中国サイトの「日本軍国主義の残虐統治」記事にサーチナ誌が反駁

中国網(チャイナネット)は、中国(中華人民共和国)国務院直属の中国外文出版発行事業局が
管理・運営するニュースサイト。

 このサイトが台湾の高砂族(原住民族)の古い写真を掲載、「日本軍は高砂族地区に軍と警察を
進駐させ、自然資源を大規模に略奪し、高砂族人民を残酷に搾取」、「日寇軍国主義の残酷暴虐な
統治に対し、高砂族人民は一貫して抗日闘争を堅持し、1945年になって抗日戦争に勝利した」と書
いているという。

 この記事に反駁したのが「サーチナ」誌の如月隼人記者だ。映画『台湾アイデンティティー』に
出演した原住民や酒井充子監督、映画「セデック・バレ」の魏徳聖監督などの発言を紹介しつつ、
「少なくとも『台湾現地』の見方と異なる」と指摘している。

 また、原住民族を「化外の民」と看做していた清朝時代にも言及、日本を悪者に仕立てようとす
る「中華網」記事の偏向を暴いている。

 欲を言えば、大東亜戦争中、高砂族といわれた原住民族がぞくぞくと志願した事例なども挙げて
いただきたかったが、如月記者の挙げたことだけで「中華網」の浅薄な記事の狙いは十分に粉砕さ
れている。

 中国は常に、三戦と言われる「世論戦、心理戦、法律戦」という3つの戦術を駆使して相手を貶
めようと考えている。この高砂族の写真を使った記事も世論戦の一環だろう。如月記者のように、
即座に反駁して事実を明らかにしておくことが重要だ。

 いささか長いが、下記にその全文をご紹介したい。


中国サイトが台湾原住民の古い写真を紹介・・・「日本軍国主義の残虐統治」と決めつける
【サーチナ:2015年1月13日】
http://news.searchina.net/id/1556993?page=1

 中国のポータルサイト「中華網」はこのほど、「台湾高砂族の珍しい旧写真が明るみに」と題す
る紹介記事を掲載した。日本統治時代に撮影されたとみられる台湾原住民族(先住民族)の写真を
多数紹介したが、文章部分では「日寇軍国主義の残酷暴虐な統治を受けた」と紹介した。

 台湾原住民族とは、17世紀ごろに中国から漢人(中国人)が台湾に移り住むはるか昔から、台湾
に住んでいた人々を指す。もともとは中国文化の影響を受けておらず、むしろ東南アジア島嶼部の
古い文化との共通点が多いとされる。

 「中華網」は、「清朝時代には、朝廷は文化レベルと居住地で『生番』、『熟番』に分類した。
『高山番』、『平浦番』とも呼んだ」と紹介。つづいて「1895年の甲午戦争(日清戦争)の後、日
本が台湾を侵略・占領した(開戦は1894年)。台湾総督府は“蕃課”を設置し、『番』をそれぞれ
『高砂族』、『平浦族』と改称した」、「日本軍は高砂族地区に軍と警察を進駐させ、自然資源を
大規模に略奪し、高砂族人民を残酷に搾取した」、「日寇軍国主義の残酷暴虐な統治に対し、高砂
族人民は一貫して抗日闘争を堅持し、1945年になって抗日戦争に勝利した」と紹介した。

 戦後については「国民政府が台湾に移ったあと、『高砂族』は「高山族』または『山胞』との呼
称に改められた」と記述した。

 冒頭で紹介した写真には、山間部の道で犬を連れてたたずむ少年4人が写っている。写真上部に
は「銘々に蕃犬を連れて山見通を走る。彼ら多くは山豚、鹿を捕るのです。武勇を尚ぶ彼らは狩猟
が第一の慰安です」との日本語が添えられている。日本統治時代の撮影と思われる。

               **********

 上記記事は、日本統治時代を体験した台湾原住民族の人々から聞こえてくる声とはかなり異な
る。ドキュメンタリー映画『台湾アイデンティティー』に出演した高菊花(日本名:矢多喜久子/
ツオウ族名:パイツ・ヤタウヨガナ)さんは、「将来に希望が持てた」日本統治時代と比較して、
国民党統治時代のひどさを強調した。高さんの父は日本式の教育を受けた地元の名士だったが、終
戦後も地域の向上のために努力したことで国民党に疑われ、罪状をでっちあげられて拷問されたあ
げく、死刑になった。

 同作品では、漢人も国民党独裁時代のひどさを口々にした。酒井充子監督は、日本統治時代につ
いて「(同作品出演者が)美化している面はあると思う。その後の国民党独裁時代がひどすぎたか
らだ」と説明した。

 日本統治下で発生した、日本人と原住民の「悲劇」として最大のものが霧社事件だった。1930年
10月に、台湾中部山岳地の霧社でセデック族という原住民族が運動会を襲撃し、日本人約140人を
殺害した。日本側は軍も投入し、報復的鎮圧を実施。セデック族は約700人が殺されるか自殺し
た。

 台湾人のウェイ・ダーション(魏徳聖)監督は同事件を題材に映画「セデック・バレ」を製作
(2011年公開)。ウェイ監督によると、同作品では「霧社事件」の史実を正しく伝えることに努め
たという。

 同作品では、日本による台湾統治の目的を「自国のための資源獲得」との見方をしているが、同
時に台湾開発のために多くの日本人が努力したことも紹介している。統治、山間部に赴任した日本
人警察官は現地の子のために教育活動も行ったが、同作品では「しっかりと学問をすれば将来が開
ける」との理想に燃える日本人警察官も紹介している。

 また、事件の直接のきっかけは日本人警察官の侮蔑的な態度に誇りを傷つけられたと感じるセ
デック族が武装蜂起したことだが、魏監督は直接の発端以外に、日本による近代化で、セデック族
の生活様式が大きな変更を余儀なくされたことが事件の背景とした。ただし、日本による近代化を
「悪」と決めつけていない。

 同作品の製作にあたり、魏監督は現地住民に対して、エキストラ出演などの協力を要請した。そ
の時の約束として「事実は事実として描く」、「原住民役には原住民を使い漢人を使わない」、
「登場する原住民は中国語でなく原住民語で会話する」だったという。つまり、「セデックバレ」
の描写は現地住民も「おおむね史実」と認めており、上記記事のように日本人が「高砂族人民を残
酷に搾取」だけという見方は、少なくとも「台湾現地」の見方と異なるということになる。

 なお、台湾では日本が「高砂族」という民族呼称を設けるまで、原住民族には「蕃」または
「番」の文字を使った呼称が用いられた。清朝時代から「未開の異民族」の意がある「蕃」の文字
が使われているが、上記記事は日本だけが「蕃」の文字をつかったかのように記述している。

                **********

◆解説◆

 「台湾原住民族」の呼称は、台湾での用語にもとづく。日本では「先住民族」との語が一般的だ
が、中国語で「先住民族」とすると「以前には存在したが、現在はいない民族」のニュアンスに
なってしまうため、「もともと住んでいた(そして今も住んでいる)民族」の意である「原住民
族」が用いられる。同用語は1980年代からの民主化の流れの中での「原住民権利運動」により広く
使われるようになった。台湾では中華民国憲法追加文でも「原住民族」との語がつかわれるように
なった。

 台湾には政府が公認したケースだけでも14の原住民族が存在する。中国大陸側は複数の民族をひ
とつとして高山族と呼んでいる。中国大陸当局は自国の民族構成について人口の9割以上を占める
漢族と、“高山族”その他の55の少数民族から成るとしている。

 台湾における「原住民族」の呼称が「元からいた民族。したがって権利を保証せねばならない」
との考え方と密接に結びついているのに対し、中国大陸側の「少数民族」の呼称は、人口の多寡に
注目した言い方であり、少なくとも用語については権利の問題とは無関係だ。

               **********

 台湾が初めて「中国政権」の影響を受けたのは清朝の時代だった。ただし、清朝は台湾統治を目
的としていたのではなく、「反清復明」を掲げて清への抵抗を続けていた鄭成功と後継者の政権を
撲滅させるために台湾に乗り出した。

 そのため、清朝に台湾を「開発」しようとする意図はなかった。福建省などからは台湾に移る漢
人が増えたが、清朝は自国民が台湾に永住することを嫌い、女性に対する渡航を禁止した。

 清朝が支配していたのは、台湾における小さないくつかの拠点のみで、台湾全島を支配していた
わけではなかった。特に原住民族は「化外の民」と称した。「化外の民」とは「皇帝の徳(王化)
が及ばない」との意で、清朝に対して朝貢を行った朝鮮やベトナムの人々以上に、台湾原住民は
「中華文明とは縁のない存在」と見なしていたことになる。

 1874年に台湾に漂着した琉球人54人が現地住民に殺害された事件でも、清朝政府は「管轄外」と
して取り合わなかった。そのため日本は台湾南部に派兵して、原住民を制圧した。

 19世紀後半に至り欧米列強の中国進出が盛んになると、清朝は国防上の理由から台湾を重視する
ようになり、1885年に台湾を福建省から分離させて台湾省を新設した。

 なお、中国政府は尖閣諸島が古来より自国領だったと主張する論拠のひとつとして明代に編纂さ
れた、海洋地図集の「籌海図編」に尖閣諸島の一部の島が記載されていることを挙げるが、同地図
集には、台湾の記載はない。

                                 (編集担当:如月隼人)


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