日台関係強化への道(2) [台湾元行政院院長 謝 長廷]

強者・中国の妥協こそ平和の鍵

 謝長廷氏は今回の来日で日本人に何を最も訴えたかったのか──。それをよく現して
いたのは、講演草稿を準備して日本語で行った初日の京大講演だろう。それを、前号か
らご紹介している。

 因みに、この京大講演は台湾留日京都大学校友会の主催により、本会理事でもある大
田一博氏が推進役となって、12月16日、京都大学医学部創立百周年記念施設の「芝蘭会
館」で行われた。                         (編集部)


日台関係強化への道(2)─強者・中国の妥協こそ平和の鍵

                          台湾元行政院院長 謝 長廷

■強者・中国の妥協こそ平和の鍵

 ところで、台湾の現在のあり方が日中や米中関係を阻害する要因になっているという
意見がありますが、それは正しい見方とはいえません。もし台湾問題がなくても、中国
が現在行っている軍拡、資源収奪、悪質な経済競争などに中国そのものの問題を見るこ
とができるでしょう。つまり、問題は台湾という民主主義国家にあるのではなく、中国
にこそ問題の根源があるということなのです。

 中国は大国で、台湾は小国です。大国と小国が付き合っていく場合には、強者である
大国の側が妥協することが必要だと思います。台湾と中国の関係において、今の中国に
は強者が持つべき妥協と寛容の精神に欠けているように思えます。しかしながら、強者
が隆盛にある時こそ、緊張と脅威と同時に、チャンスと利益も生まれるわけですから、
真の強者ならば妥協する術を知ることが必要です。それによってこそ、脅威を互恵関係
に、緊張を平和に転化させることができるのです。

 私はつねづね「平和共存」ということを申し上げてまいりました。しかし、その場合
の平和共存とは何も台湾に対して主張しているだけではなくて、中国に対しても求めて
いることなのです。もし羊が虎に出会ったときに、羊の側が先に寛容や共存を持ち出し
ても意味がないのですから。

 また、ある人はこういう批判をします。1990年代に台湾が国民党政権だったころは、
中国と対話することができたのに、民進党政権になってからはまったく対話が進まな
い、と。

 しかし、時代環境がまったく違います。1990年代の中国はまだまだ国力が弱く、中国
というのは国力が弱い時期には妥協しやすいのですが、強くなると妥協しようとしない
からです。だからこそ私は中国に対して求めたいことは、孔子がかつて指摘したように
「小をもって大に事(つか)うるには智をもってし、大をもって小に事うるには仁をも
ってす」、つまり小国は大国に対しては知恵をもって対応するかわりに、大国は仁、寛
容の心をもって小国に対応しなければならない、ということです。



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