラム・台湾有情」】

 台湾には日本の短歌や川柳に思いを託す、いわゆる日本語世代の人々がいる。日本統治
時代に日本教育を受け、敗戦から半世紀あまりを経た今もなお、日本との結びつきを大切
に暖め、自らを「元日本人」と呼ぶ人たちだ。

 「若い日本人が尋ねてくると、私は決まってこう話す。あなたたちは『日本精神』をも
っていない日本人。私は『日本精神』をもっている台湾人だ、と」。

 昨年12月、短歌を愛する日本語世代が集う「台湾歌壇」の創立40周年を祝う式典でこ
う話し、拍手喝采(かっさい)を浴びたのは、台湾紙・自由時報の呉阿明董事長。奇美電
子創設者の許文龍氏も「日本文化が台湾に根付いていることを若い世代に知ってほしい」
とやった。

 許氏は名器のコレクションで知られるが、ストラディバリウスで「赤とんぼ」や「ふる
さと」を弾く実業家は他に類を見ないだろう。この日は日本人がつくったビオラを持ち出
し、「浜辺の歌」から「蛍の光」まで懐かしの童謡など約20曲を披露。100人近い出席者
の大合唱とともに、心にしみいるハーモニーを奏でた。

 会の代表で「老台北」として知られる蔡焜燦氏は「これが台湾なんだよ」。

 「しみじみと今でも浮かぶ終戦日」
 「独立をしたい台湾白昼夢」

 年明けの「台湾川柳会」で詠まれたこの句にも、日本語世代が抱く憂いがにじむ。

                                 (長谷川周人)



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