これからが総理大臣の正念場・男子の本懐 [西村 眞悟]

【2月18日 西村真悟の時事通信410号】

 ヒラリー・クリントン国務長官の二月十七日の行動を振り返ると、日本は彼女の外交活
動のお披露目の場として使われたのではないかと思われる。そのお披露目では、国務長官
と元大統領夫人という立場が上手く使い分けられていた。従って、彼女は、一人で二人分
の行動ができた。

 それにしても、宮中で皇后陛下を抱き寄せるなど、国務長官に許されることではない。

 さらに、何時の間に誰が企画したのか、日本の学生との「対話集会」まで準備されてい
たようだ。その和気藹々たる集会での学生(女性)の質問をテレビで観た。

 「どうすれば、貴方のように強くなれるのですか」

 やれやれ、そんなことアメリカ人に聞くな、相変わらずアメリカはあこがれの自由の新
天地という演出か、と思うと同時に、

「貴方は、日本が核ミサイルを保持するのに賛成か反対か」

というような質問をアメリカの国務長官にしかねない学生は、事前に集会から外されてい
ることが分かった。従って、この集会を誰が企画したのかと思った次第だ。

 かつて読んだことだが、昔から(十九世紀から)イギリスの名門大学には著名人は訪問
したがらなかったという。何故なら、如何に有名な人物でも、その講演中に学生から率直
で痛烈な質問を受けて立ち往生するからだという。ただ、学生達はユダヤ人のジスレリー
首相は暖かく迎えたという。

 この度の東京大学に於けるアメリカ国務長官を迎えた学生集会も、外国要人から「日本
の学生の集会には招かれても行きたくない、立ち往生させられる」というような評判が出
るような集会であっても不思議ではなかった。

 何故なら、アメリカは国務長官が大統領夫人の時代に、ジュネーブ合意によって北朝鮮
の核を容認したうえで日本に北朝鮮を援助させた。

 その結果が、日本に対する現在の北朝鮮の核の脅威につながっているからである。

 この度の学生集会を観て、昭和四十年代初頭に来日したロバート・ケネディーが、早稲
田で学生と話し合い、その後で手を繋いでアイススケートをして人気を博していた情景を
思い起こした。

 アメリカ民主党には、これで喜ぶのが日本の学生とマスコミだという伝統的な認識があ
るのだろうか。

 この度のクリントン氏の訪日が、単なるお披露目と思う理由は、首相や外務大臣との面
会時間の短さである。あれでは、厳しい国際情勢に関して十分な応酬はできないと思う。
こんにちは、大変ですがこれからもよろしく、という程度である。

 もっとも、国務長官の日本側のカウンターパートが東大の学生集会レベルであれば会談
時間の短さも納得がいく。

 私が、昨日この時事通信で提示した「アメリカの核の傘」が機能するか否かの課題は、
全く触れられなかったであろう。まさか、外相会談が、東大の学生集会と同様な問題意識
でセットされたのではあるまいと思うが。

 また、拉致被害者家族である横田夫妻との会見も三十分であった。ヒラリー氏が、母と
して娘として女として会ったにしては短時間過ぎる。通訳を介した三十分では、具体的な
話はなかったと思う。ただ、ヒラリー氏が被害者家族に会ったという事実によって北朝鮮
による拉致問題を内外へアピールしたことは確かである。

 家族会は、あらかじめ会談時間の短さを前提にして、「アメリカ国務長官」宛の英文の
要請文をヒラリー氏に手渡した。この内容は、アメリカ政府には勿論、日本政府に対して
も重いものである。

 さて、この度の国務長官訪日の唯一の成果は、来るべき日米首脳会談が決まったことだ。

 つまり、国内で小姑より執拗に足ばかり引っ張られている麻生総理の「正念場」が決ま
ったわけだ。

 そして、この正念場は、単にアメリカや国際社会からの要請ではなく、国内からの切実
な要請でもある。

 国内の声は、田母神前航空幕僚長に対する我が国民の大な支持に端的に表れている。

 政治家なら、この国内状況と国民の声を察知しなければならない。

 つまり、我が国を「戦後体制(敗戦国体制)」から脱却させて真の国家にしなければな
らないという日本国民からの要請に、麻生総理は応えねばならない。

 これが、麻生総理大臣の使命であり、私が麻生総理を支持する根拠である。

 時あたかも、麻生総理が頼りにしていたと思われる中川昭一大臣が辞任した。マスコミ
も評論家的議員も、麻生内閣は弱体化したと言う。

 しかし、逆境に遭遇すれば使命をさらに強く自覚するのが真の政治家である。

 多数に歓迎された翼賛体制の中で政権を運営するのは「アホ」でもできる。

 中川大臣の辞任は、実に残念だが、麻生氏はこの逆境をバネにしてさらに使命を自覚す
べきである。

 そこで、その使命とは何か。

 その第一は、集団的自衛権の行使である。

 これは、内閣総理大臣の決断でできる。

 内閣法制局の、例の人事院総裁のような顔をした官僚の抵抗があれば首を斬ればよい。

 そもそも、我が国は集団的自衛権は持っているが行使できない、というような自国を禁
治産者と同様に扱う法解釈に固執する官僚は国民の為にならない。

 その上で、明日にでも、インド洋ソマリア沖の海賊退治に自衛隊の派遣を命令すべきで
ある。

 この派遣に関しては、現在官僚ペースで国内法をいじくり回しているが、何度も言うよ
うに憲法六十五条の「行政権は内閣に属する」と、自衛隊法の「内閣総理大臣は自衛隊の
最高指揮監督権を有する」の二つの原則と国連海洋法条約で対処できる。

 もっとも、自衛隊法の「海上警備行動」(自衛隊法八十二条)においては、ソマリア沖
で他国の船を救助できず、武器使用も「正当防衛・緊急避難」に限られるなどという悪宣
伝が官僚筋やマスコミで為されているが、これは嘘である。

 条文をよく読めば、海上警備行動においては、海上における人命・財産・治安を守る為
に何でもできる。海域と国籍に限定はない。また武器使用も、初めから海賊の身体枢要部
だけを狙った攻撃が正当防衛・緊急避難に限られるだけで、海賊という人間ではなく海賊
船を壊すためには大砲やミサイルを使用してもよいのである。

 従って、自衛隊法八十二条によってもソマリア沖に堂々と自衛隊を派遣できるのだ。

 いずれにしても、明日にでも集団的自衛権を行使するのは当然であるという内閣の声明
の元に、自衛隊のソマリア沖派遣を命令することができる。

 この命令があれば、部隊は昼夜兼行の出航準備に入るのである。部隊とはそのように訓
練されている。今のような、官僚ペースのちんたらとした「検討」に任せていてはだめだ。

 もっとも、田母神氏曰く、「航空幕僚長であった私の首を防衛省内局は二時間で斬った。
やればできるじゃないか」

 集団的自衛権を行使するとは、我が国が国際的な脅威や共通の敵に対して友好各国と対
等に対処する国家であると宣言することである。

 その上で、麻生総理には昨日セットされることになった日米首脳会談に臨んでいただき
たい。

 その首脳会談では、日米同盟を対等な肩と肩を並べた同盟関係にリセットするために、
戦略核を八十パーセント削減するというオバマ大統領に対して、急速に核バランスが不利
になりつつあるアジアに於けるアメリカの核戦略とアメリカの核の傘に関して問い質すべ
きである。それも、如何にして我が国は独自の「核抑止力」を確保しなければならないか
という強烈な問題意識を持ったうえで。

 今この問題意識を持って毅然と対処しなければ、我が国は常に中国の「核の恫喝」の下
におかれ、独立国としての自立的な意思決定に重大な障害を抱え込むことになる。つまり、
独立性を失い、中国の属国となる。

 我が国の歴史を見渡しても、これほどの危機はかつてない。

 これが、「日本の正念場」であると共に「麻生総理の正念場」でもある。

 麻生総理においては、国家の正念場と自らの正念場が一致するとは、政治家冥利に尽き
て幸せ、本懐ではないか。

 最後に、中川昭一大臣の辞任に関して言っておきたい。

 かつて、イタリアのナポリサミットにおいて、体調不良で首脳会談を欠席した社会党委
員長をしていた総理大臣がいた。確か、お腹の調子が悪くて首脳会談を欠席したのである。

 これに対して中川氏は、イタリアのローマでG7の首脳会談は総てこなした。彼は世界
経済の健全化に関してアメリカを中心として起こってきた保護主義の傾向に警鐘を鳴らす
という貴重な存在だったはずだ。そして、G7会談という主要な仕事を終え任務を果たし
た。

 しかしその後で記者会見に臨む前に体調不良に陥った。

 ローマから帰った中川氏への非難を連日続けたこの度のマスコミの基準では、ナポリま
で行って、体調不良でサミットの首脳会談を欠席した総理大臣と、会談を終えて任務は勤
めたが記者会見で体調不良におちいった財務大臣と、「体調管理も政治家の責任」という
観点から何れがより強い非難に値するのか。

 前者は、そもそも何のためにナポリまで政府専用機で行ったのか分からない。しかし、
後者はローマでの目的は果たしている。

 それにしても、ナポリとローマの違いはあれ、イタリアのワインは何かヘンなのであろ
うか。

 私は、イタリアとイタリアワインを愛するが。

                                      (了)

(参 考)

「二二八記念台湾問題講演会」のご案内
講  師 : 西村 眞悟(衆議院議員)、阮美[女朱](台湾神学院名誉講師)
日  時 : 平成21年2月28日(土)17:45〜開場 18:15〜20:45
場  所 : 大阪市立阿倍野市民学習センター
      〒545-0052 大阪市阿倍野区阿倍野筋3-10-1-300 あべのベルタ3階
      TEL:06-6634-7951
参 加 費 : 1,000円
申し込み : 日本李登輝友の会
      E-mail:info@ritouki.jp  FAX:03-5211-8810 TEL:03-5211-8838
      〒102-0075 東京都千代田区三番町7-5-104号

「日本は侵略国家だったのか」
田母神前航空幕僚長講演会のご案内
講  師 : 田母神俊雄(前航空幕僚長)、西村眞悟(衆議院議員)
日  時 : 平成21年3月7日(土)13:30〜開場 14:00〜16:00
場  所 : 泉ヶ丘センタービル3F 大集会室
      大阪府堺市南区茶山台1-2-1 TEL:072-297-0171
     (泉北高速鉄道泉ヶ丘駅下車徒歩1分、1階がりそな銀行です)
会  費 : 入場無料(事前予約の必要はありません)
主  催 : 真悟の会・堺 TEL:072-277-4140

                                    以 上