【岡田充論文】共同通信の元台北支局長の「NHK抗議」批判の幼稚さ
「台湾の声」編集長 林 建良(りん けんりょう)
共同通信の元台北支局長である岡田充氏が、「JAPANデビュー」への抗議運動を批
判している。「21世紀中国総研」のサイトにある「NHK叩きは馬批判の代償行為」とい
う論文がそれだが、この人は本当に元台北支局長であろうか。
論文からいくつかの問題ある部分を引用しよう。
<無視したいのが本音だ。しかし、日台関係になると決まって「親日」「反日」という不
毛な二元論に、議論は空回りする。我々の思考を覆う二元論から解放されねばならない>。
台湾人として「親日か反日か」は重要ではない、重要なのは、NHKの特番の内容が事
実かどうかである。捏造した歴史は台湾人への侮辱以外のなにものでもない。だからわれ
われ在日台湾人は、あの番組を非難しているのだ。
<まず挙げねばならないのは、李登輝・陳水扁の「非中国化」を目指す政権に代わって、
中国との関係改善と協調を主張する馬英九政権が登場したことである。台湾の旧政権と日
本の保守勢力は冷戦終結後、強大化する中国を「仮想敵」に、日台協力を戦略的な地位に
高めようと努力してきた。それはある程度奏功した>
「仮想敵」? それは岡田氏の幼稚さを物語っている。ミサイルを向けてくる相手は
「仮想敵」ではなく、「敵」なのだ。
「台湾の旧政権と日本の保守勢力は……日台協力を戦略的な地位に高めようと努力して
きた。それはある程度奏功した」といっているが、まるで日本(保守派をのぞく)が第三
者であるかのような書き方だ。これは左翼特有の現実無視の姿勢そのもの。当事者意識の
欠如がそのまま表れている。
<今回の騒ぎで、日本の李登輝ファンが作る「日本李登輝友の会」の岡崎久彦、中西輝政
らが、NHKへの抗議文の冒頭「私どもは台湾を『日本の生命線』と位置づけ」と書いて
いることをみても、日台関係を戦略関係と考えていることは明白だ。そしてその関係を支
える精神的支柱が、台湾の「親日幻想」である>
「親日」を「幻想」だと断定する岡田の悪意を感じる。一つの国が特定の外国に特殊感
情を持つのは自然のことで、それを一々けなすのは、よほど台湾の「親日」が面白くない
のであろう。
台湾国内に「反日」の要素も存在していることを理由に「親日」を「幻想」と断定する
なら、「親日」「親米」など言葉はそもそも存在しなくなる。
日本李登輝友の会などが持っているのは「親日幻想」などではない。台湾の戦略的重要
性を認識し、台湾を引き続き友好的な存在として守りたいという、日本の国益を重視した
上での現実的な視点なのだ。
<経済至上主義の下で、「世界の一流国」入りを果たした日本は、冷戦終結後「失われた
20年」に入る。新しい国家目標を設定する上で手っ取り早いのは、戦前の日本のアジア侵
略と植民地政策を正当化し、それを基礎に疑似ナショナリズムを構築することである。>
これもまた岡田の浅薄さを露呈するものだ。現在の日本の国家的危機を見ようとせず、
台湾への接近を植民地支配を正当化する疑似ナショナリズムと断罪すること自体、現在の
視点を欠いている。
台湾人からみれば、岡田氏は自己責任を放棄して恥じない現代日本人の典型である。
<追い詰められた彼らが番組を「親中反日」と叩いたのは、新政権誕生以来味わってきた
喪失感を埋める格好の標的だったからだ。NHK叩きは、馬批判ができない彼らの代償行
為ではないか>
そのような低レベルの問題ではない。これも自分の幼稚さを他人に投射したがる岡田氏
の知的レベルの低さの証明だ。
再度強調するが、NHKへの批判はその歴史捏造とその背後に存在している勢力に対す
る戦いである。青臭い文学青年的な呻吟ではあるまいし、「喪失感」などない。読んでい
てこちらが恥ずかしくなる。
記事は続けて、台湾人の「親日」の理由について、台湾の世論調査を報じる朝日新聞の
記事を引用する。
<「『経済力、技術力の高い国』が1位。次いで『自然の美しい国』『きまりを守る国』
『豊かな伝統と文化を持つ国』などだった」と書き、「李登輝元総統に代表される、日本
語教育を受けた70歳以上の高齢者世代の親日度が高いとされてきた。だが、『親しみを感
じる』とした回答者は、20代が79%、30代が77%と、若い世代が最も親日的で、65歳以上
は58%だった」としている。これから想像するに、若い世代が日本へ好感を抱く理由は、
経済・技術力、自然など非政治的理由が多く、日本の植民地統治を評価しているわけでは
ないことが分かろう>
岡田氏は台湾に3年もいながら、台湾に対する認識は不正確だ。若い人に親日度が高い
のは、その大きな理由の一つとして、李登輝政権時代以来の教育で、国民党の歴史捏造を
否定して、日本統治の歴史をより正確に直視するよう教えるようになったことがあげられ
るのだ。
<麻生首相は外相だった05年2月、国会答弁で「台湾の教育水準が高いのは、植民地時代
の日本義務教育のおかげ」と発言したことがある。麻生発言に対し、陳水扁政権時代の外
交部スポークスマンは「教育も植民政策の一環であり、目的は誰もが分かっている」と、
植民地統治の正当化に反発した。これが「親日」民進党政権の植民地統治に対する公式見
解である>
<このスポークスマン発言に「反日」のレッテルを張れるだろうか。むしろ自分の発言を、
台湾人も受け入れるだろうという「親日幻想」に寄りかかる麻生の「おごり」がみえる>
台湾の現状を全く分かっていない。世代的に国民党の中国人化教育の影響濃厚な民進党
を「親日」と断定することこそ、岡田氏の「親日幻想」だ。あれは「中華民国=中国」政
府としての正式見解である。
次は、日本人が「親日」の代表と見る李登輝氏のことだ。
<いったい李のどこに「無条件で日本を愛してくれる」性格がみえるのか。うなずくわけ
にはいかない>
<国民党内のし烈な権力闘争を勝ち抜き、巨大な中国と駆け引きするには、「親日」だけ
では生き残れない。李の場合、強大化する中国を「仮想敵」に、自分と台湾の「親日」イ
メージを戦略的に振りまいた成功例である>
こうした言葉自体が、中国人的でウソと悪意に満ちたもの。李登輝氏の日本的価値を評
価してはならない左翼的本能で書いたものだ。
<番組は次のようなナレーションで終わる。「親日的ともいわれる台湾で、今も残る日本
統治の深い傷。それは今後アジアの中で生きて行く日本が分かち合わなければならない現
実。過去と向き合う中から見えて来る未来。150年前に世界にデビューしたジャパンの歴史
が、私たち一人ひとりの明日を問いかけている」>
<日本統治のプラス面ばかりを強調する情緒的報道が多い中で、むしろバランスがとれた
コメントではないか>
この番組のナレーションが台湾人には一番堪え難いものだった。なぜなら日本人にひど
い仕打ちを受けながら、なお「親日」なのが台湾人だと聞こえるからだ。これが台湾人を
バカにするNHKの一番許せないところだ。もし番組のいうとおりなら、台湾人が「親日」
であるはずがない。
ところが岡田氏はそれを「バランスがとれたコメント」だと賞賛している。
<柯氏だけでなく多くの台湾人が評価するインフラ整備、教育について言えば、「教育も
植民政策の一環であり、目的は誰もが分かっている」という前出の陳政権時代のスポーク
スマンのコメントを引用すれば十分であろう。いずれも台湾人のためではなく、日本のア
ジア支配の戦略基地作りが目的であった。ただしインフラは、世の中がひっくり返っても
基盤はそのまま残る普遍性を持つ>
日本の台湾領有当時は、台湾人もまた日本国民であった。岡田の論でよれば、すべての
インフラは国民のためにあらずという結論にたどり着く。これは左翼特有の論理的欠陥で
ある。
中国の視点、立場に立って、台湾を見ている。だから台湾の事実を故意に無視するかの
ように歪曲している。
要するに「JAPANデビュー」と同様、岡田氏は台湾を正確に語れない、そして平気
で台湾を侮辱し、害を及ぼす「台湾論者」なのだ。
以下 岡田充論文全文
http://www.21ccs.jp/ryougan_okada/ryougan_04.html