新・人権擁護法案の危険性 [日本大学教授 百地 章]

【6月10日 産経新聞「正論」】

≪旧法案と本質変わらず≫

 「『話し合い解決』等による人権救済法」(案)−。これが旧「人権擁護法」(案)
に代えて自民党執行部(太田誠一・人権問題等調査会会長)が提出してきた法案である。
一見、ソフトなイメージだが、その危険性は旧法案と全く変わらない。

 本法案では、旧法案にあった「一般救済」の対象を「憲法14条が定める人種等による
差別」など5種類に「限定」、「特別救済」についても「話し合いによる解決」と名称
を改め、対象を「公務員及び事業者・雇用主が行う差別的取扱い」など5類型に「限定」
しており、「委員会」による権力の乱用や恣意(しい)的行使はあたかも抑制できそう
である。

 しかしながら、前者について言えば、「憲法14条が定める人種等による差別」の中に
は当然「思想・信条」や「社会的身分」による差別を含め「一切の差別」が含まれるか
ら(判例、通説)、「救済」の対象は旧法案と同様、際限なく広がり、権力乱用の危険
も増大する。

 つまり、「任意」とはいえ、行政委員会が常に国民に目を光らせ、人権侵害の申し立
てがあれば法務局に代わって委員会が国民生活の隅々にまで介入・干渉することが可能
となる。

 実は、現在でも法務局は同省訓令に基づき「任意の呼び出し」を行っており、知人の
M氏は外務省の意見交換会で特別永住者制度を批判しただけで在日韓国・朝鮮人に対す
る差別であると訴えられ、この3月に呼び出しを受けた。したがって法律が制定されれ
ば、このような呼び出しが行政委員会の手で日常的に公然と行われることになろう。

≪実体は「言論弾圧法」≫

 他方、「話し合いによる解決」であるが、これも名称とは裏腹に極めて危険なもので
ある。

 なぜならこの「話し合い」は強制的なものであって、もし出頭を拒めば「強制的な呼
び出し」がなされるからである。しかも行政委員会には「調査権」まで認められ、その
具体的内容は法案に示されていない。したがって安易に本法案を承認してしまえば、令
状なしの「出頭要請権」や「立ち入り調査権」まで法律に盛り込まれてしまう恐れがあ
る。そうなれば、旧法案とどこが違うのか。

 この点、法案では救済の対象は「不法行為」に限定されるから乱用の心配はないとい
う。しかし、裁判所でもない一行政委員会が一方的に判断するわけだから、常に公正な
判断を期待することなどできないし、条文に書いただけでは、何の保障にもなるまい。

 また、「話し合いによる解決」の対象の中には、「反復して行う差別的言動」が含ま
れており、本法案が自由な言論・表現活動を抑圧する危険な法律であることに変わりは
ない。確かに、法案には「反復して行う」との限定があり、その分権力乱用の危険は抑
えられよう。しかし「差別的言動」の中には、前に述べたように「一切の差別的言動」
が含まれるし、何をもって「反復」というのかも明らかでない。そのため、例えば政治
家や学者・評論家などが自らの思想・信念に基づいて演説や執筆活動を繰り返した場合
でさえ、「反復して行う差別的言動」に該当するとして行政委員会による強制的な「呼
び出し」や「調査」の対象とされうる。

≪メディアも等しく規制≫

 まさに言論弾圧であって、これでは北朝鮮による日本人拉致問題や中国によるチベッ
ト人虐殺でさえ迂闊(うかつ)に批判できなくなる。それでも太田会長や塩崎恭久・会
長代理らは、憲法21条(表現の自由)違反ではないと言い張るのだろうか。

 さらに、本法案については「メディア規制削除」と報道した新聞もあったが、これも
正しくない。というのは、メディア規制の削除といっても、それは「行き過ぎた取材活
動を問題にする条項は設けない」つまり、旧法案のように「特別救済」の対象にしない
というだけで、「任意の人権救済」(旧法案の一般救済)の対象から外してしまうわけ
ではないからである。法案には「報道機関については特別な取扱いをせず法の下に平等
な扱い」をするとあり、メディアにも当然この法律が適用される。

 したがって、もし人権侵害の申し立てがなされて認められれば、マスメディアといえ
ども行政委員会による「任意の呼び出し」や「是正勧告」等の対象となる。それに法案
には報道機関を「話し合い解決」等の対象とするかどうかは「将来検討課題とする」と
あるから、いつ強制的救済の対象とされるかも分からない。自由社会を守るためにも、
マスメディアはこの問題をもっと報道し、率先して法案に反対すべきではなかろうか。
             
                               (ももち あきら)


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