『わたしの台南─「ほんとうの台湾」に出会う旅』(新潮社)に続き、本年9月下旬に『わたしの
台湾・東海岸─「もう一つの台湾」をめぐる旅』(新潮社)を出版した。
処女出版『私の箱子(シャンズ)』(講談社、2012年)や二作目の『ママ、ごはんまだ?』(講
談社、2013年)という家族ものから一転、旅もののジャンルで台湾を紹介している。
もともと軽妙な文章が魅力だったが、さらに磨きがかかったようで、『わたしの台南』も『わた
しの台湾・東海岸』も、一青さんが大好きだという自転車でゆるい坂道を下ってゆくような軽快感
が増しているように感じられる。
また、家族ものと違って、旅ものの『わたしの台南』も『わたしの台湾・東海岸』もその土地や
台湾そのものの歴史が織り交ざってくる。一青さんの感じた台南や東海岸ばかりでなく、解説する
歴史にも読み手の関心は深まる。
そんな一青さんが「セットで見て欲しい」とお奨めしているのが映画「湾生回家」と「海の彼
方」(海的彼端)だ。
この2つの映画は本誌でもすでに紹介し、特に11月12日から12月16日まで、5週間にわたって東
京・神保町の岩波ホールで上映される映画「湾生回家」は、完成度の高いお奨め作品だ。この全国
共通鑑賞券は、日本の台湾関係団体では本会のみ取り扱っている。
また映画「海の彼方」はすでに台湾で上映がはじまっていて、日本での上映は来春を予定してい
るというが、石垣島に移り住んだ台湾移民の家族の物語を通じ、日台の歴史を描き出したドキュメ
ンタリー映画。
李登輝元総統が今夏、石垣島を訪問されたとき、監督の黄贏毓(こう・いんいく)氏は映画に登
場する移住一世の玉木玉代さんや、琉球華僑総会八重山分会の副会長をつとめるご子息の玉木茂治
氏、『八重山の台湾人』を著したジャーナリストの松田良孝氏などと一緒に歓迎会の席で出迎え、
李元総統に予告編を見ていただいた。このとき、李元総統が目頭を熱くしてご覧になっていた光景
は忘れられない。
台湾と日本について深く知る李登輝元総統が推奨し、一青さんも奨める映画「湾生回家」と「海
の彼方」、ぜひご覧いただきたい。
下記に紹介するニュースは、この歓迎会で同席したジャーナリストの松田良孝氏による。一青妙
さんのプロフィールとともにご紹介したい。
◇ ◇ ◇
一青妙(ひとと・たえ)
1970年、台湾屈指の名家「顔家」の長男だった父と日本人の母との間に生まれ、幼少期は台湾で育
ち、11歳から日本で暮らし始める。歯科医と女優、そしてエッセイストとして活躍中。日台の架け
橋となるような文化交流活動にも力を入れている。『私の箱子(シャンズ)』(講談社)は「2013年開
巻好書奨」を受賞するなど大きな話題を呼んだ。台南市親善大使、中能登町観光大使を務める
台湾と日本の関わり、映画で 一青妙さん「学ぶきっかけに」
【沖縄タイムス:2016年10月14日】
【松田良孝台湾通信員】台湾では、日本との関わりを描いた映画が相次いで発表されている。台
湾人の父と日本人の母を持ち、歌手の一青窈(ひとと・よう)の姉で、台湾に関するエッセーなど
も執筆する女優の一青妙(ひとと・たえ)=46歳=は「台湾が日本に統治されていたことを知ら
ず、台湾のことを観光という目でしか見ていない日本の若者もいる。硬めの歴史の本は手に取りに
くいが、映画などをきっかけにもっと勉強してほしい」と台北市内で述べ、映画が果たしうる役割
に着目する。
ドキュメンタリーの分野では、石垣島に住む台湾出身者を描いた「海の彼方」(黄贏毓監督、原
題「海的彼端」)は先月末から台湾で上映。昨年は、日本統治下の台湾で生まれた日本人の今を
追った「湾生回家」が中華圏の映画を対象にした金馬奨のドキュメンタリー部門にノミネートされ
た。
一青は「セットで見てほしい」と、両作品を高く評価する。最近、若い台湾人たちが台湾で日本
統治時代の神社の修復などをしていることを知った。「話を聞いたところ、単純な『ラブ日本(日
本大好き)』の人ではなく、日本統治時代を自分たちの歴史の一部と受け止め、消えていくのは
もったいないと考えていた」。
一青は、日本と台湾の双方をよく知る自らのポジションから、台湾と日本の関係を見つめ続け
る。