湾総統が提言」と題し、李登輝元総統が東日本大震災の救援と復興に向け、日本政府、
各界に対し「自らの体験に基づいた総合的できめ細かな内容」の提言をまとめられたこ
とを伝えています。
また、昨日発行した本会の「校友会通信」(台湾李登輝学校研修団の卒業生向け通信)
では、昨日発売の「週刊ポスト」に李元総統が寄稿されていることを伝え、産経新聞記
事とダブらないように冒頭の呼びかけと結びの部分だけ紹介しています。
そこで、本誌では3月15日付けで提言された「『東北関東大震災』に寄せる言葉」の全
文を、長文となりますが「週刊ポスト」からご紹介します。
なお、この「週刊ポスト」(4月1日号)は、「いま私たちは何を考えどう行動すべき
か」と題し、「この国難を私たちはどうとらえ、どう歩んでいくべきなのか」の方策を、
櫻井よしこさんや金美齢さん、曽野綾子さん、日下公人氏、ビートたけし氏、高山正之
氏など有識者30人の方々からの提言を紹介しています。それぞれに読み応え十分で、不
思議なことに、読んだ後にさわやかな気持ちが満ちてきます。ぜひ一読ください。
■ 週刊ポスト(4月1日号)
http://www.zassi.net/mag_index.php?id=51&issue=29251
「東北関東大震災」に寄せる言葉 李登輝
この度の「東北関東大震災」は地震、大津波、原発といった幾重にも重なる災害でし
た。日本の皆様、殊に被災地の皆様には心よりお見舞いを申し上げると同時に、この震
災で亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げます。
私も日本の皆さんと同様に、地震発生から今日まで、ずっとテレビを見ておりました。
そして、どうしても思い出されるのが、1999年9月21日、台湾で起こった大地震のことで
す。
今回の災害は余りに大きく、複雑であるため、再建復興は非常に困難なものとなり、
時間的にも長引くことが予想されます。しかし人間の力では及ばない大自然の猛威を前
に、畏敬の念は抱いても、決して「運命だ!」とあきらめないで欲しいということです。
自信と勇気を奮い起こしてください!
以下、些(いささ)かなりとも皆様のご参考になればと思い、私の経験に基づき、災
害処理、及び再建復興に関して、短い文を綴らせていただきます。
まず、この度の救災に当り、中央政府は陸海空の自衛隊を活用しましたが、これは、
神戸・大阪の大震災には採用しなかったもので、私は非常に適切な処置であると思って
おります。自衛隊ほど指揮命令系統が明確な組織はありません。電力や通信が被災地で
は復旧していないため、大多数の被災者は政府の救災措置や正確な情報が伝わらず、不
要な誤解を招きやすいのです。政府は官房長官による臨時報告を行っているようですが、
これでは被災者に伝わらないことが多く、やはり自衛隊の各震災救援指揮センターを通
してより広く公布する必要があると思います。
又地震や津波で生き埋めになったり、亡くなった方の救出と捜索を行う外、瓦礫の除
去、仮設住宅の設置、救援物資の配給に至るまでの全てを自衛隊に頼らざるを得ません。
また第一段階における人命救助、更に遺体の処理問題を迅速に行う為には、検視官を被
災地に、できるだけ早く派遣する必要があると思います。
第二段階は生存者の為の種々の措置がとられなければなりません。そのためには、中
央が緊急命令を発布して、地方自治体が何事においても震災救援を最優先すして実行に
移すべきであると思います。緊急命令の内容と範囲は震災救援、及び今後の再建に限定
し、被災地域の範囲の画定・被害状況の区分・救援物資の調整・土地の徴用・予算など
に及び、全て現行の法令の制度を受けない様にする。その目的は国民の自由を保護し、
民主政治を徹底的に遂行して、震災救援、及び再建を最も効率的に進め、政府に必要な
措置をとらせることにあります。政府は国民より大きな権限を与えられていますが、そ
れに応じて負うべき責任も重いのです。是非ともリーダーシップを存分に発揮していた
だきたいと思います。
余震はしばらく続くでしょうが、あまりそれにはとらわれることなく、進行すべき処
置は継続してやっていく必要があります。地震や津波で亡くなった方々の追悼式を宗教
団体に委託して、迅速に行い、総理は国民を代表して犠牲者の冥福を祈るのが当たり前
でしょう。
原子力発電所の問題については、これを電力会社と原子力発電研究の専門家や学者に
任せて、中央で緊急チームを作って、処理すべきであると思います。
その外、被災者の心のケアも軽視できない重要な課題です。被災者が悲惨な記憶から
抜け出して、新たな人生を切り開く手助けをする必要があると思います。救済の一環と
して被災者に仕事を斡旋する方式(以工代賑)は、台湾の場合、彼らの心のケアに大変
役立ちました。日本政府や地方自治体はこれを立案し、実行されたらいかがでしょう。
最後に、皆様に申し上げたいことは、再建はわれわれが傷痕から抜け出し、再生する
ための契機です。次世代のために、永続的に発展する安全で平和な新しい日本が創造で
きることを心より願っております。どうぞ、元気を奮い起こしてこの危機を突破してく
ださい。一刻も早い復興をお祈り致しております。
台湾元総統 李登輝
2011年3月15日