台湾半導体大手UMC創業者の曹興誠氏が1億ドルを国防強化のために寄付した理由

 台湾半導体大手の聯華電子(UMC)を創業した曹興誠(ロバート・ツァオ)氏は8月5日、1億ドル(約136億円)を国防の強化のために寄付すると発表した。

 台湾国際放送のインタビューで、その理由について「台湾はアメリカだけに台湾の安全保障を頼るわけにはいかない。アメリカの保護だけに頼るのはとても恥ずかしいことであり、まず自らを守る意思と能力が必要」と説明している。

 また、このインタビューでは「私はここで国民党に呼び掛けたい。あなた方は台湾人から巨額な借金をしている。“一つの中国”原則を作り出したからだ」とも述べ、「これは、国民党が台湾に加えた足枷」と断じ、国民党に“一つの中国”という台湾にかけられた呪縛を解くよう呼びかけたという。

 曹興誠氏が中国共産党政権に不信感を抱くようになったきっかけは、2019年の香港における「逃亡犯条例」改正問題への中国の対応だったという。逃亡犯条例の改定は、犯人の引き渡し協定が中国にも適用されるため、香港の一国二制度が崩壊すると考えられ、完全撤回を求める大規模なデモが繰り返して行われたことは未だ記憶に新しい。

 しかし、中国は翌年6月に「香港国家安全維持法」を定め、即日実施した。この香港国家安全維持法は逃亡犯条例改正を実質的に取り込んでいて、かつその解釈権は中国(全国人民代表大会常務委員会)に属し、香港側にはないとするものだった。

 つまり、中国の胸先三寸で中国政府に逆らう者を香港国家安全維持法に違反した廉で逮捕することができ、ここに香港の一国二制度は死滅した。

 曹興誠氏は、一連の動きを香港で見て、「習近平は“文革ウイルス”発作を起こしていることを確信し、これにより、反共の立場を強めた」という。

 産経新聞の矢板明夫・台北支局長は「約束を守らない共産党幹部らと接触しているうちに不信感が募り、中国と距離を置くようになった」という曹興誠氏の発言とともに、「中国が軍事演習を通じて台湾民衆を恫喝していることに強い怒りを覚えた」という発言を伝え、「台湾の安全を守るため」に1億ドルを寄付したと伝えている。

 台湾には、中国から渡ってきたいわゆる「外省人」にもかかわらず、台湾を守る意思と能力が必要と考える立派な経済人がいる。TSMC創業者の張忠謀氏も然り。台湾における半導体事業が国策として取り組まれてきたこととも深く関係していると思われる。

—————————————————————————————–中国の圧力に屈せず矢板 明夫(産経新聞台北支局長)【産経新聞「台湾有情」:2022年8月26日】

 中国人民解放軍による台湾海峡周辺での大規模な軍事演習が始まってから2日目の5日、台湾の半導体大手、聯華電子(UMC)の名誉会長、曹興誠氏は台北市内で記者会見を開き「台湾の安全を守るため、私財1億ドル(約136億円)を寄付する」と発表した。

 「私は政治や選挙などに興味はない。ただ中国共産党の?と暴力が嫌いだ。中華圏の人々に浄土と青空を残したいと思っている」。寄付金は中国による認知戦、心理戦、世論戦の対策強化に使われるという。

 1947年、中国・北京に生まれた曹氏は2歳の時、両親と台湾に渡った。大学卒業後、技術者を経て82年にUMCの創業を主導し、同社の社長、会長を長年務めた。同じ時期に半導体大手、台湾積体電路製造(TSMC)を創業した張忠謀氏と並び「半導体業界の2大巨頭」と呼ばれた。

 曹氏は約10年前までは、中国と台湾の統一を主張。中国への投資や工場建設などを積極的に推進したが、約束を守らない共産党幹部らと接触しているうちに不信感が募り、中国と距離を置くようになった。

 最近は中国が軍事演習を通じて台湾民衆を恫喝(どうかつ)していることに強い怒りを覚えた。「私たちは決して圧力に屈しない。自分で故郷を守る勇気と決意があることを知ってもらいたい」と語気を強めた。

(矢板明夫)

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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