拝啓 蔡焜燦先生(下)  浅見 正(台湾李登輝学校研修団13期生)

京都において「京都讀書會」を主宰される椿原泰夫(つばきはら・やすお)氏は、その
機関誌として「無窮」という雑誌を発行されている。大変レベルの高い雑誌で、毎号、椿
原氏をはじめ8人前後の方が時事問題や歴史教科書、古事記などをテーマとした論考を発表
されている。特に毎号掲載されている直子夫人の「私の歌日記」は、『枕草子』を読んで
いるかのごとくの格調高い文体で、教養の深さを感じさせるとともに、読んでいて心地良
い。

 椿原氏は京大文学部を卒業後、福井や京都などの高校で国語の先生を務めた後、京都府
教育庁で企画室長や京都府立洛北高校校長なども歴任された方で、古典文学や和歌に造詣
が深い。現在はこの「京都讀書會」を主宰される一方で、去る5月7日に設立された「頑張
れ日本! 全国行動委員会・京都府本部」の代表を務められている。

 自己紹介などでは「稲田朋美(いなだ・ともみ)の父です。国語の教員をやっていまし
た」とごくごく控え目で、それが椿原氏の奥行きを感じさせる。稲田さんとは、産経新聞
「正論」メンバーでもある衆議院議員の稲田朋美さんのことだ。稲田議員のご尊父でもあ
る。

 本会とは、一昨年11月に実施した「台湾・屏東『鳥居ダム見学』ツアー」に、直子夫人
と一緒に参加されてからのご縁だ。椿原氏は「無窮」誌に、このツアーに参加された旅行
記「台湾再訪記」を数回にわたって書かれ、その中で「台湾の運命はわが日本の運命でも
ある」「台湾を護ることはわが国を護ることに他ならない」と喝破されていて、大いに共
感した。

 この「台湾・屏東『鳥居ダム見学』ツアー」に参加された中に、英語教師だった浅見正
(あさみ・ただし)氏がおられる。その後、台湾李登輝学校研修団にも2度ほど参加されて
いる。

 5月に発行された「無窮」第43号で、台湾を訪問したことで日本に目覚めたと、「拝啓 
蔡焜燦先生」という一文を寄稿されている。英語の教員時代に「日本を知らない」という
ことを思い悩んでいたが、ようやく蔡焜燦先生が書かれた『台湾人と日本精神』にたどり
着けた喜びをつづられたものだ。

 台湾研究フォーラムや日本李登輝友の会を設立する際に、自分の体験から「台湾という
フィルターを通せば、日本がよく見える」と力説してきたが、浅見氏も同じような体験を
されたようだ。

 ちなみに、京都讀書會の連絡先は下記のとおりである。

■京都讀書會(主宰・椿原泰夫)
 〒610-0352 京都府京田辺市花住坂3-26-13


拝啓 蔡焜燦先生(下)  浅見 正(台湾李登輝学校研修団13期生)

 実は、恥づかしながら三十七年間の教員生活を二年前に定年退職した後に、『教育勅語』
が急に気になり読み始めました。繰り返し読んでいく内に「ああ、何でこんなに素晴らし
いものを戦後教育から排除してしまつたのか」といふ悔しさがこみ上げて参りました。

 教員生活を続ける間に、いつの頃からか日本の社会では、教育勅語に盛られてゐる精神
の逆を行くやうなおぞましい現象が頻発するやうになりました。人と人との望ましい心の
繋がりの欠如、公の精神の欠如がもたらす残虐な事件や寂しい事象が加速的に増えてゐま
す。

 「父母に孝に兄弟に友に……博愛衆に及ぼし」と、望ましい人間関係の身に付け方を、
まづ家庭内の縦と横の関係に始め、それを基に友人に広げ、最後に全ての人に及ぼしてい
くといふ順序で実に完結に示してゐます。「学を修め業を習ひ……一旦緩急あれば義勇公
に奉じ」と、身につけるべきものをしつかり身につけ、約束事を守り、いざといふときに
は自分を捨てて国のため公のために尽くすべし、といふ人間としてのあるべき姿を実に簡
潔に過不足無い表現で謳つてゐます。

 今改めて『台湾人と日本精神』と『教育勅語』に深く通じ合ふものがあることを知り、
深い感慨を覚えます。

今、未曾有の災害に遭ひ、避難生活を送つてゐる被災者達の振る舞ひ方を見て世界の人
たちが驚きと賞賛の言葉を送つて下さいます。占領政策の流れが七十年も続かうとしてを
り、『日本精神』はずたずたに切り刻まれてしまつたかに思はれましたが、この大きな災
厄に見舞はれて蘇つたといふことならば、一時的な蘇りに終はらせることなく、日本人全
体が意識的に取り戻すべき『日本精神』を取り戻さうといふ動きにつなげなければなりま
せん。願はくば、さういふ日本人の姿を見る世界の多くの人たちも困難に立ち向かふ時の
あり得べき人間の姿に思ひを致して下されば素晴らしいと思ひます。

 実は小生の近辺にも被災者と繋がりのある者もをり、小生のかつての教え子だつた者で
津波の犠牲になつた者もをります。今回の李登輝学校研修団にもぜひ参加したいといきご
んでをりましたが、被災地のことが気がかりです。

 先生にはこれまでの三度の台湾訪問のいづれの場合も厚いおもてなしをいただきながら、
つひに何ほどのお礼も致さないまま過ごして参りました。これまでの非礼を埋め合はせさ
せていただくつもりで、この手紙を団長の柚原さんに託すことにいたしました。もしここ
までお目通し下さつたとしたら有り難き幸せに存じます。

 来年のこの時期の李登輝学校には参加できるやうになつてゐればと念じてをります。ど
うか先生にはくれぐれもご自愛なされ、李登輝先生の支へとなり、日台友好のために、そ
して小生達未熟者のためにいつまでもご指導下さいますやうお願ひ申し上げます。

            敬具

 平成二十三年五月五日

蔡焜燦先生
 
                       第十三期、十四期李登輝学校研修生
                                    浅見 正

追伸
復刻版の『綜合教育讀本』を手に入れました。先生の口から次から次へと戦後生まれの
小生が知らない歌が出てくる秘密を知つた気がしました。取りあへず毎日少しづつ音読し
ながら最後まで読み通してみやうと思ひます。

追伸二
 本文中に書きそびれましたが、第一回の台湾訪問で出会つた素晴らしい人々の中に椿原
泰夫といふ方がいらつしやいました。お招きいただいた夕食会の自己紹介で分かつたので
すが、何とその時に既に小生が密かに声援を送つてをりました新進気鋭の女性衆議院議員、
稲田朋美先生のお父上でした。その時をきつかけに、以後、国内の様々な活動でご一緒さ
せていただくことが重なり、今ではご自身が発行なさつてゐる『無窮』といふ文集に拙文
を寄稿させていただくこともあるほどになりました。このやうに、台湾は定年退職後の小
生の人生を思いがけない嬉しい方向に導いてくれやうとしてをります。



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