定機関である世界保健機関総会(WHA)が開催される。台湾は行政院衛生署の邱文達署
長が代表団を率いて参加する予定だと報じられている。
台湾は1997年以来、世界保健機関総会へのオブザーバー参加を目指していたが、ことご
とく中国の妨害で参加を実現できなかった。一方、日本やアメリカは2004年にサーズ(重
症急性呼吸器症候群)が大流行して以来、台湾も世界保健機関からの公衆衛生や疫病に関
する情報を提供されるよう保健衛生ネットワークに入れるべきだとして、台湾の世界保健
機関への有意義な形での参与や世界保健機関総会へのオブザーバー参加を支持してきた。
そのためもあってか2005年ごろから中国の態度が軟化し、台湾は2009年、悲願だった世
界保健機関総会へのオブザーバー参加が実現した。
この年4月、台湾は「参加する場合の名称は『中華民国台湾』が理想だが、最低でも『中
華台北・チャイニーズタイペイ』とし、仮にそれ以下の主権を曖昧にする名称になる場合
は無理に参加を求めることはない」と表明していた。参加名称は「中華台北」だった。翌
2010年にも台湾は世界保健機関総会にオブザーバー参加を果たした。中国は「中国側の善
意の表れだ」と、その関与を間接的に認めるような表明をしている。
ところが、昨年5月になって思わぬ事態が発覚した。2010年9月、世界保健機関の事務局
長が内部文書で台湾の参加名称を「中国台湾省」と記していたことがメディアの報道で発
覚した。
台湾政府は、世界保健機関総会からの招待状には「Chinese Taipeiでわが国を呼称し、
Minister(大臣)としてわが国の衛生署長を呼称した」「WHOのウェブサイトの新型H1
N1インフルエンザの流行状況に関する資料の発表の中でも、わが国をChinese Taipeiと呼
称している」として、受け入れることはできないと抗議した。
野党の民進党は、オリンピックの「中華台北」、WTOの「台澎金馬個別関税領域」方
式よりもはるかに大きな後退であり、中国に隷属した地位でWHAへの参加を認められた
ことになるので世界保健機関総会を欠席すべきと主張した。
馬英九総統も即座に「中国の圧力によるものだ」と表明したものの、台湾は「世界保健
機関総会へのオブザーバー参加は2009年からようやく実現したものであり、必ず参加しな
ければならない」として昨年の世界保健機関総会に参加、今年も「過去1年にわたって『断
じて受け入れられない』との立場をWHO側に示してきた」「台湾の『Chinese Taipei
(中華台北)』名義でのWHA参加に影響はない」として、参加を表明している。
どうも中国と台湾の「出来レース」の臭いがしないでもないが、真偽のほどは闇の中
だ。しかし、台湾の抗議を世界保健機関が受け入れていない現在、台湾が「中国台湾省」
として扱われていることは事実であり、その世界保健機関総会に今年も参加するのだか
ら、馬英九政権は、世界保健機関の内部名称の「中国台湾省」、台湾国内に向けては「中
華台北」と説明するというダブルスタンダードを取っていることも事実だ。
日本なら「二枚舌」として糾弾されるところだが、こういう使い分けをするところが、
中国国民党という「外来政権」の最大の特徴と言ってもいい。恐らく馬英九政権は、この
名称問題で表面的に抗議は続けるだろうが、世界保健機関総会が受け入れないという理由
で「中国台湾省」の定着化を謀っているようにもみえる。馬英九政権の中国傾斜はこのよ
うなところにも現れている。