【読売新聞「社説」:2022年2月17日】
日本産の食品は、安全性に関する厳格な検査を受けている。台湾による輸入規制の緩和を追い風に、政府は日本産食品に対する海外の誤解を解く取り組みを強めてもらいたい。
台湾は、福島、茨城、千葉、栃木、群馬の5県産食品の輸入禁止措置を2月下旬にも解除すると発表した。禁輸は、2011年の東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、続けられてきた。
台湾の蔡英文政権は、解除を模索してきたが、消費者の間に反対が根強く、18年に行った住民投票では、解除が認められなかった。蔡政権が輸入の再開を決断したことを歓迎したい。
台湾では昨年、飼料添加物を使った米国産食肉の輸入が解禁され、12月の住民投票でも差し止め案が否決されていた。米国との関係を重視する声を反映したもので、今回の日本産食品への対応にも影響したとみられる。
台湾は昨年9月、環太平洋経済連携協定(TPP)への加盟を申請した。今回の決定で、日本の支援を得る狙いもあるのだろう。
政府は、農林水産物・食品の輸出額を30年までに5兆円に増やすことを目指している。台湾は国・地域別の輸出額で4位だ。禁輸の解除を輸出拡大につなげたい。
ただ、キノコ類や野生鳥獣肉など一部の輸入停止は続け、5県産食品には放射性物質検査報告書の添付を求めるという。根拠の乏しい規制が残ったのは残念だ。
原発事故の後、最大55か国・地域で導入された規制は年々、緩和されたが、欧州連合(EU)や台湾を含め計14か国・地域で程度の差はあれ、規制が続いている。中国、韓国、香港、マカオは輸入停止を継続している。
政府は科学的根拠に基づき、解除の働きかけを強めてほしい。
一方、小泉純一郎元首相や菅直人元首相ら5人の首相経験者が連名で、福島第一原発事故で「多くの子どもたちが甲状腺がんに苦しんでいる」とする書簡を、EUの執行機関・欧州委員会に送ったという。ゆゆしき問題である。
欧州委は原子力を脱炭素に役立つエネルギー源と認定した。その動きに反対する目的の書簡だが、甲状腺がんについて、福島県や国連の専門家会議は、放射線の影響とは考えにくいとしている。
書簡は偏見を助長しかねず、元首相という立場や責任を自覚すべきだ。岸田首相は 毅然きぜん とした態度で誤りを正すよう求め、風評被害を防ぐため、国際社会に正確な情報を発信せねばならない。
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