【読者の声】 「台湾統一」という言葉遣いへの疑義  好田 良弘(会員)

 我が国では、最近の台中関係について語る際に、「台湾統一」という言葉が安易に使われています。しかし、国共内戦に敗れて逃れて来た中華民国が、大陸反攻を掲げつつ、実効支配していた時代とは違い、現在の台湾では、22の省と5つの自治区など、大陸を含めて統治しようと本気で考える人は、極めて特異な存在でしょう。従って、「統一」とは、中国側の一方的な主張に過ぎません。

 これと似た事例が、ロシアとウクライナの現状です。両国はともに、ソ連の構成国でしたが、ロシアによるウク

ライナへの侵攻を、再統一の試みとは呼びません。台湾にも中国への帰属意識を持つ人々が、一定数存在するように、ウクライナにもロシアとの一体化を志向する勢力が存在すると聞きますが、それでも、ロシアによる軍事侵攻を「ウクライナへの侵略」と呼ぶのが一般的です。

 それなのに、中国による台湾への侵攻を想定して、それを「統一」と呼ぶのは、誤解を招く表現です。というよりも、国名こそ変わらないものの、李登輝総統が主導した改革の結果として、中華民国の実態が大きく変貌している事実への理解不足が、こうした表現を横行させているのだと思います。

 具体的には、台湾の本土化により、現在の中華民国の統治機構は、既に大陸支配から脱却しています。そして、民主化が進行定着し、総統選挙では、民主進歩党と国民党の間で、二度の政権交代が実現しました。

 一方、中国では、この期間にも共産党の独裁体制が堅持され、むしろ、強化されつつあるとも言われています。つまり、李登輝総統の就任以降、中華民国と中華人民共和国は、全く逆の方向へと歩み始め、その結果として、両者の距離は埋めがたいほどに乖離しました。それは、ソ連崩壊後のウクライナが、ロシアとは逆の方向へと歩み、今ではEU(欧州連合)やNATO(北大西洋条約機構)への加盟を申請している現状にも似ています。しかし、その現状認識が、我が国を含めた第三者に、まだまだ浸透していません。

 その原因のひとつは、中国との衝突を避けるため、台湾だけでなく、日米等の周辺国も、中華民国の国名が象徴する「現状維持」を優先していることです。そのため、積極的に理解しようとする姿勢が無ければ、台湾内部の変化は伝わり難くなっています。

 ところが、瓢箪から駒が出るように、ロシアによるウクライナへの侵攻を例にとることで、中国による台湾の統一なるものの実態への、理解を促すことが容易になりました。この機会を捉え、日本李登輝友の会からは、「台湾統一」という言葉遣いへの疑義を示すことを提案いたします。

*好田良弘(こうだ・よしひろ)氏は日本李登輝学校台湾研修団の第1期生で、本会が毎年11月23日に靖国神社で執 り行っている「台湾出身戦歿者慰霊祭」の提唱者です。

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。


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