ただし、これまで日台間で安全保障に関する協力関係はない。それが唐突な印象を与えているが、それだけにダメ元で呼びかけた感もある思い切った発言で、日本政府も戸惑ったに違いない。
それが、3月8日の記者会見における菅義偉・内閣官房長官と河野太郎・外務大臣の反応によく現れていた。
菅官房長官は「1972年の日中共同声明にあるとおり、日本と台湾との間では、非政府間の実務関係を維持していくのが日本政府の立場であります。そうした発言は承知しておりますが、いずれにしても政府としては、いま申し上げた立場に基づいて適切に対応してゆきたい」と答え、河野外相も「日本と台湾との関係は非政府間の実務関係を維持していくというので一貫している。この立場に基づいて適切に対応してまいりたい」と述べた。
官房長官も外務大臣も「非政府間の実務関係を維持していく」「適切に対応してゆきたい」と、まったく同じ表現で、公式見解の域を出ない無難な答えだった。
日本と台湾は国交がない。だから政府間交渉はできない。日台間のすべての事柄が「日本台湾交流協会」と「台湾日本関係協会」という民間機関同士で話し合うという建前だ。
しかし、それにしてもその歯切れの悪さに、なにを慮っているのだろうと疑問を感じたのは編集子ばかりではなかったようだ。
中央通信社は「国際政治学者で政策研究大学院大学長の田中明彦氏が7日、日本側は中国への配慮などで準備ができていないとの考えを示した」と報じている。恐らく田中氏の指摘するとおりで、中国を慮っていることで歯切れが悪くなったのだ。
田中氏は、第一次安倍政権で設置された「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」のメンバーだ。座長は駐米大使をつとめた柳井俊二・国際海洋法裁判所所長で、本会副会長だった故岡崎久彦・岡崎研究所代表や佐瀬昌盛・防衛大学校名誉教授、西元徹也・元統合幕僚会議議長などもメンバーで、2014年に集団的自衛権の行使は認められるとする報告書を提出している。
田中氏は東京大学東洋文化研究所所長もつとめたことがあり、日中関係や日台関係も熟知しており、中央通信社の質問に「当局間対話の開催は『不可能』としつつも、サイバーセキュリティーなどの分野では、実務者協議だけで効果を上げることができる」とも答えたという。
日台関係は「非政府間の実務関係」なのだから、蔡総統の真摯な問いかけに、日本政府はせめて実務者協議だけで効果を上げられるという含みを残して答えて欲しかった。しかし、菅官房長官が答えたように「友好関係を継続していくのは当然のこと」なのだから、今後の「適切な対応」に期待したい。
日台安保対話、専門家が見解 日本の対中配慮に言及【中央通信社:2019年3月9日】http://japan.cna.com.tw/news/apol/201903090002.aspx
(東京 9日 中央社)蔡英文総統が産経新聞の独占取材を通じ、安全保障・サイバー分野での直接対話を日本政府に要請したことについて、国際政治学者で政策研究大学院大学長の田中明彦氏が7日、日本側は中国への配慮などで準備ができていないとの考えを示した。
同日東京都内であったフォーリン・プレスセンター(FPCJ)主催のシンポジウムに出席した際、中央社の記者から日台安保対話に関する質問を受けて答えた。
田中氏は、現時点での日台ハイレベル、当局間対話の開催は「不可能」としつつも、サイバーセキュリティーなどの分野では、実務者協議だけで効果を上げることができるとの見解を示した。
蔡総統の安保対話要請を巡っては、日本の河野太郎外相が8日の記者会見で、日台関係は「非政府間の実務関係を維持していくというので一貫している。この立場に基づいて適切に対応してまいりたい」と述べた。
(楊明珠/編集:羅友辰)