中国による国際世論形成に警戒  浅野 和生(平成国際大学副学長)

【産経新聞:2025年7月9日】https://www.sankei.com/article/20250709-IURU4I6JENOSRK3C2KVO5LNFAE/

◆「G6」台湾問題関心低下

去る6月16日から17日にカナダのカナナスキスで開催された先進7カ国(G7)首脳会議は、トランプ大統領が17日早朝に帰国し、G6状態となって終わった。

「イスラエル及びイランの間の最近の情勢」や「移民の密入国」などに関する首脳声明が発出されたが、包括的な首脳声明はなかった。

とはいえ、外務省によるとトランプ氏の出席したセッション4「世界を安全にする」において「ウクライナ、中東及びインド太平洋情勢などの国際情勢の諸課題について、G7各国で率直な意見交換」を行い、石破茂首相が、より一層アジア地域へ関与していくことが重要であると述べ、G7として「中国をめぐる諸課題に共に取り組む」ことで一致したという。

2021年の英国コーンウォールサミットの首脳声明は「我々は、台湾海峡の平和及び安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的な解決を促す」とし、「東シナ海及び南シナ海の状況を引き続き深刻に懸念しており、現状を変更し、緊張を高めるいかなる一方的な試みにも強く反対する」と主張した。

以来22年のドイツ・エルマウ、23年の広島、24年のイタリア・プーリアサミットまで4年連続で、首脳声明が言及した「自由で開かれたインド太平洋」「台湾海峡」問題等について今回の首脳声明では触れなかった。

プーリア首脳声明では「包摂的で、繁栄し、安全で、主権、領土一体性、紛争の平和的解決、基本的自由及び人権を基礎とする、法の支配に基づく自由で開かれたインド太平洋」とまで述べた。

台湾海峡への言及に加えて「国家性が前提条件でない場合はメンバーとして、前提条件である場合はオブザーバー又はゲストとして、世界保健総会及び世界保健機関(WHO)の技術会合を含む国際機関への台湾の意義のある参加を支持する」とも主張したが、今回の首脳声明にこれらの文言はなかった。

◆中国と中央アジア5カ国

一方、G7と同日の6月17日にカザフスタンの首都アスタナで、中国の習近平国家主席と、カザフスタン、キルギス、ウズベキスタン、タジキスタン、トルクメニスタンの中央アジア5カ国首脳が会合して、「アスタナ宣言」を発出した。

23年に中国・西安で初めて開かれた中国と中央アジア5カ国の首脳会議は、2年に1度定期開催される一種の同盟協議の場に格上げされ、定着することになった。

アスタナ宣言について、脱炭素に必要な「グリーン鉱物」、再生可能エネルギー、インフラ分野における協力の強化、国際的なエネルギー・食料安全保障や国際輸送ルートの開発、サプライチェーン途絶防止に向けて各国が取り組むことなど、資源エネルギーを中心に6カ国の協力、協調が決まったと日本では紹介された。

しかし、それだけではなかった。

同宣言の第1項は、中国と中央アジア5カ国は、全方位的協力推進が6カ国の根本的利益に合致するとし、相互尊重、信頼、利益、扶助をもって近代化を共同で推進する「中国・中央アジア諸国精神」で一致した、という包括的序言である。

第2項以下の15項目が具体的合意の中身である。

その第2項は、中央アジア諸国の発展、国家の独立と主権及び領土の保全、各国の内外政策推進を中国が確固として支援すると表明し、中央アジア諸国は「一つの中国原則」を守り、台湾は中国の不可分の領土の一部であり、中華人民共和国は全中国の唯一合法の政府であるという原則を厳守すると約束した。

さらに、中央アジア5カ国は、いかなる形式の「台湾独立」にも反対し、中国政府による国家統一の実現を確固として支援すると明言した。

つまり、エネルギー・資源問題や環境問題、その他協力事項14項目の前に、「一つの中国」と「台湾独立反対」「中国による台湾統一の支援」が置かれたのである。

G7が世界の主要国をメンバーにしているのと比べると、中国を除く中央アジア5カ国は政治力、経済力その他においてさして大きくない。

だからアスタナ宣言などどうということはない、と軽視してはならない。

G7がその結束力を弱め、インド太平洋と台湾問題への関心低下を示したその時、中国は着々とその裏庭を同盟友好国とすべく固めにかかっていたのである。

◆中国の「台湾包囲網」阻止を

5カ国にとって台湾問題は切迫した課題ではない。

だから簡単に中国に同調する。

長期戦略を得意とする中国は、今後も各地の国々と、同様の合意を積み重ねるだろう。

気がついたら、中国による台湾統一に向けた国際世論の大波が形成されていた、という事態を避けなければならない。

中華民国の国連追放劇の轍(てつ)を踏まないために、日本は、G7各国は、台湾を含む「自由で開かれたインド太平洋」維持のため、台湾包囲網形成を阻止すべく、中央アジア5カ国その他各国へのアプローチを直ちに強化すべきである。

(あさの かずお)。

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