る。中華民国を国家として承認している証となるからだ。つまり、事実上の独立国家とみなされる
根拠でもある。
6月13日、これまで中華民国と国交を結んでいたパナマ共和国が中国(中華人民共和国)と国交
を結び、中華民国に断交を通告した。中華民国と国交を結ぶ国は20ヵ国となった。
しかし、中華民国に替わって国連に加盟した中華人民共和国は、中華民国を亡命政権と断じ、そ
の領土は中国の一部だと主張している。中国の「一つの中国」は根拠のない主張ではない。
戦後台湾の不幸の始まりは、中華民国が台湾を接収したとき、一方的に台湾を領土と宣言するこ
とで領土に組み込まれてしまったことにある。
台湾のさらなる不幸は1949年に訪れる。毛沢東率いる中国共産党軍に敗れた蒋介石の中国国民党
が逃げ込んで、台湾を占領して居座ってしまったことだ。台湾は、正統性を主張する「二つの中国」
の争いに巻き込まれてしまう。台湾は未だに中華民国に占領され続けられたままだ。
ゆえに、台湾の中華民国が「中国の唯一の合法政府」だと主張し、他国との国交を維持しようと
すればするほど、皮肉なことに「我こそ中国の唯一の合法政府」と主張する中国に台湾併呑の理由
を与え続け、その主張を裏付けることになる。
今回、パナマ政府が「世界に中国は一つだけで、台湾は中国とは分けられないものだと認める」
とする中国との共同声明に署名したことがそれを雄弁に語っている。中華民国が中華民国と名乗っ
ている限り、中国の圧力が止むことはない。
「台湾の声」編集長の林建良氏は「この中華民国存在法理根拠こそが台湾の国家正常化を妨げて
いる。パナマだけでなく、台湾はすべての中華民国の国交国と断交すべきだ」と喝破している。正
論である。台湾はいまこそ中華民国という軛(くびき)を脱し、台湾本来の姿に復すべきときを迎
えている。
下記に「台湾の声」を紹介するとともに、今回の断交について要点を押さえた日経新聞の記事を
紹介したい。
ちなみに、サンフランシスコ平和条約で台湾を放棄した日本は、台湾の帰属先は国連で決めるべ
きものだから「未定」とし、中華民国の主権、すなわち領有権を認めていない。認めているのは台
湾において行政、司法、立法を行う権利、施政権だ。昭和39年(1964年)2月29日、当時の池田勇
人首相は衆議院予算委員会で明確に答弁している。
<サンフランシスコ講和条約の文面から法律的に解釈すれば、台湾は中華民国のものではございま
せん。しかし、カイロ宣言、またそれを受けたボツダム宣言等から考えますと、日本は放棄いたし
まして、帰属は連合国できまるべき問題でございますが、中華民国政府が現に台湾を支配しており
ます。しこうして、これは各国もその支配を一応経過的のものと申しますか、いまの世界の現状か
らいって一応認めて施政権がありと解釈しております。>
当時の日本は中華民国と国交を結んでいたが、日本政府としての見解を堂々と述べていたことに
気づかされる。しかし、台湾と断交して以降は「台湾の領土的な位置付けに関して独自の認定を行
う立場にない」と述べるに留まっていた。
ただ日本も、現在の安倍政権になってからは価値観外交の下、台湾を「重要なパートナー」と位
置づけて正常な関係を構築しつつある。それは、交流協会の名称を日本台湾交流協会に変更したこ
とに端的に現れている。望むべくは、さらに踏み込んで、日本版・台湾関係法(日台関係基本法)
を制定するなど、日本ができる範囲で台湾の国家正常化を支援したいものだ。
パナマと断交:台湾はすべての中華民国の国交国と断交すべきだ
【メルマガ「台湾の声」:2017年6月13日】
厳格に言えば台湾と国交を結んでいる国はゼロである。
台湾のいわゆる国交国は例外なく「中華民国は中国の唯一合法政権である」を認める前提で国交
を結んでいる。これは国民党政権以来の流れだが、民進党政権になってからもこの前提はそのまま
である。
この笑えない現実が台湾の国際社会の進出を阻害し、台湾を中国の一部とする法的根拠を与えて
いる。
分かりやすく言えば、台湾がまったく影響力のない小国と国交を維持しているのは中華民国存在
の法理根拠が必要なだけのだ。
しかしこの中華民国存在法理根拠こそが台湾の国家正常化を妨げている。
パナマだけでなく、台湾はすべての中華民国の国交国と断交すべきだ。
台湾、断交連鎖に危機感 中国がパナマと国交樹立
【日本経済新聞:2017年6月14日】
【台北=伊原健作、北京=永井央紀】中国は13日、中米パナマと国交を樹立する共同声明に署名
し、パナマは台湾に外交関係の断絶を通告した。台湾では友好国が多い中南米に中国の外交圧力が
及んだことに衝撃が広がっている。米国の裏庭とされる中南米を舞台にした中国の外交攻勢に、断
交が連鎖しかねないと危機感を強めている。
「地域の安定を損なう行為で、厳しく非難されるべきだ」。台湾の蔡英文総統は13日、台北市内
の総統府で談話を読み上げ、珍しく気色ばんだ。「両岸情勢を新たに評価し直す」とも指摘。主席
を務める民主進歩党(民進党)が掲げる台湾独立志向を封印し、中国との対話を探ってきたが、こ
の路線を修正する可能性を示唆した。
昨年12月にも、中国の外交圧力を背景に西アフリカの島国サントメ・プリンシペが台湾との関係
を断った。だが、今回は台湾にとってより深刻だ。台湾は中国の清朝が結んだパナマとの外交関係
を引き継いだとされ、100年以上の歴史がある最も古い盟友だ。大西洋と太平洋を結ぶ国際運河を
擁する交通の要衝でもある。蔡氏は昨年6月、総統就任後の初外遊で真っ先に訪問して関係を締め
直したはずだった。
「パナマは経済的な利益のために北京に屈服した」「台湾をだました」。李大維・外交部長(外
相)も13日の記者会見でパナマの対応に悔しさをにじませた。
台湾を「国」と認め国交を結んでいるのは20カ国に減った。パラオやツバルなどの南太平洋の島
国や、ブルキナファソなどアフリカの2カ国、バチカンを除けば過半数が中南米に集中する。今回
は米国が中国の攻勢をけん制するとの期待も裏切られた。台湾の与党関係者は「このままでは中南
米が草刈り場になりかねない」と言う。
中南米諸国は、国際情勢を見ながら外交関係を結ぶ相手を中国と台湾の間で切り替える例があ
る。最近では2007年にコスタリカが台湾と断交し、中国と国交を結んだ。台湾が次の標的になると
警戒するのはニカラグア。同国で計画中の太平洋とカリブ海を結ぶ新運河は、中国共産党と関係の
深い香港企業が建設を担っているとされる。
断交は一般に政府・当局の間で公式な付き合いをやめるが、民間の交流や渡航を禁じるわけでは
ない。ただ、大使館を相互に置かないため、トラブルを避けたい旅行者や商用目的の渡航者らの往
来が減る可能性もある。
中国はパナマとの国交樹立でより直接的に台湾に外交圧力をかける姿勢を鮮明にした。中国の王
毅外相とパナマのサインマロ副大統領兼外相は13日に北京で会談し、共同声明に署名。中国の発表
によると共同声明には「パナマ政府は、世界に中国は一つだけで台湾は中国とは分けられないもの
だと認める。台湾との外交関係は即日断つ」との内容が盛り込まれた。
中国大陸と台湾が一つの国に属するという「一つの中国」原則をパナマは認めた。共同声明はパ
ナマ政府と台湾当局の間のいかなる関係も認めないとした。中国が求める一つの中国の受け入れを
拒否する台湾の蔡総統に対し圧力をかけた。
中国が世界第2の経済大国となり、広域経済圏構想「一帯一路」を通じて国際的な経済的影響力
を強めるなか、中南米諸国は今後も切り崩しの対象となる可能性が高い。
中国には台湾問題で米国にクギを刺す意図もにじむ。また5年に1度の共産党大会を今秋に控える
習近平国家主席にとって、台湾を国際的に孤立させる外交政策は同氏の求心力向上につながる。軍
部には台湾強硬論もくすぶる。党大会に向けて台湾への外交圧力が強まる可能性がある。