台湾 馬英九総統が就任 中台対話早期再開を【就任演説の要旨】

【5月21日 産経新聞】

【台北=長谷川周人】3月の台湾総統選で勝利した中国国民党の馬英九氏(57)が20日、
台北市内の総統府で宣誓し、台湾の「第12代中華民国総統」に就任した。今後4年間の
施政方針を示す就任演説では、「3つのノー(統一せず、独立せず、武力行使を許さず)」
との考えを確認した上で、中国の胡錦濤国家主席に対し、1999年から中断した中台対話
の早期再開を呼びかけた。

 約30分間の演説で馬総統は、馬英九政権が台湾の独自防衛力を整備する意志があるこ
とを強調。その一方、軍事、外交で中台が対立関係にあることについて、「和解、休戦
すべきだ」と述べて中国の軍備拡張と外交圧力を牽制(けんせい)、同時に台湾の尊厳
を尊重するよう訴えた。

 馬総統はまた、「中華民国」との表現を9回にとどめたが「台湾」は50回に近く、社
会に浸透する「台湾人意識」を強く意識する姿勢をにじませた。国共内戦に敗れ、逃れ
た台湾で一党独裁体制を敷いた国民党の歴史を振り返り、「台湾社会が戦後の新移民を
義をもって包んだ」と台湾人の寛容性に触れ、言葉を詰まらせる一幕もあった。

 国民党の政権復帰は8年ぶり。就任演説が行われた祝賀大会には、事前に欠席を通知
した李登輝元総統夫妻も姿を見せ、会場最前列の馬総統と蕭万長副総統の脇に座った。
一方、2期8年にわたり総統を務めた民主進歩党の陳水扁氏は政権交代を受け、初の「台
湾人政権」に幕を閉じ、馬総統に見送られ総統府を後にした。


就任演説の要旨

【民主の意義】
(陳水扁政権下で)人民の信頼は地に落ち、経済は安心感を失い、国際(社会の)支持
も損なわれた。だが、台湾人民は、クリーンな政治、経済開放、(社会の)調和、両岸
平和、未来志向の道を選んだ。台湾はアジアと世界の民主主義の灯台と称賛され、中華
民国は国際社会で尊敬される民主主義国家になった。われわれはこれを自慢せず、さら
に民主の質を向上させ、中身の充実を追い求める。

【新しい社会】
 台湾は島国であり、開放すれば栄え、閉鎖すれば衰退する。これは歴史の鉄則だ。わ
れわれは開放を堅持し、規制緩和で民間活力を解き放し、台湾の優位性を発揮させる。
もう一つの重要な任務は、人民の信頼回復だ。和解共生の環境創出に取り組み、政党間
対立を調和へと導いていく。クリーンな政治を確立し、役人には清廉と効率を求め、汚
れた金権政治を変える。

【中台関係】
 米国との協力関係を強化する。われわれには台湾の安全を守る決意があり、合理的な
国防予算を編成、必要な防御兵器を購入し、国防力を整備する。「『3つのノー』(統
一せず、独立せず、武力行使を許さず)」の理念に立ち、台湾海峡の現状を維持する。
台湾は尊厳が必要で、大陸が国際的な圧力をやめてこそ、両岸関係は安定して前に向け
発展できる。両岸は海峡と国際社会において、和解休戦しなければならない。

【台湾と中華民国】
 台湾生まれではないが、台湾は私を育てた故郷で、家族の骨を埋める地でもある。台
湾社会が私のような戦後の新移民を義をもって包み、恩をはぐくみながら受け入れた情
に感謝する。私は全力を尽くすしかない。中華民国は台湾で生まれ変わった。任期内に
創立100周年を迎えるが、大陸にいたのはわずか38年で、台湾では60年を超えた。国父、
孫文先生の民主憲政の理想は、大陸では実現できなかったが、今日、台湾で根を下ろし、
開花して実った。
 台湾民主万歳! 中華民国万歳!


馬英九(ば・えいきゅう)
台湾大卒。米ハーバード大で法学博士号。故蒋経国元総統の英文秘書、李登輝総統時代
の法相などを歴任。清廉でクリーンなイメージを持ち、1998年の台北市長選で現職市長
だった陳水扁氏を破り当選。同市長職を2期務め、2005年から07年まで国民党主席。香
港生まれで、父は国民党の元幹部。原籍は中国湖南省。周美青夫人との間に2女。57歳。

蕭万長(しょう・まんちょう)
政治大卒。外交部を経て李登輝政権時代に経済部長(経産相)、行政院長(首相)を歴
任。2000年総統選では副総統候補として連戦氏(現国民党名誉主席)とペアを組んだが、
陳水扁総統(当時)に敗れた。台湾出身者の経済・外交通で、中国要人との交渉経験も
持つ経歴などが買われ、副総統候補に指名された。台湾嘉義市生まれ。69歳。