台湾の馬英九総統と中国の習近平国家主席との初会談は「一つの中国」の原則を確認した。
問題は、それが中台双方が口にする台湾海峡の平和に資するものとなるかどうかである。
とくに、習主席が会談のなかで、米国の関与を排す姿勢をとり、独立派を牽制(けんせい)した
ことは、今後の中国の影響力増大を強く懸念させる。
中国は台湾統一のためには、武力行使も辞さない原則を掲げていることを忘れてはならない。
台湾海峡の平和は、日本をはじめ東アジアの安全保障に直結する。中国が台湾との関係を平和的
に進展させるというのであれば、国際社会に対し、台湾への武力行使の可能性を明確に否定するこ
とが先決である。
両首脳が確認した「一つの中国」の原則は「92年コンセンサス」によるもので、「一つの中国」
の解釈は中台それぞれに委ねられるとされる。独立志向が強い野党、民主進歩党(民進党)が存在
を認めないなど、台湾内部でも議論が分かれる問題だ。
馬総統は「92年コンセンサスを固め、平和の現状を維持したい」と述べ、習主席も原則維持の重
要性を強調し、民進党を牽制する姿勢をみせた。
会談で馬総統は台湾に向けた中国の弾道ミサイルの後退を求めたが、習主席は「台湾に向けられ
たものではない」とかわすなど具体的な問題への回答を避けた。
習主席の姿勢をみる限り、台湾との平和的な関係進展について言葉通りには受け取れない。「一
つの中国」の原則も今後、中国側に都合のいい解釈で押し切られないか、懸念はぬぐえない。
台湾では、馬総統が進めた急速な対中接近の結果、中国に経済的にのみ込まれ、自らの将来をめ
ぐる議論も中国に主導権を握られるとの警戒論が高まっている。
昨年の地方選で与党の中国国民党が大敗したのは、台湾の民意の表れだ。国民党は来年1月に予
定される総統選でも、民進党に大きくリードされている。この会談を行った馬総統の判断は厳しく
問われよう。
共産党の一党独裁体制をとる中国と台湾との間で、どのような「一つの中国」を構築できるのだ
ろうか。南シナ海などで強引な対外拡張路線を鮮明にする中国に対する警戒を緩めてはなるまい。