で行われ、それぞれの対中国大陸政策や経済の振興策をアピールした。政見放送は12月30日と来年
1月8日にも行われる予定だ。
また、政見放送翌日の12月26日には、台湾選挙史上初となる副総統候補者によるテレビ討論会が
行われた。さらに、27日には総統候補者による第1回目のテレビ討論会が行われ、最大の争点であ
る対中政策などをめぐって激論が交わされた。
第2回目のテレビ討論会は1月2日に行われ、次回はネットを通じた市民からの質問にも答える予
定だという。
1月16日の投開票まで残すところ20日を切って大詰めを迎え、台北在住のジャーナリストで選挙
分析では定評のある迫田勝敏(さこだ・かつとし)氏は「民進党主席の蔡英文当確。問題は民進党
が立法院の過半数の議席を得て完勝なるか、そしてさらなる問題は選挙後にある」と指摘する。
◇ ◇ ◇
換―台湾初の女性総統誕生は確実だが… 迫田 勝敏(ジャーナリスト)
日本の今年を表す漢字は「安」だった。台湾でも聨合報などが今年の漢字を募集した結果「換」
となった。多くの台湾人が「換える」を望んだ。何を換えるのか。それは馬英九国民党政権だろ
う。となれば来年の総統選の結果は決まりだ。民進党主席の蔡英文当確。問題は民進党が立法院の
過半数の議席を得て完勝なるか、そしてさらなる問題は選挙後にある。
◆国民党の逆転、「奥歩」頼み?
総統選は1月16日、投開票だ。告示されたばかりだが、すでに終盤戦の印象。その割に「盛り上
がりに欠ける」という声を聞く。総統選は毎回、投票率は高い。初めて民進党政権が誕生した2000
年は82%を超えた。蔡英文が初出馬した前回でも74%強。関係者の間では「今回は70%を割る」が
多数だ。
なぜ、投票率は低くなるのか。「そりゃ、当然だよ。投票前から結果は分かっている」と関係
者。世論調査では蔡英文が他候補を断然、引き離して安定的に40%台を維持し、トップの座に揺る
ぎはない。国民党の朱立倫は副総統候補、王如玄の不動産投機スキャンダルもあって20%にも届か
ない。新北市長職のままの立候補でもともと「本気度」が問われていた。選挙戦での遊説でも「朱
の選挙戦に懸ける熱情が感じられない」という声は多い。
最後の望みはお得意の「奥歩(アオポ)」と呼ぶ汚い手か。前回2012年総統選ではバイテク国策
会社の株取得を巡る蔡の「不正」を暴き立てた。無実と判明したのは選挙後。投票行動には一定の
影響を与えただろう。
今回も「一時に11カ所の土地を買い、その後一時に売って暴利を得た」と国民党は宣伝したが、
土地は1カ所で土地番号が11に分かれていたというだけの話。国民党の卑劣な手法を暴露する結果
になった。まだまだ「奥歩」が出てくる可能性はあるが、有権者はそうは騙されない。朱の逆転は
至難の業だ。
◆第三勢力と統一会派、民進党陣営の国会過半数に
女性総統の誕生が確実となると、焦点は同日選挙の立法院(国会)だ。ここで民進党が過半数を
取れるかどうか。前回の民進党政権は少数与党のため、重要法案が阻止されるなど苦しんだ。例え
ば米国からの武器輸入。馬英九は自分の在任中に買った武器は陳水扁時代の8年間よりも多いと金
額を挙げて誇るが、当時、米大統領のブッシュは売却方針を台湾に伝え、陳は予算を組んだが、立
法院で過半数の馬党主席率いる国民党が予算通過を阻止した。国民党が反対したから買えなかった
のだ。
蔡英文は陳時代後半の1年3カ月、行政院副院長を務め、立法院で「なんでも反対の国民党」に手
を焼いた。それだけに今回は「国会過半」のスローガンを掲げ、過半数獲得に懸命だ。民進党内の
票読みでは現有の40議席から大幅増し「単独過半数(57)いける」が大勢。現時点ではその可能性
大だが、国民党は最終段階で資金に物言わせることが多いし、中国の圧力も懸念材料だ。
そこで民進党は過半数を確実にするため、11の選挙区で自党候補の擁立を見送り、時代力量や緑
党社会民主党連盟など第三勢力候補を支援、立法院で統一会派「進歩大連盟」を設立する戦略を打
ち出した。11選挙区の中には国民党に近い親民党の候補もあり、当選しても統一会派に加わるのか
疑問もあるが、このうち数人が当選すれば民進党陣営の過半数は確実性が増し、立法院のねじれは
なくなり、政策実施も順調になるはずだ。
◆馬政権は「看守政府」か「困獣之闘」か
蔡英文総統が誕生し、立法院も民進党陣営が過半数なら、台湾の主権を強調する野党勢力は万々
歳だが、実は今回の選挙の最大の問題は「選挙後」にある。立法委員の就任は2月1日なのに対し、
総統は5月20日。4カ月近いタイムラグ。これが大きな懸念なのである。
総統は国民党で、立法院は民進党。5月には総統も民進党になる。それまで少数与党の国民党政
権は「看守政府」(暫定内閣)になるはずだが、野党側には一抹の不安。周杰倫の歌ではないが、
馬英九の「困獣之闘」だ。野獣の悪あがきのようにシンガポールの馬習会談で合意した「一つの中
国」実現のため最後に諸々の措置を強行するのでは―ということだ。
その兆しはすでに出ているともいう。半導体大手の紫光集団が台湾の半導体2社買収を宣言、台
湾経済のけん引役であるIT業界が中国に飲み込まれようとしているが、経済部は認可の方針。交
通部は中国観光客の自由旅行1日5000人の上限を更に拡大を検討。一方の中国は台湾人にも中国で
の個人経営を認めると発表、就職難に悩む台湾の若者の吸収を目論む―経済、社会の一体化が進
む。そして仕上げは「第二次馬習会談で和平協定」との観測も。2月以降、立法院で過半数を得た
民進党が「困獣の悪あがき」を封じなければ、5月、総統に就任した蔡英文は体中を中国の縛りに
掛けられているのを知ることになる。
【「透視台湾」(Econo Taiwan 速報掲載)12月号】