ドイツが中国との関係を見直す初の「中国戦略」を策定 台湾とは関係を強化

 ドイツのオラフ・ショルツ首相は6月に中国の李強首相一行がドイツを訪問した際に会談しているが、一方、6月22日の議会では「われわれは、東シナ海と南シナ海の現状を武力や強制力によって変えようとする一方的な試みを断固として拒否する。これは特に台湾について言えることだ」「われわれは中国での人権や法の支配の状況についても懸念している」と発言したと報じられた。

 中国との経済関係が深いドイツだが、中国との関係を見直す動きが進んでいるのではないかと見ていたら、7月13日には「中国戦略」を策定したことを発表し、台湾海峡の平和の重要性を強調するとともに、台湾の国際組織への参加を支持するとした。このような対中国の政策文書をまとめたのは初めてだという。

 本誌で何度もヨーロッパから政治家などの台湾訪問が頻繁になっていることを伝えている。中でもドイツは昨年10月には、ドイツ連邦議会による正式な訪問団として超党派の国会議員団6人が10月2日から訪問し23日からはドイツ議会人権委員会の正式派遣による超党派の国会議員団6人が台湾を訪問している。ドイツが1ヵ月に2回も訪台団を派遣してきたのは異例のことだ。

 今年に入ってからも、1月9日に連邦議会国防委員会委員長と自由民主党副幹事長が率いる代表団が訪台している。

 3月20日には科学政策などを担当する連邦教育研究省(BMBF)のベッティーナ・シュタルク・ヴァッツィンガー大臣が科学や教育分野などでの協力を強化するため台湾を訪れた。ドイツから閣僚が訪問するのは26年ぶりだそうだ。

 ドイツはこのように台湾との関係を強化する一方、「中国戦略」を策定して中国との関係見直しを進めている。

 本年3月18日に来日したドイツのショルツ首相は、岸田文雄首相と日独首脳会談や「日独政府間協議」などを行い、「第1回日独政府間協議 日独共同声明」を発表している。この共同声明では「自由で開かれたインド太平洋を維持することの重要性を改めて表明」し、「両者は、緊張を増大させる力又は威圧によるいかなる一方的な現状変更の試みにも強く反対する」と謳っっていることもドイツが動き始めた要因の一つとして見ていいだろう。

 読売新聞はこのようなドイツが新たに「中国戦略」を策定したことを「社説」で取り上げ、「政策の修正に踏み出した意義は大きい」と評価する。ただし「中国への依存度を実際に減らせるかが課題」と指摘し、「ドイツが『戦略』に基づいてどのような対中関係を築くかは、英仏など他の欧州諸国にも影響を与えるだろう。モデルとなるような取り組みを進めてもらいたい」と期待を込めて書いている。下記に紹介したい。

—————————————————————————————–独の中国戦略 経済的依存をどう是正する【読売新聞「社説」:2023年8月11日】https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20230810-OYT1T50281/

 ドイツ政府が「中国戦略」を新しく策定し、経済偏重だった対中関係の見直しを打ち出した。独企業の活動も含めて、中国への依存度を実際に減らせるかが課題となる。

 ドイツが特定の国について、政治、経済、安全保障などの観点から分析し、包括的な政策文書をまとめたのは初めてだ。

 中国のここ数年の覇権主義的な動きを受けて、ドイツは前政権までの融和的な対中政策の見直しを迫られていた。欧州の大国が中国の脅威を直視し、政策の修正に踏み出した意義は大きい。

 ドイツの戦略は、中国の習近平政権が「ルールに基づく既存の国際秩序の改編を狙っている」と指摘したうえで、中国とロシアの関係について、「差し迫った安全保障上の懸念である」と明記した。

 ロシアのウクライナ侵略は、欧州の安全保障体制を根本から揺るがしている。中露の接近は、ロシアが中国の支援を受けて東欧などに侵略を拡大していく、との懸念を強めさせている。

 欧州はこれまで地理的に遠い中国への脅威認識が薄い傾向があった。しかし、中国の台湾への威圧やウクライナ情勢を通じて日米の立場に近寄ったように見える。

 ドイツは、「戦略」の中で、経済安全保障を重視する観点から、軍事利用できる先端技術の中国への流出防止や、重要な原材料の調達を中国に過度に依存しない「デリスキング」(リスク低減)の方針を示した。

 太陽電池パネルや電気自動車に不可欠なレアアース(希土類)の調達で、ドイツは3分の2を中国からの輸入に頼っている。今後、豪州やブラジルなどに輸入元を広げ、サプライチェーン(供給網)を多角化できるかが問われる。

 一方で、ドイツ企業が中国の巨大市場から巨額の利益を得る構造は容易には変えられまい。ドイツから5000社以上の企業が中国に進出しており、独自動車メーカーの販売台数の3〜4割は、中国で占められている。

 この問題にどう対処するかについては、今回の戦略でも踏み込んだ記述はなかった。

 中国に対して国際ルールの順守を迫り、自国の企業や経済への悪影響を最小限に抑えていくことは、日米欧各国の政府が抱える共通の課題である。

 ドイツが「戦略」に基づいてどのような対中関係を築くかは、英仏など他の欧州諸国にも影響を与えるだろう。モデルとなるような取り組みを進めてもらいたい。

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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