マンゴーの郷「玉井」に遊ぶ  傳田 晴久

本誌では、台南の成功大学に語学留学している傳田晴久(でんだ・はるひさ)氏が発行
する「台湾通信」をご紹介しています。

7月18日にお送りいただいた第64号は日本人も大好きな「マンゴー(芒果)」について書か
れています。台南の玉井はマンゴーの産地としてよく知られています。本会でご案内して
いるアップルマンゴーも台南産は玉井のマンゴーですが、その玉井の旧地名が西来庵(せ
いらいあん)事件の起こったあの「タパニー」だったとは迂闊にも知りませんでした。


マンゴーの郷「玉井」に遊ぶ  傳田 晴久
【台湾通信(第64回):2012年7月15日】

◆はじめに

 台南で時々夕食をとる牛肉麺や餃子を食べさせる店でビールを飲み、一杯機嫌での帰
途、お茶菓子などを売る店の前を通りかかると、ガラスの瓶に入った鮮やかな緑色の食品
が目に入った。店の奥の方であり、それが何か良く解らなかったが、とっさに思ったの
は、ひょっとして「あれかもしれない」。

 酔った勢いもあり、つかつかとその店に入っていき、緑の物体を確かめようとした。お
店のおかみさんが出てきたので尋ねた、これは「恋人フルーツ」か?

◆「恋人フルーツ」とは

 台湾はいまマンゴー(芒果)のシーズン、我々がよく知っているのは赤い大きな愛文芒
果(アップルマンゴー)ですが、これは品種改良の結果生まれたもので、在来種の「土芒
果(トマンゴー)」とフロリダ産の芒果を掛け合わせたものと言います。

 土芒果は長軸が7〜8センチ、径4〜5センチのラグビーボールのような格好で、緑色をし
ていますが、その皮をむいて細く切り、塩水に10分ほど漬け、その後砂糖をたっぷり入れ
て漬けたものが「恋人フルーツ」(情人果)で、冷やして食べると、甘酸っぱい味で大変
美味しいと言います。

 昔、『玉井マンゴー物語』(張良澤先生翻訳)という絵本の翻訳をお手伝いしたことが
ありますが、その本の中に「恋人フルーツ」の紹介がありまして、いつか食べてみたいと
思っておりました。

 お店のおかみさんは「これは芒果青(マンゴチン)です」という。台湾語の先生は、若
者に聞いたら「情人果(チンレングオ)」というようであるが、我々(年寄り)年代は
「[木羨]仔青(ソアイ・ア・チエ)」(soaiN7-a-chheN1)と呼んでいますとのこと。

 日本の飲料水カルピスは「初恋の味」で売り出しましたが、「恋」は甘酸っぱいものの
ようですね、私にはよく解りませんが・・・・。

◆「玉井」とは

 6月初旬、荘惠雅さんにマンゴーの郷「玉井」に連れて行っていただいた。荘さんは3、4
年前日本語の論文作成を介して知り合った方で、その後日本に留学され、5月初めに帰国さ
れたばかりです。

 台南市から荘さん運転する車で一時間ほど行ったところで、赤いマンゴーを形造った巨
大なオブジェが迎えてくれました。ここは「マンゴーの郷・玉井」です。

 日本語のような名前ですが、日本統治時代、原住民の言葉で「タパニー」と言ったそう
ですが、抗日反乱の「西来庵(せいらいあん)事件」後、住民慰撫の意味を込めて「玉
井」と改名したとのこと。

 前出の『玉井マンゴー物語』によりますと、マンゴーは夏特有の果物で400年前にオラン
ダ人が初めて台湾に導入したもので、これが在来種マンゴーだそうです。

 1961年、鄭罕池(てい・かんち)さんがフロリダ産の愛文(アーウィン)マンゴーの苗
木を植え、寒害などで大変な苦労をしながらも、4年後に開花、結実に成功、俗称「リン
ゴ・マンゴー」は台湾の大地、ここ玉井に根を下しました。鄭さんのお蔭で玉井はマンゴ
ーの故郷になりました。

 マンゴーはその後、いろいろな人々の努力によって品種改良が進みました。たとえば、
高雄県在住の黄金煌(こう・きんこう)さんは凱特種(ケイトしゅ)の花粉を懐特種(ホ
ワイトしゅ)の花柱に交配させて「金煌マンゴー」を生み出しました。このマンゴーは大
きく、長軸が20cm、重さは2kgもあり、非常に甘いと言います。

 また、嘉義県在住の張銘顕(ちょう・めいけん)さんは懐特種の花粉を愛文種(あいぶ
んしゅ)の花柱に交配させて「四季マンゴー」という新種開発に成功しました。これは一
年四季ともに開花し、結実すると言います。しかも害虫に強く、貯蔵にも、輸送にも耐え
うる優れた性質を持っています。

 玉井は「マンゴーの郷」として有名ですが、そのほかに日本統治時代に発生した最後の
大規模武装抗日事件である「西来庵事件」とか「タパニー事件」と呼ばれる大規模反乱の
地でもあります。

◆西来庵事件

 1915年、タパニー(現・台南市玉井郷)にて大規模な武装蜂起が勃発した。首謀者は余
清芳で「大明慈悲国」建国を企て、暴動はほぼ台湾全域に及んだが、6代目総督安藤貞美に
よって鎮圧された。この事件による日本人死者は95人に上った。1957人が逮捕され、866名
に死刑判決が下されたが、あまりに多いので、日本人死者と同数の95人を処刑し、他は大
正天皇の即位式の恩赦により、無期刑に減刑された。

 右の写真は「抗日烈士余清芳紀念碑」で背後の碑文中に「日本の占領時期、本省の同胞
は民族の大義に基づき干戈を執り、郷土を防衛するために屍を乗り越え乗り越え(前仆後
継)戦ったが、40数回の戦いのうち最も激烈にして犠牲最多の戦いは余清芳烈士率いるこ
のタパニー抗日事件である」と書かれています。

 伊藤潔著の『台湾』によれば、「この西来庵事件を境に、台湾人の大規模な武力抵抗は
終息した。そして新たなる抵抗である合法的な政治運動が展開されていく」のです。

◆青果市場

 玉井は「マンゴーの郷」と称していますが、青果市場を覗きましたら、土芒果、愛文芒
果、金煌芒果などが山のように積んであり、その他パイナップル、バナナ、パパイアなど
など、いろいろありました。

 ビックリしたのは「菱角」を売っている店があったことです。この「菱角」というのは
黒っぽい水牛の角のような格好をした、クリのような味のする植物(菱の実)ですが、
秋、冬の物と思っていましたので、売り子に聞くと夏もあるのだそうです。菱角はあの元
総統の陳水扁氏の里、官田(玉井から10?ほどの所)の特産だそうです。

 青果市場には観光バスも乗り付けており、多くの人々が買い物をしています。そして私
は見つけました、あの「恋人フルーツ」を。直径10cm、高さ12〜13cmほどのプラスチ
ックの瓶に入っており、180元(約475円)とのこと、もう衝動買いでした。

◆マンゴーかき氷(芒果冰)

 「マンゴーの郷」に来ているのですから、「マンゴーかき氷(芒果冰)」を食べない訳
がありません。大変有名なお店だそうですが「芒果冰島」に連れて行っていただきまし
た。

 右の写真をご覧ください。リンゴ・マンゴーの角切りを山盛りにし、その上にアイスク
リームを乗せ、傍らに恋人フルーツをあしらって100元(約260円)です。最初に見た時に
は、こんなに食べられるかなぁ、と思いましたが、おしゃべりしているうちに平らげてし
まいました。

◆おわりに

 恋人フルーツに誘われて「マンゴーの郷」玉井を訪ねてきました。マンゴーは目を楽し
ませ、舌を堪能させ、匂いも私を満足させてくれましたが、玉井はもう一つ、日本とのか
かわりを印象付けてくれました。それは日本語のような名前とおよそ100年前に勃発したと
いう抗日暴動事件です。

 私は台湾で、数年前に「1895年」という映画、昨年は「賽?克?巴萊(セデック・バ
レ)」という映画を見ました。いずれも台湾における抗日事件を題材にしたもので、前者
は清国が日本に割譲した台湾を接収する日本軍とそれに抵抗する客家(ハッカ)人の戦い
を描いたもの、後者は1930年に発生したセデック族による抗日暴動事件、いわゆる「霧社
事件」を描いたものでした。

 このたびの玉井訪問で私は、自らの土地、生活の場を外来政権から守るために、民族の
大義に基づき命を賭して戦った先人が玉井にもいることを知り、また大変な苦労の下、外
来の品種を台湾在来の品種に取り入れ、次々と改良し、新しい品種を生み出す台湾の人々
のたくましさを感じました。

 加油台湾人!


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