この中国からの回帰が台湾経済を押し上げ始めたようだ。行政院主計総処が7月31日に発表した「108年第2季(2019年4月〜6月)國民所得概估統計」によれば、GDP(実質経済成長率)は前年同期比2.41%で、日本経済新聞は「5月時点の予想を0.63ポイント上回り、3四半期ぶりに2%台を回復した」と報じている。
投資も輸出も予想を上回っていて、行政院主計総処は「台湾企業の(中国からの)生産回帰が主因」だと分析しているという。下記に日経記事をご紹介したい。
ちなみに、行政院主計総処が7月22日に発表した6月の失業率は3.73%で、5月の3.67%より0.6ポイント上がっている。また、15歳から19歳の失業率は9.66%、20歳から24歳は12.20%と相変わらず高い。
とはいえ、他国の失業率と比較してみると、台湾は米国やイギリスの3.7%とほぼ同じで、ドイツの3.1%、香港の2.8%、日本の2.4%、シンガポールの2.2%より高いものの、フランスの8.6%、カナダの5.5%、韓国の4%よりは低い。
中国国民党の馬英九氏は経済を立て直すとして、2008年の総統選挙公約で6・3・3、すなわち経済成長率6%、失業率3%、国民所得3万ドルを掲げて当選したものの、まったく実現できなかった。失業率が4%を下回ったのは政権末期になってからだった。
蔡英文政権になってからは常に3%台に落ち着き、政権を引き継いだ2016年は3.92%とまだ高かったが、2017年は3.76%、2018年は3.71%、2019年1月〜6月は3.68%と確実に下げてきている。
中国から台湾企業を回帰させようとする蔡英文政権の政策は、電力不足や水不足など改善すべき問題点はあるとはいうものの、いまのところは順調なようだ。
なお、中国国民党の総統選公認候補の韓國瑜氏は「経済で奇跡を起こす」と公言しているが、どういう奇跡なのかには触れないところをみると、スローガンのようだ。その点では「経済を立て直す」と宣言した馬英九氏の方がまだ内実があるとも言えそうだが、馬英九氏の大口叩きと同じ口ぶりに見えてくるのはどうしたものだろう。
◆行政院主計総処:108年第2季國民所得概估統計[7月31日] https://www.stat.gov.tw/public/data/dgbas03/bs4/ninews/10808/news10807.pdf
◆行政院主計総処:108年6月●上半年人力資源調査統計結果[7月22日](●=既の下に旦) https://www.stat.gov.tw/public/Attachment/97191853295LGQ42NT.pdf
—————————————————————————————–台湾経済、生産回帰が追い風 4〜6月2.41%成長【日本経済新聞:2019年7月31日】
【台北=伊原健作】台湾の行政院主計総処が31日発表した2019年4〜6月の実質経済成長率(速報値)は、前年同期比2.41%だった。5月時点の予想を0.63ポイント上回り、3四半期ぶりに2%台を回復した。米中貿易摩擦を受けて台湾の製造業が生産拠点を中国から台湾へとシフトしており、民間投資を押し上げている。
1〜3月期までは米中摩擦やスマートフォン市場の低迷で輸出が苦戦。成長率は1%台に落ち込んでいたが、持ち直した。前期比年率(季節調整済み)の成長率は4.68%だった。
官民の投資を含む資本形成は4〜6月期に6.04%増と、予想を0.74ポイント上回った。「台湾企業の(中国からの)生産回帰が主因」(主計総処)という。
台湾は米アップルのスマホをはじめ世界IT(情報技術)大手の機器生産を担う企業が集積し、多くは中国生産が主体だ。ただ米中摩擦の激化で昨年後半からは台湾などに生産地を移管する動きが活発化。中国からの生産回帰に向けた台湾当局への投資申請は19年初から7月26日までに累計4973億台湾ドル(約1兆7300億円)に達し、一部は実施され、経済を押し上げ始めている。
また輸出も4.11%増と予想を上回った。半導体の輸出が好調だったほか、生産回帰も一部寄与した。台湾企業は米顧客向けのサーバーや通信機器の生産の一部を既に中国から台湾に移しており、輸出に好影響が出てきている。
ただ7月以降に向けては「米中摩擦に加え日韓の貿易問題など懸念が多く、慎重に見なければならない」(台湾経済研究院の劉佩真氏)との声が多い。中国は31日、中国から台湾への個人の観光旅行を8月1日付で当面禁止すると発表した。「中国大陸からの個人旅行客は18年に百万人規模に達しており、経済に影響が出るだろう」(主計総処)との警戒が強まっている。