台湾で広がる中国代理人による情報操作  黄 文雄(文明史家)

【黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」:2021年6月13日】*読みやすさを考慮し、小見出しは本誌編集部が付したことをお断りします。

◆中国がフェイクニュースを広げる手法

 中国による情報操作の典型的な例の構図としては、中国側からの何らかの方法によるフェイクニュース → 台湾側の協力者がフェイクニュースを本当のニュースらしく加工して拡散 → 日本をはじめとする諸外国で取り上げての拡散。

 こうしてフェイクニュースは、もっともらしい記事として拡散されていく一方で、情報源はだんだんと曖昧にされていきます。

・実は中国でワクチン接種する人急増の台湾、「中国嫌い」は本当か https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65616?page=2

 上記の記事によれば、現在、台湾のメディアでは、多くの台湾人が個人的に中国へ行ってコロナのワクチンを接種していると報じているというのです。

 そして、台湾政府はそういうことには触れず、ワクチンが足りないことをアピールしている上に、中国にワクチン購入を妨害されたりパイナップルの輸出を拒否されたりしたことを大げさに言っています。

 さらに、世界、または日本に媚びているようにさえ見える蔡英文政権は、実は「尖閣諸島」の領有権を主張しているし、福島をはじめとする周辺5県の農産品を「核食」と呼び、未だに輸入を解禁しない。蔡英文政権は、親日なだけではなく、もっとしたたかな政治をしている、というのがこの記事の内容です。

 政治家ですから、対立軸を煽ったり、親日一辺倒ではなく、国外と国内でアピールポイントを変えたりすることはありうることです。また、国内の世論にも配慮しなくてはならない部分もあります。日本人も、そういう部分を理解しておく必要はあります。

 気になるのは、この記事が作られたきっかけとなったと思われる「多くの台湾人が大陸でワクチン接種を受けている」というニュースです。そして、そのニュースは台湾メディアが発信しているものとのこと。

 探してみるとありました。以下のものです。・https://www.ettoday.net/news/20210607/2001012.htm

 この記事を配信しているのは、台湾の「ETtoday新聞雲」というメディアです。確かに、多くの台商が中国に行ってワクチンを打っていると報じています。ご丁寧に、「桃園空港で出堺を待つ多くの人」という説明で、防護服を着た多くの人が空港並んでいる写真まで載っています。

 この報道を読むと、そのことを証言しているのは「台商會長徐正文」という人物です。記事内で、この人物は、以下のような証言をしています。

<原先台灣疫情控制不錯,很多台商朋友因為不想來回隔離,都留在台灣,但現在台灣疫苗不?,飛美國距離比較遠,大陸比較近,就決定過去大陸,順便接種疫苗,『大陸對台胞、台商、台幹都比較友善,只要有預約登記就能免費施打。>

<以前、台湾のコロナ対策は成功していて、中国を往復する人は隔離されるため、多くの台商が台湾に残っていたが、今の台湾はワクチンが不足している。アメリカは遠いが中国は近いことから、中国に行ってワクチンを打とうと考える人が多い。「中国は台湾同胞に対して友好的なため、予約をするだけで無料でワクチンを打つことができるからだ」>

 中国政府の宣伝文句のようなコメントですね。それもそのはずで、コメントをしている徐正文という人物は、国民党党員であると同時に、頻繁に中国と台湾を往復している中国のスパイ的な存在です。日本でも経済人は親中・媚中派が多いものです。

 そんな人物のコメントを積極的に取り上げている台湾メディア「ETtoday新聞雲」も、言わずもがなの中国のプロパガンダ機関です。が、媒体が「台湾メディア」ということから、台湾からの発信という印象を受けます。さらに、このニュースは冒頭のように、日本でも取り上げられ、蔡英文政権は親日なのではなく「したたか外交」を繰り広げている、という結論に至るわけです。

◆「西瓜(すいか)」に似ている今の台湾

 台湾は民進党政権になってから、蔡英文総統と民進党の動向にばかり注目が集まり、国民党の動向についてはあまりメディアでは取り上げられなくなりました。

 しかし、国民党勢力は依然として台湾政界に根強く残っているし、既得権益にしがみついている国民党員はたくさんいます。また、政策推進の際も国民党勢力は無視できない存在です。なにしろ、終戦からずっと台湾を牛耳ってきた政権です。そう簡単に権力を手放すわけがありません。

 権力を持つが故の甘い汁の味を知っている国民党員たちは、私利私欲を満たすために必死です。

 国民党は、終戦後、台湾を接収した際に、日本が残していったインフラや財力をすべて接収し、自分たちのために役立てました。一方で、台湾人たちをかたっぱしから逮捕、投獄し、多くの犠牲者を出しました。白色テロ時代です。

 今の台湾は、まるでスイカのようです。外側は民進党政権が象徴する民主という緑の皮で包まれていますが、その中身はまだまだ国民党時代の独裁政権で満ちています。蔡英文率いる民進党政権は、実はその部分での闘いの最中なのです。

 それでも、政権の透明性に努め、国民の安心、安全を最優先するために必死にやっています。今はコロナのこともあり、尖閣や核食などの問題に手をつけられないかもしれませんが、時間とともに台湾が解決すべき問題です。蔡英文政権には時間が必要なのです。

◆中国プロパガンダの限界

 民進党政権は、一時、中国からのフェイクニュースに打撃を受けました。しかし、それも多すぎると効果は激減するものです。2020年11月の総統選挙で民進党が勝利し、2020年6月に台湾史上初のリコール成功で高雄市長の韓国瑜が罷免されたのを最後に、台湾はフェイクニュースにも勝利しました。

 戦後の日本は、政府も言論人も中国のプロパガンダを吹聴する風潮がありました。政権内やマスメディア内に潜む媚中派と呼ばれる人々が、今でも中国のプロパガンダを日本で吹聴しています。しかし、そろそろそんな時代錯誤なことは主流ではなくなったようです。その結果が以下の報道です。以下、報道の見出しと記事の一部を引用します。

・日本参議院、台湾支持の決議を全員起立で可決 游立法院長「感動した」

<日本の参議院で、台湾の国際機関参加を求める決議が全会一致で可決されたのを受け、游錫?(ゆうしゃくこん)立法院長(国会議長)は12日、全員が起立し、拍手した場面に「非常に感動した」とフェイスブックにつづり、立法院(国会)の超党派議員連盟「台日交流聯誼会」の会長を兼ねる身として、改めて参議院に謝意を表明した。

 決議案は、台湾の世界保健機関(WHO)総会参加を次回から認めるよう各国に求める内容で、先月下旬に開催された総会に台湾が招かれなかったのを受けて、超党派議員が提出し11日の本会議で採決された。>

 時代の自然な流れでしょう。自己中心的な中華思想を持つが故に、ウイグル、チベット、台湾などの周辺地域とトラブルを起こしてばかりの中国の本質が、世界に知られています。中華思想の限界です。

──────────────────────────────────────※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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