日台関係強化への道(3) [台湾元行政院院長 謝 長廷]

台湾と日本の関係強化への道筋・進歩的な若者のカを結集

 謝長廷氏は今回の来日で日本人に何を最も訴えたかったのか──。それをよく現して
いたのは、講演草稿を準備して日本語で行った初日の京大講演だろう。それを、前々号
からご紹介している。今号が最終回である。

 因みに、この京大講演は台湾留日京都大学校友会の主催により、本会理事でもある大
田一博氏が推進役となって、12月16日、京都大学医学部創立百周年記念施設の「芝蘭会
館」で行われた。                          (編集部)


日台関係強化への道(3)─台湾と日本の関係強化への道筋・進歩的な若者のカを結集

                          台湾元行政院院長 謝 長廷

■台湾と日本の関係強化への道筋

 私はつねづね台湾と日本がお互いの関係をいかに強めるべきかについて考えてまいり
ました。関係強化のためには、いくつかの側面からアプローチする必要があると思いま
す。

 まず一つは政治的な側面です。日本は中華人民共和国と国交を結んだ際、アメリカの
ように台湾との関係を法的に保障する「台湾関係法」を制定しませんでした。そのため、
日本と台湾の政府上層部が交流しようとすると、必ず中国の抗議や干渉を招いてしまい、
したがって日本と台湾の関係は思うように前進しないのです。私といたしましては、日
本が是非とも障害を取り除き、台湾との関係発展に取り組んでいただきたいのです。

 そこで私が日本に対してお願いしたいことは、日本が一日もはやくアメリカの「台湾
関係法」に類似した法律を制定して、台湾の総統・副総統クラスが日本にもある条件や
トランジットの形で訪問できるようにすることです。それによって両国の相互往来と友
好関係がますます発展することになると思います。

 二つ目のアプローチとは、NGO・NPOの活用です。台湾と日本はアジアにおいて
NGOが発達した社会どうしであり、その活動範囲や分野も広範にわたっています。そ
のなかでも私自身が最も注目してきたことは、環境保護運動です。こちら京都はまさに
京都議定書が締結された場所であります。私は日本が京都議定書に関して主導的な役割
を果たし、台湾も京都議定書に署名・参加できる道を開いていただきたく思います。

 私が総統になった暁には、台湾が世界とともに、二酸化炭素その他の温室効果ガスの
削減に積極的に取り組んでゆきたいと思います。

 また、2005年には東京地方裁判所でハンセン病元患者に対する判決がございました。
これは日本と台湾にとって意識革新、意識維新の一つの好例だと考えます。日本と台湾
両国のNGO、市民社会が協力して、ハンセン病患者の権利を勝ち取ったからです。

 私はまた台湾行政院長(首相)を務めていた間に、「ハンセン病補償特別法」を提案
しました。これらは価値観の革新であり、旧い思想を乗り越えることができた好例です。
日本と台湾両国の進歩的なカが結集した事例であったと申せましょう。

 三つ目のアプローチは情報通信・経済面での交流です。日本と台湾はこの方面で相互
協力・相互補完できる関係にあると思います。実際、台湾新幹線は日本の技術を導入し
て完成されたものであり、ほかにも経済協力関係は長い歴史を持っております。もし日
本の技術力と台湾のフレキシブルな企業経営の発想が結合した場合には、さらに経済関
係の飛躍が望めることでしょう。また、相互に相手先のための貿易特区を設けて、競争
力の相互向上を目指すことも考えてもよいでしょう。それに中国に対する投資について
みても、日本の技術力と台湾の中国文化に対する理解が結合できれば、ほかに比べるも
ののない強い競争力を誇ることになるはずです。

■進歩的な若者のカを結集

 最後になりますが、日本と台湾の若者について一言述べたいと思います。

 現在の台湾は日本統治時代の教育を受け、日本語が流暢な方がどんどん減る趨勢にあ
ります。しかし、私はそのことは台湾と日本との友好関係の発展に対して大きな障害に
ならないと考えます。と申しますのも、日本の若い世代のなかでも、台湾との貴重な歴
史的絆を重視し、積極的に台湾との交流を求めている人たちがたくさん出てきているか
らです。

 先ほど私がNGOについて申し述べましたが、NGO・NPOの交流や地球温暖化へ
の対応などに、若い世代の日本人と台湾人が積極的に関係を持つことは非常に重要であ
り、また両国政府もそうしたNGOの交流を積極的にバックアップし、交換留学の制度
を拡充してゆかなければならないと考えます。

 これに関連して、台湾の将来を担ってゆくものとして、私は「和解と共生」という哲
学を提示しております。台湾国民の将来のために幸福と希望を与えると同時に、中国と
の関係において台湾国民の知恵を結集してゆきたいと考えます。

 私が総統になった暁には、中国との関係は平和的で互いの尊厳が保障される対話が再
開されることと確信しております。台湾と中国の関係が平和的で安定したものとなり、
そして若い世代の進歩的な力を結集して台湾と日本との関係も強化することで、日本と
台湾がアジアと世界において最も進歩的な改革勢力となることができると思います。ま
たそれこそが、私自身がかつて京都大学で学んだ自由・民主主義・改革精神の実現につ
ながることだと思います。

 御清聴ありがとうございました。



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