【世界日報「Viewpoint」:2020年5月11日】
4月も最後になって、東京都の新型コロナウイルスによる新たな感染者数が、2桁となり、5月第二週に6日連続で2桁となったことは朗報であった。日本人のすべてが、毎日、都道府県別の感染者数を見て、一喜一憂している。しかし台湾では、4月13日以後、国内感染者は一人もいない。小学校から大学まで、普通に授業を行っている。
台湾では「武漢肺炎」と呼ばれる新型コロナウイルスで、日本初の感染者が確認されたのは1月16日、武漢訪問歴のある男性だった。台湾で最初の感染者は、武漢で働いていた55歳の女性、台湾へ帰国後の21日に陽性と判明した。その後、2月6日までの感染者数は台湾が16人で日本は25人、そのうち台湾の14人、日本の21人が中国への渡航歴がある事例だった。この時点で、大きな差はなかった。
◆帰国者などの隔離徹底
しかし5月8日には、日本の感染者数は16,374人、うち死亡が619人であるのに対して、台湾の感染者数は440人、死亡は6人であった。この大きな差はどこから生まれたのか。
発表された数字から見れば、両国の差は2月7日から28日の間に生まれていたといえる。この間に、台湾では感染者が23人増えたが、その19人は国内感染であり、10日から27日まで17日間にわたって海外感染者の入国がなかった。つまり、海外からの流入がシャットアウトされたのである。
台湾は7日から、過去14日以内に中国に入ったかもしくは居住していた外国人(中国人その他)の台湾入境を禁止した。また同じく、浙江省、湖北省、広東省などに居住していた台湾人の帰国者を14日間隔離することにしたのであった。
一方、この間の日本では、感染者が台湾の8倍、185人増加した。ところで2月1カ月間に日本に入国した中国人はなんと10万9114人(香港を除く)である。結局、日本が中国からの入国者の2週間隔離と、発給していたビザの効力停止を開始したのは3月9日になってからであった。その措置は30日遅い。
その後の台湾では、海外に取り残された台湾人の帰国を促したこと、中国以外からの入国者の感染増加があったため、3月14日から4月13日までの1カ月に海外感染入国者が315人増加した。しかし海外からの渡航者、帰国者について14日間の自己管理、隔離を徹底した結果、台湾では1カ月で国内感染は28人、つまり1日当たり1人未満に抑えられた。
この間、日本では6580人の新たな感染が確認され、その後の急増へと続いていく。
なお4月13日以後の台湾では、海外留学からの帰国者など16人の感染が確認されているが、国内感染者はゼロが続いている。
その後、パラオ島などを巡ってきた海軍「敦睦」艦隊で合計32人の感染が確認されたが、これは台湾外での感染であり、これを除けば4月14日から5月8日までの25日間のうち15日は台湾では感染者の確認が無い。また、6人目の死者が9日に出て以来、3週間にわたって死者はゼロである。以上からみれば、台湾では「武漢肺炎」感染拡大の鎮静化に成功したといえよう。
日本でも、2月初旬から対中国の水際対策を徹底し、3月にその対象を世界に拡大していれば、その後の感染拡大は防げたはずではないか。
◆残酷な政治の決断の失敗
「覆水盆に返らず」とはいえ、政治の決断の失敗が、失われなくてもよい命を失わせた可能性を否定できない。ウイルスに意思はない。しかし、これに対処する人間は、賢明であったり愚かであったりする。その結末は深刻であり、残酷である。
台湾と中国の経済関係は深く、通常、100万人以上の台湾人が中国で経済活動をしている。その緊密度は日本の比ではない。それでも、蔡英文政権はいち早く人的往来の断絶を決断した。このところ、台湾政府のマスクの頒布方法が世界から称賛を集めている。しかし、後世の日本人のために、日本が台湾から学ぶべきことは、マスクの配り方などではなく、速やかな情報収集と、政治的野心に曇らされない政府の冷静な判断力、そして決断と実行力である。(あさの・かずお)
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