出も伸び悩み、昨年の成長率(GDP)は1・25%と低迷。
誰が行政院長(首相に相当)になっても対中経済の立て直しは難しいと言われていた
が、昨日、行政院副院長から新たに行政院長に就任した江宜樺氏率いる新内閣が発足し
た。江氏は1960年11月18日、基隆生まれの52歳。歴代行政院長の中でもっとも若くして院
長に就任した。当面の課題は景気回復。
だが、台湾はこれまでの「中国頼み」の経済政策に誤算が生じ始めたという。本誌でも
先に伝えたように対中投資は3年ぶりのマイナス。台湾の経済部によると、対中投資は11年
の575件、131億ドル(1兆1610億円)だったが、12年は454件、109億ドル(9663億円)に減
少したという。日経新聞がその背景を伝えているので下記に紹介したい。
1月31日に台湾の調査会社TISRが中国との関係について発表した世論調査によれば、
「中国を信用できない」と答えたのは69.2%にものぼる。「信用できる」の16.2%をはる
かに上回っていた。
日経の記事も指摘するように、これでは和平協定など「馬総統が目指す中国との政治交
流などの独自政策が打ち出しにくい」のも当たり前だ。日台漁業交渉にもなんとか中国を
引き入れようとする馬総統だが、これも担当官僚から迷惑がられているという。
台湾、対中重視に誤算 輸出鈍化・雇用低迷に不満噴出
【日経新聞:2013年2月19日】
【台北=山下和成】台湾の馬英九政権(国民党)による中国重視の経済政策に誤算が生
じている。中国に生産拠点を作り台湾から半導体など基幹部品や素材を輸出することで経
済成長を推進してきたが、中国を含む世界の需要減速で対中輸出が鈍化。雇用改善の遅れ
や物価高と相まって経済政策全般への不満が噴出している。台湾域内投資の拡大などでテ
コ入れを目指すが、低迷する支持率が上昇に転じるきっかけがつかめない。
「景気が回復するよう皆さんの努力を期待している」。馬総統は春節(旧正月)休み明
けの18日、国民党本部でこう語った。あいさつの冒頭に景気の話を持ってくる念の入れよ
うで、危機感の強さをうかがわせた。
台湾の2012年の実質域内総生産(GDP、速報値)は前年比1.25%増。08年の世界金融
危機の影響を除くと3〜6%台の成長を維持してきたのに比べ、減速感が鮮明になっている。
最大の要因は対中輸出の鈍化だ。輸出額の約3割を占める中国大陸(香港除く)向けの12
年の輸出額は前年比3.8%減の約807億ドル(約7兆6000億円)。主力のIT(情報技術)
関連製品や化学品などの需要が落ち込み、3年ぶりのマイナスとなった。
馬政権は08年の誕生以降、中国との交流拡大による経済成長を志向してきた。この方針
を受けて台湾企業が中国生産を拡大。現地で素材や部品を加工して世界に輸出するビジネ
スモデルで成長した。ただ中国の人件費上昇や台湾との競合業種の増加で、中国依存の効
果が薄れつつある。有力シンクタンク、台湾経済研究院の洪徳生院長は「中国一辺倒の成
長モデルからは脱却すべきだ」と指摘する。
馬政権もそうした点を認識し、昨年5月の2期目の就任時には米国や日本など他国との通
商拡大を推進する方針を示した。さらに自然エネルギー分野など新産業育成などにも注力
する方針を強調した。ただ財政健全化などの縛りを受けて12年の公共投資額は前年比7.5%
減、民間投資額も同1.4%減となる見込みで、雇用機会を生み出せていない。12年の平均失
業率は前年比0.15ポイント低下の4.24%と改善のペースは遅い。
一方、馬政権は昨年にガソリン価格や電力料金の大幅引き上げを実施。今年1月からは
個人投資家への株式売却益への課税を復活させた。昨年11月には英誌エコノミストが馬総
統を「bumbler(へまをやる人)」と批判し、馬政権が抗議する騒ぎとなった。
昨年末以降は輸出額など各種指標が好転しつつあるが、逆風はなお強い。台湾のケーブ
ルテレビ大手、TVBS傘下の調査会社が2月上旬に実施した世論調査では馬政権について
「満足」との回答は14%のみで、2期目の就任以降は過去最低水準が続く。一方、「不満」
は63%と多い。同業他社の調査でもおおむね似た数値が並ぶ。
総統は4年の任期が保証されており、低支持率でも辞任の必要はない。だが馬総統が目指
す中国との政治交流などの独自政策が打ち出しにくい環境にある。