グルジア危機と台湾の不安 東西で揺れるアジア状勢 [櫻井 よしこ]

先にジャーナリストの櫻井よしこ氏が、グルジア問題はけっして台湾問題と無関係で
はないと問題提起していることを紹介したが(9月1日発行、第852号)、続けて、馬英
九総統の台湾について「ロシアに対抗するグルジアの決意とは対照的」だとして指摘し
たのは、中国の「現実の脅威に目をつぶった融和策」についてだ。

 来日した江丙坤・海峡交流基金会理事長らは中国への急傾斜を「両岸経済関係の正常
化」と表現し、それによって中国は台湾の民主化に共感を示すようになると政財界を説
いて回ったが、櫻井氏はそれは楽観論でしかないと舌鋒鋭く一蹴する。同感である。
「櫻井よしこブログ!」からご紹介したい。               (編集部)


グルジア危機と台湾の不安 東西で揺れるアジア状勢
【9月6日 櫻井よしこブログ!】 http://yoshiko-sakurai.jp/

 グルジア領内の南オセチア自治州とアブハジア自治共和国をめぐって、ロシア対グル
ジア・欧米諸国の関係が急速に悪化している。日本のメディア、テレビメディアはあま
り報じないが、まさに新たな冷戦の感が否めない。

 プーチン路線の下でメドベージェフ大統領が強気の発言をしたのは8月26日だ。ロシ
ア政府は前述の二つの自治区の独立を承認したうえで、「冷戦を恐れてはいない」と述
べたのだ。

 他方、グルジアのサーカシビリ大統領は「インターナショナル・ヘラルド・トリビュ
ーン」(IHT)紙の取材に応じ、ロシア軍への今回の敗北を認めながらも、二つの自
治区をグルジア領として奪還し、グルジア統一のために軍の強化に努める旨、宣言した。

 同大統領は米国ワシントンで法律を学んだ。アーミテージ元国務副長官らと親しく、
米国での人脈は幅広い。共和党の大統領候補、マケイン陣営の外交ブレーンがサーカシ
ビリ大統領の外交、安全保障政策に助言しているといわれる。大統領自身、こう述べて
いる。

 「マケイン氏とは、多いときで一日に二回、電話で連絡を取り合っている。民主党副
大統領候補のバイデン氏とも定期的に連絡し合っている」

 共和、民主、どちらの政権が誕生しようとも、グルジアの生命線である米国との絆を
保つ体制をつくっているのだ。かげりを見せているとしても、超大国に変わりはない米
国だけが、グルジアを守ることができると認識しているのだ。

 ロシアの強権外交は、アジア情勢にどう影響するのか。北京五輪を終えた中国は、ど
う変化していくのか。

 欧米諸国の北京五輪に関する厳しい報道は、日本の手放しの礼賛報道とは鮮やかな対
照をなした。情報の遮断と操作、言論の制限、チベット人やウイグル人をはじめとする
異民族への厳しい弾圧など、中国共産党の手法は変わらなかったが、国際社会の空気に
触れたからには、中国も民主化するとの楽観論がある。

 その種の希望的観測は、中国の脅威を最も身近に感じなければならない台湾において
も顕著である。ロシアに対抗するグルジアの決意とは対照的に、台湾で目立つのは、現
実の脅威に目をつぶった融和策である。

 馬英九総統は、北京五輪に「中華台北」の名で台湾チームを送り出した。台湾外相の
欧鴻錬氏は、外国の要人が台湾を訪れたとき「訪台」としていた従来の表現を「訪華」
に改めた。いずれも、中国が嫌う「台湾」の名称を避け、中国の一部であることを示す
「中華」の表現に統一したのだ。

 馬総統はまた、北京との「外交休兵(戦)」を宣言した。現在、台湾を国家として承
認する国は23に上るが、「それ以上に増やさなくともよい」とも言明した。中国政府に
とって、きわめて好ましい選択を、台湾政府は重ねているわけだ。

 もっと気になることがある。台湾海峡における中台の軍事力のバランスである。陳水
扁前総統は、米国から戦闘機を含む装備、武器の購入を切望したが、当時の野党である
国民党が反対して予算が取れず、購入できなかった。結果、台湾優勢だった軍事力のバ
ランスは、いまや中国優位に傾いた。

 米国は危機感を深め、総統に就任した馬氏が米国からの購入に前向きの姿勢に転じ、
台湾の軍事力整備は進むかに見えた。だが今、米国が台湾への武器売却に応じない状況
が生まれているのである。

 ユーラシア大陸はその西半分で一党支配のロシアが力に任せて勢力を広げつつある。
東半分で一党支配の中国がまやかしの「平和とスポーツの祭典」に「成功」を収めた。

 その勢いの前で台湾政府が迷走を続けている。グルジア・ロシアの対立から生じる冷
戦は、同時進行でアジアの激動の呼び水となる危険性が高い。



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